茨城県小美玉市の取り組み
紙帳票入力のデジタル化①
マイナンバー対応AI-OCRとRPAで、効率的で安定した行政業務を実現
小美玉市
市長公室 秘書政策課 政策推進係 主任 菊地 俊亮
総務部 行政経営課 情報政策推進係 主任 大場 瞬
総務部 税務課 税務係 主任 田村 直弥
※下記は自治体通信 Vol.33(2021年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
デジタル庁の創設を追い風に、各自治体では業務のデジタル化が進められている。その一方で、「どこから取り組んでいいかわからない」という自治体も少なくない。そうしたなか、小美玉市(茨城県)ではAI-OCRとRPAを活用し、紙帳票入力におけるデジタル化に取り組んでいる。導入の背景やその効果などを、同市の担当者3人に聞いた。
[小美玉市] ■人口:4万9,741人(令和3年8月1日現在) ■世帯数:2万1,314世帯(令和3年8月1日現在) ■予算規模:378億9,688万円(令和3年度当初)■面積:144.74km2 ■概要:茨城県のほぼ中央部に位置し、県庁所在地の水戸市と筑波研究学園都市の中間にあって、距離はどちらへも約20km。市の西部をJR常磐線、国道6号、常磐自動車道が貫き、南部には国道355号が通っている。全国から航空ファンが集まる茨城空港や、霞ケ浦湖畔から望む筑波山に夕陽が輝く「ダイヤモンド筑波」などが有名。
ICTを活用することで、市民サービスの向上へ
―AI-OCRとRPAを導入した背景を教えてください。
菊地 本市においても、人口減少が進む一方で、市民ニーズは多様化してきており、業務も煩雑化、高度化してきています。市長の施政方針において、「先進技術の導入による市民サービスの向上」が掲げられたことを踏まえ、本格的な導入に向けて検討を始めました。県内でも導入事例が少ないなかではありましたが、AI-OCRやRPAなどのICTを積極的に業務に活用することに大きな可能性を感じ、行財政改革の一環として業務の効率化に取り組むことで、市民サービスの向上につなげたいと考えたのです。
―どのように導入を検討していったのでしょう。
菊地 先進技術の分野で連携することを目的に、令和元年10月にNTT東日本と「多分野連携に関する協定」を締結したことが、ICT導入を進めるそもそもの契機になっていました。そのなかで、同社のAI-OCR『AIよみと~る』とRPA『おまかせRPA』を活用して実証実験を進めることに。
大場 そもそも、LGWANに対応している点が大きなポイントでした。また、事前にデモ画面を確認しましたが、専門的な知識がなくても使えることが評価につながりました。
田村 まずは、税務課で扱っている個人住民税の住基システム投入業務で実証実験を行うことになりました。毎年4~6月はこの業務が集中し、定型作業に人員が割かれることに苦慮していましたから。実証実験は令和元年の11月、約1ヵ月にわたって行いました。
新しく配属された職員も、すぐに戦力化が望める
―成果はありましたか。
田村 1件あたりの作業時間が1分42秒短縮され、約36%の削減につながりました。業務が集中する4~6月は1,700件の処理が予想されるため、換算すると48時間17分、約6日ぶんの削減になることが実証されました。時間削減はもちろん、読み取り精度の高さも評価したポイントですね。
大場 その後、子ども課における児童手当の現況届データ投入業務でも、実証実験を行いました。こちらは1件あたりの作業時間が1分28秒短縮され、約59%の削減につながりました。これを業務が集中する6~10月に換算すると、78時間14分の削減に。どちらも想定以上の効果がみられた結果、令和2年度から本格導入しています。
―導入してみていかがでしょう。
田村 業務効率化はもちろん、業務が簡略化されたことで、新しく配属された職員でも戦力として見込めています。その職員も、「非常に助かっている」と言っていました。
大場 たとえば、RPAのシナリオづくりでわからないところがあっても、電話をかけるとすぐにつながって回答を得られるので、スムーズに業務が行えています。
―今後における活用方針を教えてください。
大場 マイナンバーにも対応しているため、個人情報との紐づけがしやすくなり、より業務の幅が広がっていくことを期待しています。
菊地 庁内からの反響も多く、今後は各分野に広げていきたいと考えています。NTT東日本から、ICTの人材育成も含めたさまざまなアドバイスをもらいつつ、市民サービス向上に努めていきます。
山梨県富士川町の取り組み
紙帳票入力のデジタル化②
ふるさと納税と保育所の入所受付で、稼働時間を100%近くにまで削減
富士川町
政策秘書課 政策推進担当リーダー 秋山 博之
政策秘書課 政策推進担当 秋山 祐紀
ここまでは、マイナンバー対応AI-OCRとRPAを導入して紙帳票入力のデジタル化を推し進めている、小美玉市の取り組みを紹介した。人口1万5,000人弱の富士川町(山梨県)でも実証実験を行い、マイナンバー記載がある紙帳票入力が必要な「ふるさと納税の処理業務」と「保育所の入所受付業務」で大きな成果をあげたという。同町の担当者2人に、取り組みの詳細を聞いた。
[富士川町] ■人口:1万4,537人(令和3年8月1日現在) ■世帯数:6,292世帯(令和3年8月1日現在) ■予算規模:142億425万4,000円(令和3年度当初)■面積:112km2 ■概要:甲府盆地の南西部に位置し、西には、櫛形山や源氏山などの2,000m級の山々がそびえている。一級河川富士川舟運を中心とした物資の往来や身延山参詣などの人の行き来の拠点として栄え、物資の輸送や人々の足が鉄道や自動車に代わった現代でも、静岡と甲府、あるいは長野方面を結ぶ交通の要衝にある。町内の小室・高下地区は、立地条件の良さから、古くからゆずが生産されている。
LGWANに対応しているほか、高い識字率に注目
―富士川町がAI-OCRとRPAの導入を検討した理由はなんですか。
秋山博 そもそも当町は、人口1万5,000人に満たない自治体です。そのため、当然潤沢な予算はなく、さらなる人的補充も望めません。そうしたなか、住民サービスの質を維持していくためには、業務量はそのままでも業務時間を短くしていくことが求められます。自治体の業務には転記の作業が数多くあるため、そこに着目。AI-OCRとRPAをスモールスタートではじめてみて、業務効率化を図っていこうと考えたのです。
―導入を検討していくうえでの課題はありましたか。
秋山博 山梨県の田舎にあるため、どのように進めていけばいいのかの情報は周りに少なく、担当者がどれだけフォローしてくれるのか、といった懸念はありました。それでもインターネットを使ったり、民間企業から直接情報収集をしたりするなかで、NTT東日本のAI-OCR『AIよみと~る』の存在を知り、実際に来てもらってデモを見せてもらいました。
まず、注目したのはマイナンバーに対応しているのにくわえ、LGWAN環境で作業ができる点。そのため、情報漏えいの心配がないというのが大きかったですね。また、もともと読み取り精度は高かったのですが、他自治体との実績があるぶん、今後処理件数が増えていくことでさらに精度が高まるのではないかと。そこでまずは、令和2年の10~12月の間で、実証実験を行うことにしたのです。
空いた時間を、コア業務にあてていく
―どのように実証実験を行ったのですか。
秋山博 まずは、マイナンバー記載がある紙帳票入力が必要な、ふるさと納税の処理業務と保育所の入所受付業務で試しました。ふるさと納税の場合、1件あたり処理に5分かかっていました。それがその時期に約500件の処理を行うため、計約2500分かかっていたのが、わずか5分で終わるように。削減率は、99%です。保育所の入所受付業務は、トータルで約100時間の削減につながり、40時間あった時間外業務がほぼゼロになり、こちらも100%に近い削減率に。担当者からは「もっと早くに入れてほしかった」「ヒューマンエラーがなくなった」といった声が聞かれました。
それで、改めて入札を行った結果、AI-OCRは『AIよみと~る』、RPAは他社サービスを令和3年度から導入することにしたのです。
―今後の活用方針を聞かせてください。
秋山祐 現在は2つの業務のほか、予防接種や就学援助費の支給業務、身体障害者手帳の申請データの読み取りなど、計18項目で活用しています。これは、2つの成果に興味をもった各課から問い合わせがあった結果です。NTT東日本には、再度デモを見せに来てもらった結果、各課担当者のより深い理解につながっています。また、「どこまで小さい帳票まで読み取ることができるか」といった些細な疑問にも、電話で迅速に回答してくれるほか、場合によっては庁舎に足を運んでもらえるので助かっています。
秋山博 今後は、使える分野をさらに広げていきたいと考えています。また、マイナンバーにも対応しているため、本町でもマイナンバーカードの普及がさらに高まっていけば、より幅広い分野をカバーできると期待しています。
この取り組みを皮切りに、DXによる行政改革を進めていき、効率化して空いた時間をコア業務にあてていきたいですね。
支援企業の視点
紙帳票入力のデジタル化③
マイナンバー対応のツール活用で、効率化できる業務はさらに広がる
東日本電信電話株式会社 ビジネス開発本部 第二部門 北森 雅雄
ここまでは、積極的にAI-OCRとRPAの導入を行っている小美玉市と富士川町の取り組みを紹介した。このページでは、両自治体の取り組みを支援したNTT東日本を取材。担当の北森氏に、自治体の状況や紙帳票入力のデジタル化を進めていくうえでのポイントなどを聞いた。
単純作業のデジタル化は、効果がわかりやすい
―紙帳票入力のデジタル化を進めている自治体は増えていますか。
増えてきています。総務省の調査*1では自治体におけるAI-OCRなどが該当する「文字認識」のツール導入が275件と過去最多となっており、デジタル化が進んでいることを実感しています。自治体では、手書きの紙帳票を手入力する業務が多く、そうした単純作業に手を取られて本来のコア業務に支障の出るケースが散見されます。ですから、そのような業務からデジタル化を進めたほうが、自治体にとっても目に見えて効果がわかりやすいと言えるでしょう。
―そうした業務でデジタル化を検討するポイントはなんでしょう。
ここでは、紙帳票を読み取るツールとなるAI-OCRを検討するポイントをお話しします。まず、読み取り精度が高いこと。特にクセ字のように特徴のある字まで読み取れないと、その都度目視する必要があり、実務では使えませんから。次に、高いレベルのセキュリティ対策ができているか。インターネットに接続する仕様では、自治体も使いづらいでしょう。そして、サポート体制が充実しているか。メールによる問い合わせのみでは、どうしてもレスポンスが遅くなりがちに。たとえば、当社が提供している『AIよみと~る』は、そうしたポイントに対応しており、50以上の自治体で導入が進んでいます。
―詳しく教えてください。
まず、読み取り精度については、自治体とのトライアル*2にて約3万5,000字を読み取ったところ、97.6%という高い結果が出ています。また、当社のRPAツール『おまかせRPA』と組み合わせることで、稼働削減率58・6%という結果に。LGWAN内で閉じたシステム仕様になっているため、セキュリティ面も安心です。さらに、年中無休9~21時での電話サポート体制があり、問い合わせに対して迅速な対応も可能です。有償ですが、オンサイトで操作説明や読み取り設定を行う訪問サポートもあります。『おまかせRPA』の場合も、同様に電話サポートと有償の訪問サポートを行っています。
また、高レベルのセキュリティを確保したことで、さらに使い勝手の良い機能も実現しています。
マイナンバーに対応するため、高い基準をクリア
―それはなんですか。
マイナンバーの記載がある紙帳票の読み取りに対応している点です。住民から提出される申請書には、「税」や「福祉」分野を中心にマイナンバーが記載されています。ただ、こうした個人情報を読み取るには、「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」という高いセキュリティ基準をクリアする必要があります。
そこで、LGWANに閉じた強固なデータセンタにて、物理的に占有された領域を確保した管理体制の構築。さまざまな技術を用いた、アプリケーションの脆弱性への対策やアクセス制御、データ暗号化、通信暗号化などによるセキュリティ対策。フォルダを担当課別に作成し、IDごとに設定できるアクセス権限設定、アクセスログ管理などの技術的な安全管理機能の構築。こうした独自の強化を行い、令和2年11月からマイナンバー対応が可能になったのです。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
マイナンバー対応ができるようになり、『AIよみと~る』で扱える業務領域が広がりました。この『AIよみと~る』を提供し、さらに『おまかせRPA』を組み合わせることで、自治体のさらなるデジタル化に貢献したいですね。
北森 雅雄 (きたもり まさお) プロフィール
昭和62年、東京都生まれ。平成23年に東日本電信電話株式会社(NTT東日本)に入社後、自治体向けのシステムエンジニアとして、庁内ネットワークや公共機関向けアプリケーションなどのコンサルティングを担当。平成28年から現職にて、AI関連のサービス開発に従事。
東日本電信電話株式会社
設立 |
平成11年7月 |
資本金 |
3,350億円 |
従業員数 |
5,085人(令和3年3月31日現在) |
事業内容 |
東日本地域*3における地域電気通信業務*4およびこれに附帯する業務、目的達成業務、活用業務 |
URL |
https://www.ntt-east.co.jp/ |
お問い合わせ電話番号 |
NTT東日本 ICTコンサルティングセンタ 0120-765-000(平日9:00~17:00・年末年始を除く) |
※『AIよみと~る(LGWAN接続タイプ)』のご利用には、スキャナーなどの帳票類を電子化する機器および総合行政ネットワーク(LGWAN)への接続環境が必要です
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