香川県坂出市・三豊市の取り組み
要介護認定調査の効率化①
デジタル技術で業務を革新し、訪問調査員の「働き方改革」を実現
坂出市 かいご課 課長補佐 森 久子
三豊市 健康福祉部 介護保険課 課長補佐 橋村 嘉一
※下記は自治体通信 Vol.31(2021年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
調査対象者宅を1件ずつ訪問する介護保険の認定調査業務において、調査員の業務負担をなかなか軽減できないと悩む自治体は多い。そんななか、業務のデジタル化を進めることで、その負担軽減に取り組もうとしているのが坂出市(香川県)と三豊市(香川県)だ。両市の担当者に、取り組みの内容や期待する効果などを聞いた。
[坂出市] ■人口:5万196人(令和3年5月1日現在) ■世帯数:2万1,422世帯(令和3年5月1日現在) ■予算規模:465億2,251万5,000円(令和3年度当初) ■面積:92.49km2 ■概要:瀬戸内海に面し、本州と四国を結ぶ瀬戸大橋の四国側の玄関口。香川県下でも有数の桜の名所として知られる常盤公園、山城の歴史が残る城山、讃岐富士と称される飯野山などがあり、自然豊かな環境が特徴のひとつ。
「二重の手間」を解消し、調査員の業務負担を軽減
―認定調査業務のデジタル化に取り組んでいると聞きます。
はい。当市では、調査員が心身の状態を確認するための調査を行う際、聞き取った内容を紙ベースの独自メモに記録し、帰庁後、認定調査システムに入力しています。この聞き取り調査を、これまでの紙ベースのメモからデジタルにシフトしようと考えています。
―デジタル化に着手した背景はなんですか。
認定調査は要介護認定の根幹であり、調査員は、調査対象者の情報をわかりやすく明確に介護認定審査会に提供する必要があります。調査員は、聞き取り内容をもとに「調査票」を作成しますが、なかでも、調査対象者の個々の状態を記す「特記事項」の記入が大きな負担でした。たとえば歩行状態は、「日常的になにかにつかまれば歩けるが、呼吸苦があり5mの連続歩行はできない」といった記載が必要で、調査内容のすべてをその場でメモする必要があります。そして、「調査票」の作成時には、メモを見直して「特記事項」を清書するといった「二重の手間」がかかっています。結果、調査以上の時間を作成に要し、業務時間内に終わらないことも。そのほか、「特記事項」の記載方法を統一化することも課題でした。調査員の業務負担の軽減や個人差をなくすために、デジタル化を決めました。
―今後、デジタル化をどのように進めていきますか。
富士通四国インフォテックの協力のもと、同社のシステム『訪問調査モバイル』の実証実験を進めています。聞き取った内容をその場でタブレット端末に入力でき、そのデータをシステムにアップロードすれば「調査票」が作成できます。調査員の聞き取り内容をタッチパネル形式の選択肢から選ぶことで、「特記事項」が自動作成されます。たとえば、先ほどの「歩行」では、「歩行できるか」「つかまるものは」といった選択肢に回答すれば、文章が完成する仕組みです。
また、「特記事項」への追記機能もあり、必要な事項がもれなく記載できます。「二重の手間」が解消できるほか、より的確に調査業務を推進できると考えています。
[三豊市] ■人口:6万1,269人(令和3年4月1日現在) ■世帯数:2万3,290世帯(令和3年4月1日現在) ■予算規模:582億7,242万3,000円(令和3年度当初) ■面積:222.70km2 ■概要:平成18年に7町が合併して誕生した。香川県の西部に位置し、市の北西部は、瀬戸内海に突き出た荘内半島があり、その南部には、砂浜の美しい海岸線が続いている。市の中央部には三豊平野が広がる。
「準備」の時間が惜しいほど、増える調査員の業務負荷
―『訪問調査モバイル』の導入を検討しているそうですね。
はい。ほかの自治体と同様、当市でも「特記事項」の清書に時間を取られている調査員が多くいます。特にコロナ禍のいま、訪問先の滞在時間を極力短くすることが求められています。そのようななか、帰庁後の清書が不要になるくらいの「特記事項」を、訪問先で素早く入力できる『訪問調査モバイル』に高い関心を寄せています。また、「特記事項」が自動作成される機能は、経験の浅い調査員にとっては、確認事項の漏れが防止でき非常に有効だと考えています。
さらに当市では、この『訪問調査モバイル』について、もう1つ注目している機能があります。
―どのような機能でしょう。
訪問先の住所を地図上で自動的にマッピングし、最適な訪問ルートを検索してくれる機能です。調査員は、タブレット端末上に表示されるルートを確認しながら移動することができます。
従来、調査員は1日あたり約3件の訪問先が決まり次第、訪問先の住所を調べ、紙の地図を印刷し、効率的に回るためのルートを自分で調べていました。もちろん、調査業務を効率的に進めるための「準備」として必要なことですが、高齢化で介護認定の申請件数が増加し、ただでさえ個々の調査員にかかる業務負担が増えています。調査業務に直接関係のない「ルート検索」の時間をなくせることは、準備はもとより、調査業務の効率化にもつながるはずです。
―『訪問調査モバイル』になにを期待しますか。
調査員の「働き方改革」の実現です。介護認定の申請件数の増加以外にも、認定調査業務における専門性の高さから、調査員の負担が増す一方だという問題は、全国と同様、当市も直面しています。『訪問調査モバイル』を活用することで、介護度の判定において重要な役割を果たす認定調査を、調査員が正確かつ効率的に行える体制を構築できるのではないかと考えています。今後実証実験を行い、導入を検討していきます。
支援企業の視点
要介護認定調査の効率化②
デジタル革新が実現する、「残業削減」と「適正な要介護認定」
株式会社富士通四国インフォテック
第一システム統括部 自治体システム部 介護福祉グループ 近藤 徳大
ここまでは、調査員の業務負担軽減に向けて、認定調査業務を効率化するシステムの導入を検討する坂出市と三豊市の事例を紹介した。ここでは、システムを開発した富士通四国インフォテックの近藤氏を取材。改めて、自治体における認定調査業務の課題や、それを解決するシステムの導入効果などを聞いた。
認定者数は約3倍に増え、慢性化する「調査員不足」
―自治体では認定調査業務で、どのような課題を抱えていますか。
多くの自治体が「認定調査業務の増大に伴う、調査員の残業問題」に直面しています。ある民間シンクタンクの報告書によると、要介護・要支援の認定者数はこの15年で約3倍に増えています。一方、専門的知識を要する調査員の人員確保は進まず、慢性的な「調査員不足」が続き、調査員の残業時間が増加しているのです。また、適正な要介護認定のためには、調査員の経験差で調査結果の記載レベルにバラツキが生じることを解消しなければなりません。
―解決策はありますか。
介護認定審査会に提出する「調査票の作成を簡略化」するとともに、自治体によっては月間1,000件以上ある「調査業務の準備」まで効率化することで、調査員の残業は削減できます。また、調査結果の記載をだれでも一定レベルに統一できる仕組みも必要です。これらを実現するものとして、当社で『訪問調査モバイル』を開発しました。調査員が訪問先で行う聞き取り調査を、タブレット端末で行うシステムです。
―詳しく教えてください。
現在、多くの自治体が紙ベースで調査内容をメモしており、帰庁後に「特記事項」の手書き内容を再度読み直し、清書して「調査票」を作成する「二重の手間」がかかっています。『訪問調査モバイル』を活用すれば、訪問調査時の聞き取り内容を選択式のタッチパネルで登録することで、聞き取り内容の漏れがなくなり、「特記事項」の文章も自動作成されます。また、音声入力や手書きメモの機能で、定型化しにくい調査項目も現場でデータ登録できるように。帰庁後は、訪問調査で登録した内容がそのまま活用できるため「二重の手間」が大幅に削減されます。さらに、たとえば「歩行」の調査で「できる」の項目をチェックしたのに、「移動」の調査では「全介助されている」の項目をチェックした場合、エラー表示される「整合性のチェック機能」も実装。これまで調査員が行っていた整合性のチェック時間も削減できます。
「準備業務」まで効率化して、調査員の負担を大きく軽減
―「調査業務の準備」については、どのように効率化できますか。
『訪問調査モバイル』には、訪問先の住所がタブレット端末の地図上にマッピングされ、最適なルートが自動表示される機能があります。調査員は従来のように、地図をコピーして1件ごとにルートを調べる時間をすべて削減できます。また、管理者のシステムには、「調査員の空き状況」と、「申請者の希望日時」や「訪問先の場所」を照合したマッチング機能があり、最適なスケジュールを瞬時に作成できます。このように、調査業務だけでなく、その準備まで効率化することで、調査員の業務負担を大きく軽減できるのです。
―『訪問調査モバイル』を通じて、自治体をどのように支援していきますか。
デジタル技術を駆使し、調査業務を変革するこのシステムは、まさに自治体DXの推進につながります。調査員の業務負担軽減と調査内容の個人差をなくし、「働き方改革」と「適正な認定業務」の両方を実現したいと考えている自治体の方は、ぜひ当社にご連絡ください。
近藤 徳大(こんどう のりひろ)プロフィール
平成6年、香川県生まれ。平成29年、株式会社富士通四国インフォテックに入社。おもに介護福祉業務を担当する。
株式会社富士通四国インフォテック
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