※下記は自治体通信 Vol.51(2023年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
増え続ける要介護認定申請に対応するため、自治体では、要介護認定業務の一つである認定調査業務をどのように効率化するかが課題となっている。そうしたなか、IT事業を手がける富士通四国インフォテックの杉原氏は、「認定調査を効率化するためには、調査票を迅速に作成できる仕組みが必要。デジタル技術の活用によってそれは実現する」と語る。調査票の作成はどのように迅速化できるのか。同社の正木氏も交えて聞いた。
株式会社富士通四国インフォテック
公共第一システム統括部 自治体システム部
杉原 順一すぎはら じゅんいち
昭和61年、香川県生まれ。香川大学卒業後、株式会社富士通四国インフォテックへ入社。市区町村向け介護保険システムの導入、開発、保守業務を担当する。平成22年から現職。
株式会社富士通四国インフォテック
公共第一システム統括部 自治体システム部
正木 詠志郎まさき えいしろう
平成10年、愛媛県生まれ。松山大学卒業後、株式会社富士通四国インフォテックへ入社。市区町村向け介護保険システムの導入、開発、保守業務を担当する。令和2年から現職。
コロナ禍が一段落し、認定業務が一気に増える懸念
―自治体における認定調査業務の現状を教えてください。
杉原 多くの自治体が、増加する認定調査を今後どう推進すべきか不安を抱えている状況です。というのも、専門知識が必要な介護認定調査員の人員確保が進まない自治体が多く、慢性的な「調査員不足」が続いているからです。増加する一方の申請件数をなかなかこなせず、ときには、申請から認定までの長期化も生じています。
正木 新型コロナの感染症対策として行われていた「要介護認定の有効期間延長*」を、自治体は今年度で終了させることが求められています。そうなると、新たな認定業務が一気に増えることも予想され、業務の効率化は必須です。
―どうすればいいのでしょう。
杉原 1件ごとの調査票を迅速に作成できる仕組みが必要です。そうすれば、調査員は訪問件数を増やせ、増加する介護申請にも対応できるようになるでしょう。そのためには、「調査票作成時間の短縮」と「調査票の精度向上」がポイントだと考えます。現在、多くの自治体が紙ベースで行っている認定調査を改善することが必要です。
正木 調査票作成では特に、対象者の個々の状態を記す「特記事項」を正確に文章化する難しさがあります。それらの内容を現場でメモするという大きな手間だけでなく、帰庁後に清書する「二重の手間」もかかっています。さらに、調査員の経験が浅いことで調査結果の表現が曖昧になるケースは多く、調査票点検にも多くの時間がかかっており、場合によっては調査をし直す「手戻り」が生じることもあります。そこで当社では、「調査票作成時間の短縮」と「調査票の精度向上」に向けて、デジタル技術を活用した『訪問調査モバイルV2』を開発しました。現在、55自治体に導入されています。
*要介護認定の有効期間延長 : 厚生労働省が認めた特別措置。介護サービスの利用者が継続を希望する場合、介護認定の有効期間内に再度認定業務を受ける必要があるが、対面の認定業務を受けなくて済むように有効期間を延長している
タブレット端末の活用で、文章が自動作成される
―どのようなツールでしょうか。
正木 調査員が訪問先で行う聞き取り調査を、紙ではなくタブレット端末で行う仕組みです。入力は、聞き取り内容をタッチパネル形式の選択肢から選ぶだけです。たとえば、歩行に関する特記事項では、「歩行できるか」「つかまるものは」といった選択肢に回答するだけで、文章が自動的に作成されます。メモをする手間を最小限にし、調査員によって調査結果の表現が曖昧になることも防げます。入力したデータはシステムにアップロードすればよく、「二重の手間」をかけずに調査票を作成できます。また、「整合性チェック機能*」など、「手戻り」が生じるような矛盾した内容の記載を防ぐ機能もあります。
杉原 そのほか、「音声入力」や、訪問先へのルートがひと目でわかる「地図と連動した自動マッピング」といったさまざまな機能も搭載しており、認定調査業務の改善に寄与できると考えています。
―導入自治体からの評価はいかがですか。
杉原 「申請から認定までの期間が短縮した」「調査件数を増やせた」「調査員の残業がなくなった」といった声をいただいています。「デジタル田園都市国家構想交付金」を採択して導入している自治体も多く、「自治体DXを推進するソリューション」として認知が広がっていることを実感しています。自治体はいま、「自治体情報システムの標準化」を検討している最中かと思いますが、標準化とあわせた形で導入することも可能ですので、ぜひご連絡ください。
*整合性チェック機能 : たとえば歩行の調査で「可能」の項目をチェックし、移動の調査では「介助が必要」をチェックした場合、 エラー表示がその場で出る機能