※下記は自治体通信 Vol.33(2021年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
農業従事者の高齢化や人手不足を先端技術のチカラで補う、「スマート農業」に注目する自治体が増えている。そうしたなか、千葉市(千葉県)と佐賀市(佐賀県)は、「農業教育」と「バイオマス資源の活用」といった特色ある取り組みをそれぞれ進めており、いずれも「データ活用」を基点に据えたスマート化を目指している。千葉市農政部の表谷氏と、佐賀市バイオマス産業推進課の江島氏に、取り組みの詳細とその狙いを聞いた。
[千葉市] ■人口:97万7,838人(令和3年8月1日現在) ■世帯数:45万2,769世帯(令和3年8月1日現在) ■予算規模:8,878億200万円(令和3年度当初) ■面積:271.76km²
既存施設をスマート化拠点に。まずは農業技師の育成から
―千葉市では農業のスマート化に取り組んでいるそうですね。その背景はなんですか。
当市は長年、首都圏に新鮮な農産物を提供する役割を果たしてきましたが、近年は高齢化や人手不足により、農業を取り巻く環境が厳しくなっています。そこで、地域農業の成長産業化に向け、先端技術を取り入れたスマート農業を推進しています。具体的には、都市型農業の普及活動の拠点として昭和53年に開設された「千葉市農政センター」をリニューアルし、施設園芸を中心に、スマート農業の推進拠点とする計画を進めています。この取り組みでは、技術指導を行う農業技師の育成と地域農業者への技術普及に力を入れていく方針です。
―それはなぜでしょう。
先端技術の導入により、農業者は光や温度などの環境データの測定や遠隔制御が可能となりますが、これを生産性の向上につなげるには、測定したデータを適切に活用するノウハウが必要です。そこで我々は、施設園芸に関する豊富な技術とノウハウをもつ誠和との連携を模索し始めました。誠和は、自社のトマト栽培に統合環境制御システムを取り入れ、日本で初めて「10a当たり50t」という高収穫量を達成した実績をもっています。こうした実践的な栽培技術をもつ同社と連携することで、当市の農業技師は、先端技術に限らず、データ活用に関するノウハウを身につけられると期待しています。これにより、カンと経験にもとづくことも多かった農業技術を刷新し、地域でのスマート農業の普及につなげていきたいですね。
[佐賀市] ■人口:23万655人(令和3年7月末日現在) ■世帯数:10万2,412世帯(令和3年7月末日現在) ■予算規模:1,590億100万円(令和3年度当初) ■面積:431.82km²
資源循環型農業の生産性を、環境センシングで向上させる
―佐賀市バイオマス産業推進課では、農業に関してどのような取り組みを行っているのですか。
平成28年度に完成した「CO2分離回収プラント」によって、清掃工場から排出される余熱やCO2を回収し、植物工場や藻類培養向けに供給する事業を進めています。こうした、CCU*1産業の創出事業はいずれも民間企業との連携で取り組んでおり、今後も新たな農業団地の形成を考えています。ただしその際は、各施設における生産量を増やし、ビジネスとしての採算性を高めるための仕組みづくりも必要です。
―そうした仕組みをどのようにつくっていくのですか。
農業用ハウスの栽培環境を可視化する技術を導入したうえで、そこで得られたデータをもとにPDCAサイクルを回せる仕組みをつくっていきます。この一連の仕組みづくりにおいては、施設栽培や環境制御に関する知見が豊富な誠和との協業を検討しています。同社との協業により、「どれほどの余熱を与えればよいのか」「CO2はどの程度の濃度で供給すればよいか」といった検証を行い、生産性の向上を図っていきたいですね。
清掃工場から発生するCO2を農業に活用する本事業は、世界的にも先進性の高い取り組みです。「バイオマス産業都市」としての当市が誇るこのCCU産業の創出事業を、データ活用の知見を取り入れることで、さらに前進させていきたいと考えています。
適切なデータ活用こそが「成果を生むスマート化」の要諦
大出 浩睦おおで ひろのぶ
昭和61年、埼玉県生まれ。三井住友信託銀行株式会社を経て、平成28年、株式会社誠和に入社。統括本部部長兼研究開発部長や取締役営業部長などを歴任し、令和3年より現職。
―スマート農業に取り組む自治体は多いのでしょうか。
はい。農業振興に注力する多くの自治体が、先進的な技術を活用した実証実験や、その検討に着手しています。しかし、センシングや環境制御を行える機器を揃えても、得られたデータの活用方法がわからず、「農業の生産性を高める」というスマート農業本来の目的を果たせないケースも目立ちます。「収穫量や農業従事者の収入を増やす」といった具体的な成果を得るには、データをいかに適切に活用し、生産性の向上につなげられるかが重要です。そこで当社は、スマート農業を実現するための多様な支援を提案しています。
―具体的にどういった支援を行えるのですか。
データ活用方法や環境制御に関するノウハウのほか、独自開発したクラウドサービスの提供を通じ、農業のスマート化を支援します。クラウドサービスは、機器で測定した環境データや気象データから、収穫予測や需要予測が可能です。さまざまなデータをもとに収穫量の向上や農業経営の強化といった成果を生み出す仕組みを提供できるのが、当社の支援体制の強みです。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
当社は、かつて「3K」産業と揶揄されてきた農業の魅力を高めるために、創業から約50年にわたり、実践を通じて農業技術の向上に取り組んできました。そこで培ってきた栽培技術に関するノウハウを、地域農業の発展のために活かしていきたいですね。関心のある自治体のみなさんはぜひ、ご連絡ください。