広島県の取り組み
ショートムービーを活用した情報発信①
「コロナ」を皮切りに各種情報を、若年層に向けて『TikTok』で配信
広島県 総務局 ブランド・コミュニケーション戦略チーム
県政コミュニケーショングループリーダー 石田 雅之
主任 中和 知美
主事 鍋島 勢理
主事 五反田 未来
※下記は自治体通信 Vol.36(2022年3月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
近年は、さまざまなSNSがコミュニケーションツールとして幅広く利用されている。自治体もそうした流れを受け、行政情報を発信するため各種SNSを積極的に活用している。そうしたなか、広島県では、令和2年4月からモバイル向けショートムービープラットフォーム『TikTok』による動画配信を行っている。担当者4人に、取り組みの詳細を聞いた。
[広島県] ■人口:277万7,373人(令和3年11月1日現在) ■世帯数:124万5,044世帯(令和2年10月1日現在) ■予算規模:1兆7,512億円(令和3年度当初) ■面積:8,479.22km2 ■概要:南は瀬戸内海に面し、北西部には中国山地が広がっている。広島都市圏と備後都市圏を中心に工業(自動車産業)・商業が盛んな一 方、海と山の豊富な自然にも恵まれ、農業・漁業も盛ん。第二次世界大戦において、世界で初めて核兵器による攻撃を受けていることから、国際的に知名度が高い。 また、安芸の宮島と原爆ドームといったユネスコ世界遺産を有しており、通常は日本国外からの観光客も多い。
若年層に県政情報を、わかりやすく届けたい
―広島県ではどのようにして広報を行ってきたのでしょう。
石田 広報紙や広報番組にて、定期的に情報を発信し、WebサイトのSEOにもチカラを入れてきました。また近年は、SNSの利用者が増えていることから、『Facebook』『Twitter』『LINE』『Instagram』を活用した広報も積極的に行っています。
―『TikTok』を始めたのも、その一環でしょうか。
石田 一番のきっかけは、「新型コロナ」の感染拡大ですね。県発信の情報を、特に行政に関心が低いと言われている若年層にも届ける必要がありました。そこで若年層のユーザーが多く、短尺の動画でわかりやすく情報を伝えられる『TikTok』に注目したのです。湯﨑知事の後押しもあり、令和2年4月から公式アカウントを開設。運営するTikTok Japanとの連携強化のため、同年7月に、同社と連携協定を締結しました。
―どのように『TikTok』を活用しているのですか。
中和 開設当初は、湯﨑知事による、県内の感染状況や感染拡大防止策といった動画の配信が中心でした。定例会見のほか、若手職員が中心となって、自分たちで構成や撮影、編集を行い、動画を配信。1度目の緊急事態宣言の際は、毎日知事室を訪れて撮影していましたね。また、イラストが得意な職員が手描きのイラストを作成し、「新型コロナ」への注意喚起をうながす動画も制作しました。
石田 そのほか、働く人の話を聞く機会が持てない若年層のため、水族館の飼育員やシェフといった地元のプロフェッショナルの方々の仕事紹介動画を、TikTok Japanと共同で制作しました。仕事のやりがいや、広島で働くことの楽しさなどを語ってもらっています。
「クリエイター」の起用で、ユーザーから好意的な声が
―ほかに取り組んでいることを教えてください。
五反田 直近ではコロナ対策やワクチン接種といった情報を、よりわかりやすく伝えるため、TikTok Japanの協力を得て、『TikTok』クリエイターを起用した動画配信にも取り組んでいます。たとえば、悪役俳優ユニットの「純悪」さんによるコロナ対策や、高速指パッチンで有名な「指男」さん、VTuberの「樋口 楓」さんなどによるワクチン接種の啓発動画を配信。「おもしろい取り組みだね」「私も外出を控えます」など好意的なコメントが多く、きちんと情報が届いていると感じています。
鍋島 そのほか、県内のスポーツ選手やアナウンサーによる、新型コロナでガマンを強いられている県民に対しての応援メッセージ。さらに、県内で働く若手会社員へのコロナ対策に関するインタビューや平和記念式典のライブ配信など、幅広い情報発信を行っています。この1年半で、200本超の動画を配信しています。
―今後における『TikTok』の活用方針を教えてください。
石田 現在、フォロワー数が約1万6,000なので、それをさらに増やしていきたいですね。そのため、TikTok Japanの協力を得ながら、今後もさまざまな企画による動画の配信を行っていきます。
茨城県の取り組み
ショートムービーを活用した情報発信②
「音楽にあわせて踊るだけでない」さまざまな活用方法を実感
茨城県 営業戦略部 プロモーションチーム チームリーダー 谷越 敦子
インターネット動画サイト『いばキラTV』を運営し、県独自の情報発信を行ってきた茨城県。都道府県のなかでも早い段階から動画活用に取り組んでおり、若年層に県情報を届けることを目的として、令和元年9月からは『TikTok』を使った動画配信を行っている。いったいどのようなコンテンツを配信しているのかを、県の担当者に聞いた。
[茨城県] ■人口:284万9,735人(令和3年12月1日現在) ■世帯数:119万6,511世帯(令和3年12月1日現在) ■予算規模:1兆8,686億5,000万円(令和3年度当初) ■面積:6,097.39km2 ■概要:東は太平洋にのぞみ、北は福島県、西は栃木県に接し、南は利根川をもって千葉県、埼玉県に隣接している。県北沿岸部は、昭和初期から日立製作所を中心とした工業地域として発達したほか、県の南部には国立の研究機関・大学を中心とする筑波研究学園都市がある。農業や漁業も発達しており、メロンは出荷量日本一を誇り、「西のふぐ・東のあんこう」と並び称されるあんこうは、県を代表する冬の味覚として有名。
失敗を恐れずチャレンジ。『TikTok』活用もスムーズに
―茨城県では、早い段階から動画を活用した情報発信を行ってきたそうですね。
はい。茨城県は、都道府県のなかで唯一、県域の民放テレビ局がありません。そこで、県独自で映像による情報発信を行おうと、平成24年にインターネット動画サイト『いばキラTV』を開設しました。『YouTube』をメインに、観光スポットやグルメ、スポーツなどさまざまな県内の情報を配信しています。また、若年層に対して、より情報が伝わることを目的として、平成30年から「茨 ひより」というVTuberを公式アナウンサーとして起用。結果として若年層の視聴者も増え、現時点で『いばキラTV』のチャンネル登録者数は約15万人、動画の掲載本数は1万本を超えています。
その流れで、「多くの若年層が視聴している『TikTok』も活用してみよう」ということになり、令和元年9月から『いばキラTV』のアカウントを開設したのです。
―『TikTok』を活用するにあたり、庁内での調整はスムーズに進んだのでしょうか。
スムーズでしたね。もともと大井川知事が、「失敗を恐れずにチャレンジを」と就任当時から庁内に伝えており、新しいことに取り組みやすい環境があったのが大きいと思います。私が所属している「営業戦略部」も、積極的に茨城県にある良いものを売り込んでいこうということで、知事就任後に新しくできた部ですから。そういう意味では、「茨 ひより」の起用も問題なくスムーズにいきました。
―どのような動画を配信しているのかを教えてください。
たとえば、TikTok Japanの協力を得て「ぞのさんっ」さん、「あああつし」さんといった、独自の感性や撮影手法で動画配信を行っている人気の『TikTok』クリエイター4組とコラボをして、県内の名所を舞台に撮影した動画を配信しました。また、茨城県のことを知ってもらうことやリクルートを目的として、若手男性職員にインタビューを行う『VIVI男子』の動画。そして、茨城県の絶景を音楽と動画のみで紹介する『絶景茨城』といった配信を行っています。ちなみに『絶景茨城』シリーズでは、あんこう鍋といった料理も紹介しています。さらに、筑波研究学園都市の研究機関の技術に焦点を当てた、アザラシ型ロボット『パロ』の紹介動画も、県ならではの取り組みですね。
あんこう鍋の動画が、50万回以上視聴された
―手ごたえはいかがでしょう。
『TikTok』クリエイターとの動画は計10本配信し、計700万回以上視聴されました。人気クリエイターが地元に来たことで喜ぶ視聴者がいるほか、「この地域の高校は部活が強い」といった地元ネタを投稿する視聴者もいて、そこから視聴者同士のコミュニケーションにもつながっています。また、『VIVI男子』や『パロ』の動画も、多いもので20万回以上視聴されています。意外だったのは、ぐつぐつ煮ているあんこう鍋の動画が50万回以上視聴されたことで、音楽と動画だけで、これだけ反応が大きいのかと。正直『TikTok』を始める前は「音楽にあわせて踊らなければいけないのか」という印象しかなかったのですが、さまざまな活用方法があることを知りました。
―今後は『TikTok』をどのように活用していきますか。
今後は、県産品のPRも行っていきたいですし、若年層向けに、たとえば人権といった啓発系の動画も配信していきたいですね。
京都府京都市取り組み
ショートムービーを活用した情報発信③
視聴者参加型のライブ配信で、伝統産業品をクイズ形式で紹介
京都市 産業観光局 クリエイティブ産業振興室 担当係長 西村 和晃
京都市では、令和2年4月、京都が長年培ってきた伝統産業の魅力を新たなカタチで発信するため、産業観光局クリエイティブ産業振興室が新設された。それにともない、伝統産業の情報発信を幅広く行っていくために、『TikTok』の活用を開始したという。同市の担当者に、新しい部署が発足した背景や、『TikTok』の具体的な活用方法などを聞いた。
[京都市] ■人口:145万660人(令和4年1月1日現在) ■世帯数:73万410世帯(令和4年1月1日現在) ■予算規模:1兆8,876億8,900万円(令和3年度当初) ■面積:827.83km2 ■概要:794(延暦13)年から、1,000年以上にわたって都が置かれ、歴史のなかで日本の中心として栄えてきた。国内外から多く宿泊観光客が訪れる世界有数の「観光都市」にくわえ、伝統産業から最先端産業が共存する「ものづくり都市」としても知られる。おもな伝統産業には、西陣織、京友禅、京鹿の子、京くみひも、京扇子、京焼・清水焼などがある。また、八つ橋や京菓子、京漬物なども土産品として人気。
需要が徐々に減るなか、新しい施策が必要に
―産業観光局クリエイティブ産業振興室が新設された背景を教えてください。
もともと当市には、昭和49年に発足した伝統産業課があり、伝統産業を支援しつつプロモーションするといった取り組みを行ってきました。ただ近年、伝統産業の需要が徐々に減っていくなか、新しい施策を行う必要性を感じていました。一方で京都においては、京都国際マンガ・アニメフェア「京まふ」が毎年開催されたり、アニメの制作会社やゲーム会社があったりなど、マンガやアニメとの関連性が深い。たとえば、そうしたマンガ・アニメコンテンツと、伝統産業をコラボさせることで両分野を盛り上げることができないかと。それにともなう組織改編があり、産業観光局クリエイティブ産業振興室が新設されたのです。
現在、伝統産業品にマンガやアニメキャラクターをあしらった商品が、実際に販売されています。
―そうしたなか『TikTok』の活用を始めた理由はなんでしょう。
やはり、こうした取り組みの一環として、『TikTok』のメインユーザーである若年層に、京都における伝統産業の魅力を伝えるためですね。もともと伝統産業のファンは50代以降の世代が多く、そういった人たちは展示会といったイベントがあると、自分たちから情報を入手して来てくれる。一方で若年層は、伝統産業と言われてもピンとこないし、そもそも興味がない。『TikTok』なら、自ら検索しなくてもおすすめ動画としてコンテンツを視聴者に届ける仕様があり、たとえフォロワー数が少なくてもおもしろい動画があれば、いわゆる「バズる」可能性があると聞き、魅力を感じたのです。
18~24歳の割合が56%で、狙い通りの層に観てもらえた
―具体的な活用内容を教えてください。
『TikTok』を始めるにあたり、まずはマンガ・アニメのことは置いておき、令和2年3月にリニューアルオープンした、伝統産業品の展示と販売を行う「京都伝統産業ミュージアム」のPRを行うことにしました。これまで大々的にリニューアルのPRをしたかったのですが、コロナ禍の影響で、人を呼びたくても呼べない状況がずっと続いていましたから。TikTok Japanに相談した結果、『TikTok』クリエイターを起用し、クイズ形式で伝統産業品を紹介していく、ライブ配信をすることに。出演者だけでなく、構成やカメラ撮影にも『TikTok』クリエイターに参加してもらい、スマホの上半分でヒキの映像、下半分で伝統産業品のアップといった縦型2画面で配信。令和3年6月に実施しました。
―成果はありましたか。
約40分のライブ配信を行ったのですが、1万6,350人に視聴してもらいました。年齢層も18~24歳の割合が56%と、狙い通りの層に観てもらうことができたのではないかと思います。また、ライブ配信のため、クイズに視聴者がリアルタイムにコメントで答えてくれるといった、双方向のコミュニケーションが図れたのもポイントですね。伝統産業品も、茶筒でつくったスピーカーなど意外なものも多く、視聴者には新鮮だったようで、「ほしい」といったコメントもありましたね。
―今後は『TikTok』でどのようなPRを行っていきたいですか。
たとえば、若手職人にクローズアップした伝統産業の紹介動画や、マンガ・アニメに関する動画配信も検討しています。その結果として、実際に視聴者が伝統工芸品を購入するといった行動変容につなげていきたいですね。今回は「京都伝統産業ミュージアム」自体の公式アカウントによる配信でしたが、今後はTikTok Japanとの連携をより強化し、京都市の公式アカウントから動画を配信していきたいと考えています。
支援企業の視点
ショートムービーを活用した情報発信④
今後必要な情報プラットフォームは、「伝わりやすい」かつ「安全」なツール
TikTok Japan 公共政策本部 公共政策マネージャー 笠原 一英
これまでは、広島県、茨城県、京都市(京都府)の各自治体における『TikTok』の活用事例を紹介してきた。ここでは、『TikTok』を運用しているTikTok Japan (ByteDance株式会社)を取材。自治体における『TikTok』の利用状況や、『TikTok』の特徴を通じて、これから選ばれるプラットフォームに必要なポイントなどを聞いた。
動画内容や視聴者の目的が、多様化している
―『TikTok』を利用する自治体は増えているのでしょうか。
増えていますね。現在、行政機関や公的セクターなどのアカウント数は30ほどあり、当社と行政機関等が連携したプロジェクトも約20あります。もともと、平成29年7月から日本で『TikTok』の運営が始まり、徐々に活用の輪が自治体間で広がっています。
―運営当初と比べて『TikTok』の利用状況に変化はありますか。
はい。アプリ内の動画コンテンツが多様化傾向にあり、ユーザーから多岐テーマにわたっての有益な情報が求められるようになっています。『TikTok』の初期イメージは、若い年代の人たちが音楽にあわせて振付をしている動画が多い、という状況でした。ただ近年は、書籍の紹介だったり、料理のつくり方だったり、法律やビジネスの専門家がハウツー紹介や悩みの相談にのったりするなど、じつに多種多様なコンテンツが増えています。『TikTok』で紹介された書籍や食品などが実際にヒットする、「『TikTok』売れ」という言葉も生まれているほどです。こうした点から、『TikTok』は自治体の行政情報を、わかりやすいショートムービーとして伝えられ、かつ拡散される可能性が高い点が評価され始めているのです。
―そもそも自治体が『TikTok』を活用すると、どのようなメリットがあるのでしょう。
やはり、行政情報に関心がない若年層に情報が届けられる点ですね。しかも短尺動画で、内容が伝わりやすい点。また、ライブ配信も可能で、リアルタイムで情報を届けられるうえに、コメントを通じて双方向でのコミュニケーションも可能な点などです。さらに、視聴者の多くは「おすすめフィード」といわれるトップ画面から流れてくるおすすめの動画を受動的に視聴しているため、検索されなくても情報を届けられるのです。
その一方で、『TikTok』は安全性にもこだわっています。
不適切なコンテンツを、24時間365日チェック
―詳しく教えてください。
たとえば、コンテンツを24時間365日体制でチェックし、ガイドラインや各種法令などに即して不適切と判断された場合、コンテンツの削除といった措置を行います。実際、令和3年4~6月において全世界で約8152万本の削除を実施し、そのうち87.5%が誰かに視聴される前に削除されています。そのほか、年齢認証を徹底するほか、未成年者の利用を親が管理できる「ペアレンタルコントロール機能」。さらに、他人を傷つけうる特定のキーワードをユーザーが投稿しようとした際、「本当にこのコメントを投稿しますか?」といったポップアップが出る「Rethink機能」を搭載しています。特に「Rethink機能」は、視聴者が誰かを傷つけてしまう「加害者」になるのを防止できます。
こうした取り組みで、すべてのユーザーが有益な情報を得られる安全なコミュニティであることを最重視して、運営しているのです。
―自治体に対する今後の支援方針を教えてください。
行政広報やプロモーションへの『TikTok』利活用を通して、自治体がこれまでリーチできていなかった層に、行政情報を安全な環境で届ける支援をしていきたいですね。現在、当社では自治体政策への貢献活動として『TikTok』の利活用推進を行っているので、興味のある自治体のみなさんは気軽に問い合わせてください。
笠原 一英 (かさはら かずひで) プロフィール
大学を卒業後、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)に入構。海外企業の日本への進出支援業務に従事する。令和元年、ByteDance株式会社に入社。中央省庁や地方自治体における『TikTok』利活用の推進活動を行っている。
TikTok Japan (ByteDance株式会社)
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