

長野県松本市/三重県東員町の取り組み
介護予防対策の強化
「AI×電力メーター」で、誰一人取り残さないフレイル対策を
東員町 健康長寿課 課長 児玉 豊和
※下記は自治体通信 Vol.49(2023年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
「健康」と「要介護状態」の中間に位置するとされる「フレイル」。適切な治療によって進行を抑え、要介護状態になることを防ぐためにも、自治体では、フレイルリスクの高い高齢者の早期把握に向けた取り組みを進めている。そうしたなか、松本市(長野県)と東員町(三重県)では令和5年度から、各家庭の「スマートメーター」を活用したフレイル対策を開始している。両自治体担当者に、取り組みの詳細を聞いた。
長野県松本市の取り組み

問診に時間を要するため、チェックできるのはごく一部
―松本市では、フレイル対策をどのように進めてきましたか。
当市では、高齢者の健康サークルなど地域で自由に集まれる「通いの場」に職員が出向いて実施する「フレイルチェック」を続けてきました。令和3年度は、福祉分野の職員総出で約1,000人の高齢者をチェックし、フレイルリスクの高い方々には、生活習慣の改善指導などを行っています。当市は、「健康寿命延伸都市」を宣言しており、職員が高い意識でフレイル対策に取り組んでいるなか、課題と感じる部分もありました。
―どのような課題でしょう。
チェックできる高齢者が限定されている、という課題です。フレイルの判定には丁寧な問診が必要なため、チェックには時間がかかります。それでも令和3年度は約1,000人をチェックできましたが、これは当市の7万人近い高齢者の一部に過ぎません。また、通いの場に参加できない高齢者は、チェックを受けられません。どうにかして、多くの高齢者にチェックを受けてもらう方法がないか考えていたとき、電力量計の「スマートメーター」を活用して、フレイルをチェックできるシステムがあると知りました。
―どういったシステムですか。
中部電力が開発したシステムで、各家庭のスマートメーターから収集する電力の使用状況を基に、AIがフレイルリスクを検知する仕組みです。簡単に説明すれば、起床後は電力使用量が上がり、就寝後は下がります。外出すれば使用量は下がります。電力の使用状況にこうしたメリハリがなくなればフレイルの可能性が高く、それをAIが分析・検知する仕組みです。高齢者のフレイルリスクを世帯別に自動でチェックできるこの方法なら、対象者が限定されることはなくなります。しかも、令和2年度に東員町(三重県)が実証実験を行い、「約8割の精度でフレイルを判定した」という実績がありました。当市でも精度確認のために、実証実験を行いました。
「フレイルリスク」を、確実に検知できる精度
―実証実験の内容はどのようなものですか。
令和4年度に、約100人の単身高齢者の協力を得て行いました。まずは職員が全員にフレイルチェックを行い、その結果と、数ヵ月後にAIが電力データを基に分析した結果を照合しました。すると、初回の分析では、AIが「フレイルリスクが高い」と判定した4人の高齢者は、職員がフレイルと判定した高齢者のなかに入っていました。健康な人を、フレイルリスクが高いと誤って検知したケースはなかったのです。フレイルリスクを高い精度で検知するこのシステムは、当市のフレイル対策に貢献してくれると考え、令和5年度からの本格導入を決めました。
―今後のフレイル対策の方針を聞かせてください。
当市は令和3年度末から、市立病院に「フレイル外来」を設けており、今後は医療機関との連えて携を強化していく方針です。適切な治療を医療機関で受けてもらうためにも、フレイルチェックを通じた「フレイルリスクの把握」が重要になります。多くの高齢者にこのシステムの活用を促していきたいと考います。
三重県東員町の取り組み
先に紹介した松本市が、新たなフレイル対策のシステムを導入する際、参考にしたという東員町での実証実験。同町ではその実証実験後、システムの試験運用も行ったという。その成果を、同町担当者に聞いた。

実証実験で高い精度を確認。独自のフレイル対策推進へ
―東員町では、スマートメーターを活用したフレイル対策の実証実験を行ったそうですね。
はい。当町では住民フレイルサポーターによる「フレイルチェック事業」を県内自治体のなかでいち早く導入し、「通いの場」でフレイルチェックを行ってきました。そうしたなか、三重県から実証実験の紹介を受け、フレイル対策を強化できるか検証したいと考えました。というのも、前期高齢者と後期高齢者の人口割合について、多くの自治体ではおおむね「5対5」なのに対し、当町は「6対4」です。現在は三重県内で要介護認定率がもっとも低い状況ですが、今後は要介護認定率が上がり、医療費や社会保障費が急増する恐れがあります。その対策のためにも、フレイル対策の強化を考えていました。
―実証実験の内容について教えてください。
一人暮らしの高齢者24人の協力を得て、令和2年8月から半年間、AIがどれくらいの精度でフレイルを検知できるか検証しました。24人全員にフレイルチェックを行い、フレイルリスクを判定。その結果と、AIが電力データを基に検知した結果を比較しました。すると、フレイルリスクの高い高齢者のうち、約8割の方々をAIが「フレイル」と検知しました。この時点で、フレイル対策を強化するだけの高い精度があると判断し、実際にこのシステムを使ってフレイル対策の試験運用を行いたいと考えたのです。約100人の高齢者を対象に、令和3年12月から令和5年3月にかけて実施しました。
11人のうち8人が、健康な状態に回復
―試験運用ではどのような成果が得られたのでしょう。
AIによる分析結果を毎月受け取りました。フレイルリスクの高い高齢者はトータルで11人にのぼり、地域包括支援センターの専門職がすぐに訪問し、生活習慣の改善指導などを行いました。すると、訪問を重ねるほど健康状態の改善傾向が見られ、試験運用が終わる頃には8人が健康な状態に回復しました。
―この結果をどう受け止めていますか。
フレイルリスクの高い高齢者を早期に把握し、迅速に対応することが、フレイル対策ではいかに重要かを改めて感じました。そうした場合、AIの検知精度が重要になりますが、前回の実証実験では約8割だった精度が、今回は95%にまで上がったのです。これは、1年以上にわたって取得した参加者の電力データを、AIが追加学習したことで実現したようです。
―今回の成果を、今後どのように活かしていきますか。
誰一人取り残さない形のフレイル対策に活かします。実は今回の試験運用では、AIが「健康」と評価した高齢者も訪問し、フレイルリスクの危険度や、フレイル予防に関する情報を提供しました。当町は今後、医療費や社会保障費が急増する恐れがあるため、健康な高齢者のフレイル予防も積極化する必要があります。健康な高齢者の訪問には、当町と連携協定を締結している明治安田生命の営業職員に協力してもらいました。令和5年度から本格導入するこのシステムを通じて、私たちから積極的にアプローチする「アウトリーチ型」のフレイル対策を行っていきます。
支援企業の視点
自宅の電力メーターを活用するので、すべての高齢者に対策が打てる
事業創造本部 地域包括ケアユニット プロジェクトマネージャー 山本 卓明
事業創造本部 課長 兼 ネコリコ シニアマネージャー 山中 泰介


―自治体では、フレイル対策でどのような課題を抱えていますか。
山本 「高齢者の一部にしかフレイルチェックを実施できていない」という課題があります。これは、「人手不足」という、チェックする自治体側の問題もありますが、そもそも「すべての高齢者がチェックを受けるわけではない」という住民側の問題が根底にあります。ご本人が動かなければ、自治体は状態を把握できない。この課題を解決するシステムとして開発したのが、『eフレイルナビ』です。スマートメーターで計測した電力データをAIが分析し、自動でフレイルリスクを検知するので高齢者本人の負担になりません。
―どのようにして、AIが検知するのでしょう。
山中 要介護の手前であるフレイルの状態になると、掃除や料理をしなくなる、外出の頻度が減る、睡眠のリズムが乱れるなど、健常者とは異なる傾向がみられます。私たちは研究を重ね、こうしたフレイルの人の生活習慣が電力の使用傾向に表れていることを見つけました。スマートメーターが計測する30分ごとの電力使用量を分析して、ある期間の高齢者の「外出時間」「睡眠時間」「家事などの活動量」といった情報を抽出します。それらの情報に基づき「フレイルの人」と「健常者」の生活パターンを大量に学習したAIが分析し、フレイルリスクを算出する仕組みです。
―自治体の反応はいかがですか。
山本 松本市や東員町が行った実証実験の結果を受けて、多くの自治体から問い合わせをいただいています。全国どこの自宅にでもあるスマートメーターを活用する『eフレイルナビ』なら、すべての高齢者を対象にフレイルチェックが簡単に行えると考えています。
設立 | 昭和26年5月 |
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資本金 | 4,307億円 |
売上高 | 2兆7,051億6,200万円(令和4年3月期:連結) |
従業員数 | 2万8,365人(令和4年3月末現在:連結) |
事業内容 | 再生可能エネルギー事業、原子力事業、海外事業、コミュニティサポートインフラ関連事業など |
URL | https://www.chuden.co.jp/ |
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