※下記は自治体通信 Vol.59(2024年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自然災害が全国各地で激甚化・頻発化している昨今、自治体職員は住民の命を守るために過酷な災害現場で作業にあたる機会が増している。古いタイプの防災服の場合、素材の観点などから現場における職員の負担となるケースが多い。そのため、防災服を刷新する自治体が増えており、静岡県は約30年ぶり、中野区(東京都)は約35年ぶりにリニューアルを図ったという。それぞれの担当者に、取り組みの詳細を聞いた。
[静岡県] ■人口:353万2,209人(令和6年6月1日現在) ■世帯数:152万4,811世帯(令和6年6月1日現在) ■予算規模:2兆2,864億1,200万円(令和6年度当初)
■面積:7,776.99km² ■概要:日本のほぼ中央に位置し、世界文化遺産の富士山や歴史ある温泉地の熱海や伊豆など、人気の観光地が点在している。
厚手の綿素材では、身体を動かしにくい
―防災服を見直したそうですね。
はい。当県では、阪神淡路大震災が起こった翌年の平成8年から同じ防災服を着用してきました。同震災では火事の被害が大きかったことを受け、当時は難燃性を重視して綿を多く含んだ厚手の生地を採用したそうです。しかし、約30年が経過し、昨今の災害現場で求められる防災服のニーズとは合わなくなっているという話が課内で上がっていました。そこで、令和4年から防災服のリニューアルの検討を始めたのです。
―リニューアルを検討する際に重視したことはなんでしょう。
まずは災害現場にて、支援物資を荷さばきすることなどを想定し、身体を動かしやすい機動性です。また、酷暑の夏に災害対応をしたり、熱海市土石流災害の際に職員が現地で連泊対応したりした経験から、快適性も重視。加えて、県の方針で物品調達の際は環境配慮素材であることが必須でした。そうした条件で絞り込んだ結果、ミズノ社の防災服を導入することに決定。全県対応の観点から全職員を対象に、令和5年度に約5,000着を先行導入し、令和6年度と併せて計約7,000着を導入予定です。
先行導入の防災服を着用した職員からは「動きやすい」「デザインがかっこいい」などと好評です。
[中野区] ■人口:34万745人(令和6年6月1日現在) ■世帯数:21万6,908世帯(令和6年6月1日現在) ■予算規模:2,704億1,700万円(令和6年度当初)
■面積:15.59km² ■概要:武蔵野台地の中央部に位置し、「中野ブロードウェイ」をはじめ、国内外のさまざまな文化や個性が集まっている。
通気性や伸縮性に乏しく、職員の評判もよくなかった
―防災服をリニューアルした背景を教えてください。
当区が使用していた防災服は、導入から約35年が経過しており、通気性や伸縮性に乏しく、特に風水害が多い夏の時期での着用は辛いため、職員の評判もよくありませんでした。そこで、リニューアルすることに決定したのです。
―重視した点はありますか。
やはり、夏でも活動しやすい着用感と快適に過ごせる速乾性を重視しました。また、以前は胸章しかなかったため、一目で「中野区職員」だと判別できる視認性も求めていました。入札の結果、ミズノ社の防災服に決定。当区では、災害発生時に全職員が対応する態勢を構築していますので、令和5年度から3ヵ年かけて約2,200着を配布予定で、現在は先行して約700着を配布済みです。
導入後は、スポーツメーカーならではの着用感と速乾性を実感しています。加えて、背中に「中野区」と記載されているうえに蛍光色のため、夜間の屋外での災害対応でも見分けやすく、区民からも「区の職員だとわかりやすい」という声をいただいています。また、快適な着心地から、普段から上着として着用する職員も見かけます。
スポーツウェアの機能や設計は、災害時に対応する職員の一助になる
ミズノ株式会社
ワークビジネス事業部 アパレル企画ソーシング・ 生産管理課
山下 浩二やました こうじ
昭和45年、香川県生まれ。平成4年に名古屋商科大学を卒業後、ミズノ株式会社に入社。現在、ワークビジネス事業部に所属。
―自治体が防災服を見直す際のポイントはなんでしょう。
近年、自治体職員は、猛暑が続く出水期に災害対策にあたる機会が増えています。一方で、厚手の綿など昨今のニーズに合わない素材の防災服を着用していることが多く、それが職員の負担となっているという話をよく聞きます。そのため、過酷な状況でも動きやすい機能性や着心地を重視する自治体は多いです。また、着用スタイルもシャツをズボンに入れるタイプから、普段でも気軽に羽織れるようなジャケットタイプを望む声も増えています。当社では、スポーツの世界で培ってきたウェアの機能や設計のノウハウを活かして、そうしたニーズに応えられる防災服を自治体向けに提供しているのです。
―自治体に対する今後の支援方針を聞かせてください。
引き続き、災害時に対応するあらゆる職員の一助となるアイテムとして、防災服の提供をしていきたいです。たとえば災害派遣も増えるなか、地域住民への認知や現場での役割の明確化として視認性を求められるのであれば、ウェアに入れるロゴを反射材を使って提供することが可能です。また、環境面に配慮する自治体に対しては、エコ素材のウェアも用意できます。
さらに近年は、「全職員に貸与したい」という自治体が増えており、そうした場合は、一括でなくとも複数年の分納などフレキシブルに対応します。いざというときに、職員のみなさんが同じウェアを着用してチーム一丸で困難に対処できるようにサポートができればと思います。