※下記は自治体通信 Vol.60(2024年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
自治体では、域内企業の業務効率化と生産性向上を目的に、さまざまなDX支援策を実施している。DXに関する「講座」の開催もその1つ。たとえば宮崎県では、「講座への参加企業が一部に偏り、DXに関心の低い企業への啓発につながらない」という悩みを抱えていた。そうしたなか、同県では、令和5年度から新たな講座を開いたところ、参加企業に広がりが生まれたという。その講座とはどのような内容か。担当者の2人に聞いた。
[宮崎県] ■人口:103万2,663人(令和6年7月1日現在) ■世帯数:47万4,966世帯(令和6年7月1日現在) ■予算規模:9,238億4,000万円(令和6年度当初)
■面積:7,734km² ■概要:北は祖母山、南は霧島連山に挟まれ、水資源が豊か。山間から流れ込む水を活用した水力発電は、国内3位の発電量を誇る。マンゴーなどの果物のほか、「チキン南蛮」が有名。
宮崎県
総合政策部 産業政策課 産業デジタル担当 副主幹
小牧 信也こまき しんや
宮崎県
総合政策部 産業政策課 産業デジタル担当 主事
山下 真緒やました まお
以前のデジタル化支援策では、企業への広がりが弱かった
―DXに関する新たな講座を開催した経緯を教えてください。
小牧 令和3年経済センサスで、当県の労働生産性を示す指標は399万円となり、全国平均の599万円を大きく下回っています。その対策として、令和4年度から庁内に「産業デジタル担当」を新設し、「デジタル化による業務効率化」を中心に、企業の労働生産性向上に向けた支援を行っています。
山下 じつは同担当が発足する以前も、プログラミングやAI活用法などを学ぶ講座を実施していましたが、デジタルリテラシーの高い参加者からの応募がある一方、毎回似たような顔ぶれで、県内企業全体への広がりは感じられませんでした。また、当時からデジタル化を支援する補助金制度を設けていましたが、講座と同様に、特定の企業による申請に偏り、全体の申請件数は伸び悩んでいたのです。こうした経緯から、DXに関心の低い企業でも参加しやすい「講座」を行い、業務デジタル化への啓発が必要だと考えました。そこで、民間からの提案を募り、企業のデジタル化支援で実績のあるFunTre社を選定し、同社の『デジタルリスキリング講座』を令和5年度から開始することに決めました。
―どのような効果がありましたか。
山下 想像以上に参加者層の広がりを感じています。同社は架電やメルマガ、SNS広告など多様な手法を用いた「草の根的な広報活動」で、広く県内企業に参加を促してくれました。結果、令和5年度は、230人以上の参加者を集めることができました。加えて、デジタル化支援補助金*の申請件数も全体で前年度比約1.4倍に上昇しました。これは、参加者たちの「デジタル化」に対する意欲が高まったからだと考えています。
*デジタル化支援補助金 : 正式名称は、産業デジタル実装支援事業費補助金。宮崎県の施策の1つで、効率化・省力化といった生産性向上につながるデジタル技術等の導入に対して最大2,000万円を補助する(令和6年度)
実践的手法を学んだ参加者が、企業内でデジタル化を推進
―どういうことでしょう。
小牧 同講座では、対象となる受講者を「経営層」「リーダー層」「一般従業員層」に分け、それぞれの業務レベルで対象者が抱える課題に有効なデジタル化手法を重点的に学べます。プロジェクト管理ツールや人事管理システムの活用といった取り組みやすい実践法を学べるうえ、企業内でデジタル化を進める際は、同社によるアドバイスを受けられることもあり、積極的に取り組む企業が増えています。実際、受講前はPCすらあまり使用していなかった企業が、紙の伝票廃止に成功するという事例も出てきています。
―今後の目標を教えてください。
小牧 県内企業のあいだで、デジタル化の機運が高まっていると感じています。今後もデジタル化による業務効率化を支援し、産業全体の労働生産性も底上げしたいですね。
実践的な内容を学べる講座なら、日々の業務に落とし込める
谷田部 敦やたべ あつし
昭和59年、栃木県生まれ。平成21年、東京大学大学院を修了。BASFジャパン株式会社に入社し、マーケティング業務や専門的な開発営業といった業務に従事した。平成23年にFunTre株式会社を設立。
―自治体による「企業のデジタル化支援」をどう見ていますか。
大きく2つの課題があると見ています。1つは自治体が提供する「講座」の存在について知らない企業が多いこと。もう1つは、デジタルになじみの薄い企業にとっては講座の内容が難解で、参加しても理解できないという問題です。
―どうすればいいのでしょう。
まずは徹底して講座を「周知」することが必要です。その点当社では、『デジタルリスキリング講座』を開催するにあたり、アナログ・デジタル双方による広報活動で、参加者の増加につなげています。そのうえで、同講座では、どんな層の参加者でもすぐにデジタル化を実践できる内容を教えています。たとえば、経営層には「デジタル化の戦略」、リーダー層には「導入と実践を主導する仕組み化」、一般従業員層には「基本的なデジタルツールの理解」と、人材を三層に分けてそれぞれの業務に落とし込みやすい方法を教えました。また、デジタル知識が浅い初心者層も受講できるよう補講なども行っています。その結果、宮崎県では、参加者たちがデジタル化への意欲を高め、積極的な社内提案を行って企業を動かす事例も増えました。こうした企業に対しては、当社が伴走してデジタル化の成功率をより高めます。
―今後の自治体への支援方針を教えてください。
当社では、自治体による補助金制度を活用したデジタル化の進め方なども教え、制度の普及・利用促進に向けた取り組みも支援しています。企業のデジタル化支援に課題を感じている自治体は、ぜひお問い合わせください。