※下記は自治体通信 Vol.60(2024年9月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
人口減少に伴う過疎化により、地方では多くの公共交通機関が厳しい経営状況に直面している。こうしたなかでも自治体には、住民生活に欠かせない移動手段を守るために、地域公共交通の維持が求められている。この状況について、地域公共交通のDX推進支援やシステム開発を手がけるジーネックス代表の柴田氏は、「交通課題の解決にITの活用は有効だが、地域個別のニーズをいかに汲めるかが重要」だと指摘する。指摘の詳細を、同氏に聞いた。
柴田 俊しばた しゅん
昭和45年、岐阜県生まれ。平成元年に地元の高校を卒業後、富士通株式会社に入社。平成4年に退職後、オーストラリアに渡り、平成7年にG-UP COMPUTERを創業。平成8年に帰国、有限会社ジーアップを設立し、代表取締役に就任。平成30年、株式会社ジーネックスに組織変更。
システムとニーズのズレで、「利用されない」地域交通も
―地域公共交通の維持をめぐる、自治体の動きをどう見ていますか。
「一般路線バス事業者の99.6%が赤字」という国土交通省の統計結果*を受け、多くの自治体は地域公共交通の維持に危機感を抱いています。「限られた財源で地域の公共交通を維持する」という難題を乗り越えるには、移動の需要と供給をマッチングさせて公共交通の運営を効率化できるような、ITの力が有効です。そのため、自治体のなかにはデマンド交通の運用アプリといったシステムに注目するケースも増えてきましたが、そうしたシステムの導入を検討するには注意が必要です。
―それはなぜですか。
当該システムの導入が、必ずしも個々の地域課題・ニーズに即した解決策とはなりえない場合があるからです。既成のシステムは、あくまでもその開発元が特定の交通課題を想定し、固めた要件に従って開発したものです。当然、地域の交通課題を解決するために開発されたものではありますが、導入する地域によって地理的条件や利用者の数・属性、運行事業者に依頼できる業務の範囲は異なります。特に、1日の移動需要が極めて少ない過疎地域では、システムとニーズのわずかなズレにより、「ほとんど利用されない」という事態にも陥りかねません。
―どうすればよいのでしょう。
地域の実情に根本から合ったソリューションを見つけ出すことが重要です。当社では、多くの自治体と過疎地域の公共交通課題の解決に取り組んできた実績を活かし、そうした「最適解」を探るお手伝いをします。公共交通の課題解決にはデジタル化が有効な手段の一つではありますが、すべての問題をデジタル化によって解決できるわけではありません。当社では、自治体の予算や、利用者のニーズ、運行事業者の状況などを総合的に考慮し、課題を明確化します。そのうえで、必要な部分はデジタル化し、紙や人の手で行う方がよい部分はアナログの運用も残すといった、地域に本当に合った解決策を提案するのです。
―具体的に、どういった提案ができますか。
たとえば、地域公共交通のDXソリューション『ロコバス』では、シンプルで小さな機能を組み合わせる形で提供できます。「バスの予約システム」をはじめ、利用者の利便性を高める「バスロケーションシステム」「デジタルチケット」などの機能も用意しています。いずれも現場の声をもとに利便性と実用性を追求し、改良を重ねてきたものです。これらの機能を部品のように組み合わせれば、「予約はデジタル化するが、チケットは従来通り紙を使う」といった、個々のニーズへ柔軟かつ高度に適応したソリューションになるのです。
また、この秋からは、現場の声から生まれた新たなサービスの提供を開始する予定です。
*国土交通省「令和4年版交通政策白書」より
人による細やかなサービスも、利用者からは求められる
―どのようなサービスですか。
デマンド交通の予約を当社のコールセンターが受け付け、乗り合わせなどの調整をし、ドライバーへ運行ルートを伝える『ロコバス コールセンター』というサービスです。従来の予約システムでは、「アプリからの予約入力では詳細なニーズへの対応が難しい」「高齢者が多い地域ではスマホアプリが浸透しにくい」といった声が寄せられていました。そこで当社は、自社開発の運行ルート生成システムを、人による電話受付サービスで補完することで、より多くの住民が利便性を感じながら、デマンド交通を利用できるようにしたいと考えたのです。
自治体は、我々が提供する機能やサービスを組み合わせた「特注」のソリューションで、地域の実情に合った公共交通の確保を目指せます。ぜひご連絡ください。
[湖西市] ■人口:5万7,564人(令和6年7月末日現在) ■世帯数:2万5,248世帯(令和6年7月末日現在) ■予算規模:445億9,440万2,000円(令和6年度当初) ■面積:86.56km²
課題
公共交通機関の利便性を高めるため、市内企業のシャトルバスに市民が乗れる実証実験を令和2年度から開始した。一般利用者は予約が必要なため、『ロコバス』の予約システムを導入。想定する利用者は高齢者が多いため、シンプルな使い勝手などが導入の決め手となった。
導入効果
シャトルバスを運行する企業の管理担当者を含め、システムの使いやすさが好評を得ている。また、システムを柔軟にカスタマイズできる点も市は高く評価。LINEとのAPI連携や、電子決済などの機能を追加で実装し、ニーズに応じて利用者の利便性を向上できている感触を掴んでいるという。
実用性の高いシステムにより、通学手段にデマンド交通が定着
[由仁町] ■人口:4,578人(令和6年8月1日現在) ■世帯数:2,296世帯(令和6年8月1日現在) ■予算規模:90億846万7,000円(令和6年度当初) ■面積:133.74km²
課題
若者が進学する際に家族で町外に転出する「人口の社会減」が課題だった。あわせて、札幌方面へ運行する路線バスが廃止となったのも機に、北広島との間をつなぐデマンドバスの運行を始めた。予約システムには、ハード面の整備が不要な点などを評価し、『ロコバス』を採用した。
導入効果
LINEとの連携といったオプション機能の実装に加え、予約を直感的に行えるようにするためのUIの調整や、機能のカスタマイズを経て、実用性・利便性の高いシステムを構築できた。これにより、札幌圏へ通学する学生の足としての利用が定着するなど、活発な利用につながっている。