※下記は自治体通信 Vol.62(2024年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
地球温暖化対策への社会的な要請を受け、各自治体では、それぞれ独自で対策を進めている。公用車への電気自動車(以下、EV)導入は代表的な施策の1つだが、その効果を最大化するには、公用車の運用自体の抜本的な見直しが必要との指摘は多い。これに対して長野県では、配車・充電制御を最適化するためのシステム実証実験を行い、その後、本格導入を進めている。実証実験の成果や今後の運用ビジョンについて、同県担当者の相田氏に聞いた。
[長野県] ■人口:198万9,964人(令和6年9月1日現在) ■世帯数:85万5,579世帯(令和6年9月1日現在) ■予算規模:1兆5,076億1,868万3,000円(令和6年度当初)
■面積:1万3,561.56km² ■概要:本州のほぼ中央に位置し、山地の総面積が県の84%を占める山岳県。周りには標高3,000mクラスの高い山が連なっており、「日本のやね」と呼ばれている。千曲川と犀川が日本海に流れ、天竜川と木曽川は太平洋に流れ込み、主な川の周りには盆地が広がっている。
EV導入の増加で顕在化した、2つの問題
―長野県が公用車へのEV導入を進めた経緯を教えてください。
当県では、令和3年6月に「長野県ゼロカーボン戦略」を策定し、2050年までのゼロカーボン実現に向けた2030年度までのアクションを定めています。この2年前に発生した「令和元年東日本台風」の際に県下最大の河川である千曲川が決壊し、甚大な被害を受けた当県としては、地球温暖化対策により一層力を入れる決意がこの戦略に投影されています。さらに、県の事務事業における地球温暖化対策の取り組みをまとめた「第6次長野県職員率先実行計画」もあわせて策定していますが、このなかで重要施策の1つに掲げたのが「公用車のEV化」でした。令和2年度から試験的に導入してきたEVですが、この計画に沿って更新時期を迎えたガソリン車を順次EVへ切り替え、令和5年度には全庁で計88台にまで増えてきました。ただし、その段階でおもに2つの問題が顕在化してきたのです。
―具体的に教えてください。
1つは、電気料金の増大という問題です。公用車の利用はほとんどが日中のため、EVの充電タイミングが夕方に集中することでピーク時の電力需要が従来よりも大幅に伸び、契約電力を超過するおそれが出てきたのです。もう1つは、公用車の予約・配車管理の複雑化という問題です。当県では、軽自動車と普通車の2車種のEVを導入し、ガソリン車とあわせて運用していますが、航続距離はそれぞれに異なります。そのため、行き先や用途などを考慮し、予約状況に応じて最適な配車を行う必要があります。EVの台数が増えてくることでそれらの調整が複雑化し、従来のように人手で管理することが難しくなってくることが予想されました。そこで、令和2年12月にDX戦略推進パートナー連携協定を結んだ丸紅に相談したところ、提案を受けたのが車両管理システム『おまかせEV』でした。
15部署、469人が参加して行った実証実験
―どのようなサービスですか。
利用者が日時・目的地・希望車種などを入力して予約すると、システムが庁内の公用車利用全体のバランスを鑑みて車両を配車してくれるサービスです。EVで行ける距離にはEVを優先的に配車し、行けない距離には燃費の良いガソリン車が配車されます。それにより、EVの稼働率を最大限に高めながら、公用車全体を無駄なく効率的に運用できる仕組みです。あわせて別の部署では、パナソニック エレクトリックワークス社(以下、パナソニック)との間で同社が提供する充電制御システム『Charge-ment(チャージメント)』の導入を検討していました。これは、複数EVの間で充電タイミングを調整・制御することにより電気料金の上昇を抑制するシステムです。当県では、この2つのシステムを連携させることで最適な形で運用改善を図れるのではないかと考え、両社に相談をもちかけ、実証実験を行う運びとなりました。
―内容を詳しく教えてください。
実験は、先行的にEV導入を進めている松本合同庁舎で令和5年7月11日から8月末まで行いました。EV21台、ガソリン車48台の計69台を対象とし、EVを配置または配置予定の15部署、469人に参加してもらいました。実験の目的に定めたのは、車両管理システムと充電制御システムの連携とその効果検証です。具体的には、連携システムの構築により、EV予約時に入力された目的地から走行予定距離を把握し、ほかの予約状況と車両のバッテリー残量に応じた最適な配車を行うこと。さらに充電器の接続状況をタイムリーに確認しアラートを出すことで、確実な充電サポートも目指しました。同時に、バッテリー性能などEVに対する不安を解消し、利用促進を図る狙いもありました。
予約管理と充電制御で、年間9万円超/台が削減へ
―結果はいかがでしたか。
まずは、充電制御による消費電力のピークカットの効果が確認できました。環境部の試算では、1台当たり年間2万4,348円、6kWの急速充電設備を採用する場合は、じつに5万8,440円の電気料金の削減効果が見込まれるとのことでした。一方、車両管理システムによる効果としては、年間9万168円の削減が見込まれるとの試算が出ました。この数字は、一括管理と配車制御によってもっとも電費効率に優れる軽EVを最大限に活用するなど、最適な形でEVを配備することで得られる初期費用削減や電費改善、電力ピークカットによる電気料金削減といった効果を加味したものです。
―大きな削減効果ですね。
ただし、今回の実証実験では、試算の前提としていた車両の一括管理は実施できず、従来の部署ごとによる車両管理を踏襲して予約・配車を行っており、上記の数字はあくまでも試算です。車両管理の効率化効果を最大化するためには、部署の垣根を越えた全庁による一括管理が望ましいのは言うまでもなく、従来の個別最適から目指すべき全体最適へといかに移行するかは今後の課題です。
運用管理のデジタル化で、業務改革へのデータを収集
―今回の実証実験を、どのように総括していますか。
前述のコスト削減効果は大きいですが、我々DX推進課として何よりも評価しているのは、車両管理業務がデジタル化されることで運用状況が「見える化」される効果です。現場の職員は、自部署に公用車を確保しておきたいと思うものですが、デジタル化で明らかになる実際の稼働率や稼働状況は、今後の一括管理への移行や運用業務改革に向けた重要なデータになります。実際に、実証実験期間中にも職員から100件以上にのぼる要望が寄せられ、システムの改変や運用プロセスの改善に役立てられました。これらの成果を受け、今年9月から『おまかせEV』を導入し、10月からは『Charge-ment』との連携を開始しています。
―長野県における今後のEV運用ビジョンを聞かせてください。
今回の実証実験では、充電サポートなどの成果もあって、EV活用に対する不安も一定程度は解消されています。公用車管理も部署単位から一括管理への移行に向けた議論が始まりました。この動きと合わせて、今後はEV活用をより一層促進しながら、運用の効率化、さらには公用車台数の最適化にまでつなげていきたいと考えています。そして、運用管理のデジタル化によって空いた時間や労力を、県民のために使える環境を構築していきたいですね。
公用車へのEV導入②
配車と充電のシステム制御が、「公用車EV化」の障壁を取り除く
ここまで紹介した長野県のEV導入促進の取り組みを支援したのが、車両管理システムを提供した丸紅と充電制御システムを提供したパナソニック エレクトリックワークス社だった。ここからは、両社の担当者である多田羅氏、末富氏の2人に、EV導入を進める自治体を取り巻く課題や、長野県で課題解決に貢献した上記2システムの特徴、導入効果などを聞いた。
多田羅 孔明たたら こうめい
平成30年4月、丸紅株式会社に入社。再エネ電源開発や電力小売事業の担当、大手自動車会社へ出向しEV関連事業の立ち上げに携わったのち、令和5年4月より現職。
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社
エネルギー・ IoTソリューションセンター EVソリューションチーム 主幹
末富 貴博すえどみ たかひろ
平成26年4月、パナソニック株式会社に入社。電力計測関連機器の技術開発を担当したのち、現職。
公用車の運用改善議論が再燃
―EV導入を進める自治体には、どのような課題がありますか。
多田羅 市町村合併や職員数・拠点数の縮小を経験した多くの自治体では、公用車の余剰や稼働率低下に課題を感じているようです。そのうえ、社会的要請を受けてEV導入を進める中で、予約・配車業務の複雑化や導入原資の不足といった問題も加わり、「費用や人手を要する現状の公用車の運用管理をどう改善していくか」という議論が再燃しています。
末富 同時に、EVの導入台数が増えるに伴い、ピーク電力の上昇という課題も顕在化しています。公用車を充電するタイミングは夕方に集中し、電力需要のピークと重なりますので、庁舎全体はもとより、地域全体への影響も考慮した充電制御が求められています。長野県の事例が示す通り、この2つの問題は密接に絡み合っています。そこで我々は、今年4月から両社が提供する「充電制御」と「車両管理」のシステムを連携させ、1つのパッケージとして自治体への提案を始めています。
―それぞれのシステムの内容を詳しく教えてください。
多田羅 当社の車両管理システム『おまかせEV』は、公用車の運用をスムーズにします。特徴は「配車最適化」機能で、利用日時や目的地までの移動距離、車両タイプなどの予約条件に応じて、アルゴリズムが自動で環境性能の高い車両を優先的に配車します。ガソリン車やハイブリッド車と混在してEVが運用され、EV自体も軽自動車や普通車など異なる車種をあわせて運用する自治体が多い中で、環境性能の高い順番から車両1台当たりの稼働率を最大化し、環境負荷の低減効果を高めながらEV導入の促進を支援するサービスです。
末富 当社が提供する充電制御システム『Charge-ment』は、複数台のEV充電器の充電電流や充電タイミングを制御することで、電力ピークの発生を回避し、受電設備の新設・増強の抑制、電力料金上昇の抑制を可能にします。庁舎全体の受電設備の容量や将来のEV導入計画も鑑み、充電設備の設置、さらには導入後の運用サポートやエネルギーマネジメントまでをワンストップで支援します。
余剰車両の削減なども可能に
―両システムの連携で、どのような効果が実現されるのでしょう。
多田羅 たとえば、『おまかせEV』によってEVの稼働率を高めることができれば、それに伴って1台当たりの充電回数や充電時間は当然増加します。そうなると、一斉充電による電力ピーク上昇の問題はより深刻になり、充電制御は一層必要性が高まります。その際、『Charge-ment』とのシステム連携があれば、ピーク電力を気にせず、EVの利用促進を図ることができます。環境性能の高い車両の稼働率が上昇することによって、結果的に環境性能の低い車両は徐々に配車されなくなります。結果として、更新時期に合わせて環境性能の低い車両から高い車両へ切り替えたり、余剰車両を削減したりすることにもつながり、公用車の最適配置も可能になります。
末富 両システムの連携を実証した長野県での事例では、EV導入期ならではの課題も浮き彫りになり、その対応においてもシステム連携の成果が実感されました。
―それはどのような課題ですか。
多田羅 自治体において、「EVは導入しても利用が進まない」という課題を耳にしますが、それはバッテリー容量への不安が背景にあるからです。たとえば、目的地までの距離などを勘案すれば、バッテリー残量が80%でも十分に足りる場合でも、心理的要因で不安を感じEVを嫌厭してしまうといったケースは少なくないようです。そこで長野県での実証実験を経て、利用促進を目的に、充電時は毎回フル充電することを前提とし、職員の不安を解消するためのシステム変更も実施しました。このような要望は導入初期特有のものかもしれませんが、こうした現場からのフィードバックは今回の実証実験での重要な収穫であり、今後両社で自治体でのEV利用促進を後押しする際にも利用者視点の対応力は活かされると考えています。
地域全体への影響も考慮した、EV活用を支援
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
末富 自治体で導入が進むEVや充電器について、今後は庁舎の枠を越えて地域全体でのエネルギーマネジメントやEVシェアリングなどにも注目が集まっています。システム連携の成果によって、こうした利用促進や機能拡張のニーズにも対応していきたいと考えています。
多田羅 非常用バッテリーとして、災害時などには庁舎機能はもとより地域全体のレジリエンスを高める役割が注目されてきます。その際には、より広い視点でのバッテリーの管理・制御が必要になってきます。こうした対応はまさに、両社によるシステム連携の意義にほかなりません。EV利用に幅広いニーズを持つ自治体のみなさんは、ぜひお問い合わせください。