※下記は自治体通信 Vol.63(2025年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
地域経済の振興策として多くの自治体が展開する地域商品券事業。DX機運が高まる近年は、商品券の電子化により、職員の業務負担軽減や利用者の利便性向上が図られている。しかし一方で、期間限定の商品券では、「効果が限定的」といった声も聞かれる。これに対し、桐生市(群馬県)では、「電子地域通貨」の仕組みを導入し、持続的な経済効果の域内循環創出に手ごたえをつかんでいるという。同市担当者に導入の経緯とその効果を聞いた。
[桐生市] ■人口:10万1,393人(令和6年10月末現在) ■世帯数:4万9,251世帯(令和6年10月末現在) ■予算規模:886億7,243万円(令和6年度当初) ■面積:274.45km² ■概要:群馬県の東南部に位置し、栃木県の足利市と接し、西は赤城山まで達する。市街地には渡良瀬川と桐生川が流れ、山々が屏風状に連なり、水と緑に恵まれた地に歴史と伝統が息づく。古くから織物のまちとして発展し、奈良時代のはじめには絹織物を朝廷に献上。江戸時代には「西の西陣、東の桐生」とうたわれ、織物の一大産地となった。織物産業の繁栄を今に伝える町並みがいたるところに残り、近代化遺産の宝庫となっている。
スマホのない高齢者も使えるデジタル経済施策が必要に
―桐生市が電子地域通貨を導入した経緯を聞かせてください。
德竹 当市ではこれまで地域経済の振興策としてプレミアム付き地域商品券事業を何度か実施してきました。これは市民の方々から大変好評でしたが、一方で、商品券の印刷費や商品券販売に関わる市職員の業務負担、さらに換金時の事務負担といった課題もありました。
関口 これらの課題を受けて、令和3年度にはキャッシュレス決済普及を目的としたポイント還元事業も試行しましたが、採用した決済方式では市外でも広く利用できてしまい、経済対策の目的からずれてしまう側面がありました。また、スマホを持たない方々は対象にできなかったことも課題でした。デジタル施策において誰も取り残さないことは重要なテーマです。そこで、市民のみなさまを巻き込んだ新たなデジタル経済施策を検討した結果、令和4年8月にプロポーザルを通じてトラストバンクの電子地域通貨プラットフォーム『chiica』の導入を決めたのです。
―導入を決めた理由はなんですか。
関口 スマホアプリ以外に専用カードが用意されているため、スマホを持たない子どもや高齢者の方々も使える仕組みであることです。さらに、場所や用途、有効期限などを設定して市が自由に発行できるため、庁内のさまざまな事業と連携できる点も評価しました。当市では、この地域通貨を「桐ペイ」と名づけ、令和4年11月の「プレミアムポイントキャンペーン」から運用を開始しました。
全庁的な幅広い活用が、さらに大きな効果を生み出す
―導入効果はいかがでしたか。
德竹 これまで約32億5,000万円相当*のポイントを発行していますが、印刷費や人件費を大幅に抑えることができています。従来の業務負担を考えると、短期間にこれだけの金額相当数のポイントを発行するなど考えられないことです。現在、加盟店舗数は初年度の2倍以上の約780店舗、登録会員数は5万人に増えています。このうち1割強は専用カードを利用しており、誰も取り残さないデジタル化が実現できています。令和6年度は、市民の方々の要望に応え、対象人数を増やすためにプレミアム率を引き下げたのですが、こうした制度変更も迅速に行えました。
関口 当市では導入当初から、さまざまな部署の事業でも桐ペイを活用していく構想があり、実際に活用事業では大きな効果が出ています。子育て相談課の「出産・子育て応援金事業」では住民の手に届くまで、現金給付では約1ヵ月を要していたところを最短5日に短縮、健康長寿課の「健康ポイント事業」では桐ペイをインセンティブとして付与することで参加者数が約4倍に増加しました。そのほかにも新たに活用したいとの相談が多くの部署から届いています。桐ペイを政策とつなげることで、経済インフラとして電子地域通貨を運用する強みを実感しています。
*令和6年11月末時点
自立した持続可能な地域づくり。電子地域通貨なら実現できる
株式会社トラストバンク
chiica統括部 統括部長
浪越 達夫なみこし たつお
香川県出身。ECコンサルタントなどを経て、平成29年に株式会社トラストバンクに入社。ふるさと納税事業、アライアンス事業などを経て、令和5年より現職。
―地域通貨の運用をめぐる自治体の動きをどう見ていますか。
以前はコロナ禍での事業者支援をきっかけにデジタル地域通貨を導入する自治体が多かったのですが、最近はDX推進や業務効率化のツールとして捉える動きが増えています。ただし、そこでは高齢者が取り残されてしまうケースがあります。また、商品券事業が毎年単発で終わってしまい、得られる波及効果が限定的になるという課題もあるようです。そこで当社では、自治体が主体的に発行・運用でき、より広く行政施策と連携可能な電子地域通貨プラットフォーム『chiica』を提案しています。
―特徴を教えてください。
スマホを持たない人でも使える専用カードが用意されていることは特徴の1つです。そのうえで、発行主体が自治体であるがゆえに、コントロール可能なポイントベネフィットを自治体自身が持てるということが大きな強みになります。経済的メリットをベースに行政のポイントシステムを住民の大半が利用するようになれば、電子地域通貨が核となって各種行政施策の効果を最大化させ、持続可能性を持たせることも期待できるのです。
―今後の自治体への支援方針を聞かせてください。
当社では、『chiica』を通じて住民、加盟店、行政の三者が主役となる持続可能な地域づくりに伴走していくため、これまでに導入いただいた約50の自治体との取り組みや成功事例を体系化してまとめています。これをもとに今後も地域住民に喜んでもらえる事業を自治体と共創していきたいと考えています。