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先進事例2024.07.18

Tourism1.5~ツーリズムフォワード~(vol.9)地域×スポーツ

[提供] 株式会社JTB
この記事の配信元

オリンピックやワールドカップなど世界的なスポーツ大会の開催、海外プロスポーツチームの来日など、盛り上がりを見せる日本のスポーツシーン。近年は、インバウンドの回復も相まって、大都市だけでなく地方都市でも、スポーツに関するイベントや取り組みが積極的に行われています。

本記事では、「地域とスポーツの関係性」について日本各地の事例や有識者の意見をもとに紐解いていきます。

1 五感で愉しむ スポーツツーリズム

パリ五輪の開催も目前となり、世界的にも注目されるスポーツツーリズム。本章では、スポーツが地域にもたらす影響や注目の先進事例、推進のポイントなど「スポーツ×地域振興」の最前線についてスポーツ庁参事官の田中一明氏にお話を伺いました。

プロフィール
田中 一明
文部科学省 スポーツ庁参事官 地域振興担当
田中 一明
兵庫県神戸市出身。1997年農林水産省入省。技術会議事務局を皮切りに、経産省、水産庁、内閣官房(司法制度改革推進本部事務局、総合海洋政策本部事務局、行革推進本部事務局)、農村振興局、大臣官房、内閣府(食品安全委員会事務局)、関東農政局、九州農政局等を経て、2022年6月より現職。スポーツによる「まちづくり」の推進に携わる。


スポーツを通じて生まれる観光体験

──まずはスポーツを観光に取り入れることの意義について教えてください。

「スポーツ」と「観光」は、いずれも非常に大きな概念です。たとえば「スポーツ」にはサッカーや野球のような競技種目だけでなく、ダンスや武道、トレッキングなども含まれますし、近年は「祭りもスポーツの一種ではないか」という議論もあります。つまり、スポーツとは「体を動かすこと全般」を指すものだと考えています。

一方の「観光」にも、さまざまな側面があります。土地の文化や自然にふれることはもちろん、食事や買い物をしたり、アニメ作品などの舞台を巡ったり、実に多彩です。

「スポーツ」と「観光」に共通するのは、ともに「五感」に働きかける魅力があること。だからこそ両者は親和性が高く、大きな相乗効果が生まれます。

たとえば、スポーツ庁の「スポーツツーリズムコンテンツ創出事業」の一つでもある青森県・岩木川を舞台にした「岩木川に沿ったニュースタイルのトライアスロン造成・検証事業」の事例では、トレッキングやサイクリング、カヤッキングを通じて青森の自然を巡ることで、その土地の風景や森の香り、風の気配、季節感などをリアルに感じることができます。同時に、車やバスで観光スポットを移動しているだけでは「点」に過ぎなかった土地の魅力を「線」として感じられることで、非常に印象的な体験になる。その結果、「また、この地域に来たい」と考える国内外の旅行者が増えていくはずです。
スポーツを観光に組み込むことで、「移動」を含めた体験そのものが価値になる。その点で、スポーツツーリズムは「コト消費」を象徴する観光の在り方だと思います。北海道から沖縄まで、日本には非常に多様な自然と文化があります。それぞれの地域にあったスポーツツーリズムを、どのように実現していくのか。その点が、非常に重要なポイントだと考えています。

スポーツが育む「シビックプライド」と「ライフパフォーマンス」の向上

──スポーツツーリズムが地域にもたらすポジティブな影響とは、どのようなものでしょうか。

スポーツ庁では、スポーツを活用したまちづくりに取り組もうとする自治体を応援する「スポまち!長官表彰(スポーツ・健康まちづくり優良自治体表彰制度)」を行っています。毎年、多くの自治体の取り組みを間近に見るなかで実感しているのが、スポーツを活用したまちづくりが「シビックプライド」の醸成に貢献しているということです。

たとえば、茨城県の笠間市には、「笠間市スケートボードの聖地プロジェクト」という取り組みがあります。この事例では「ムラサキパークかさま」というスケートパークを活用した地域ブランドの確立や大会・イベント誘致などを実施。同時に、笠間焼や笠間稲荷神社などの地域の観光資源と連携し「スケートボードをした後に、陶芸体験をしよう」という新たな提案も行っています。このような取り組みを継続した結果、「笠間には立派なスケートパークがある」と、胸を張って地元のことを紹介する方が多くなったそうです。オリンピック競技でもあるスケートボードは、世界の共通言語ともいえるスポーツのひとつ。その「聖地」であることが、地域に暮らす人々の自信を育んでいます。

──スポーツをまちづくりに取り入れることで、健康やレジャーの面でもメリットがありそうですね。

そうですね。たとえばスポーツ庁では「オープンスペースの活用等による誰もがアクセスできる場づくり推進事業」を行っています。これは、公園や広場、道路などを使って、ボール遊びやスケートボード、ケンケンパなどを気軽に楽しめる場を作ろうという試み。実際に、三重県の四日市市や千葉県の柏市などで実証実験を行いましたが、子供から大人まで多くの人が「体を動かす」ことの楽しさを知るきっかけとなり、地域の方々の「身体機能」や「ライフパフォーマンス」の向上にもつながりました。

スポーツツーリズムというと、イベントや観光客の誘致による経済効果が注目されることが多いかもしれません。もちろんそれも大切な要素ですが、実は「シビックプライド」や「ライフパフォーマンス」の向上など、経済的には測ることのできない多くのメリットがあります。この点は、スポーツを通じた地域振興と向き合うなかで、強く実感してきたことです。

スポーツツーリズムに地域ならではの付加価値を

──地域がスポーツツーリズムに取り組む際、意識すべきポイントとはどのようなものでしょうか。

「スポーツ」という核心部分にこだわるだけでなく、その地域ならではの「付加価値」を高めていくことが大切なポイントです。

「金沢文化スポーツコミッション」の取り組みが、わかりやすい事例です。同コミッションでは、柔道や剣道、弓道などの「武道」と金沢に受け継がれる「武家文化」を組み合わせることで、他の都市では体験できないツーリズムコンテンツを展開。武道を体験するだけでなく、その背景にある和の文化を知ることができることから、インバウンド市場を中心に高い評価を得ています。

もちろん、スポーツツーリズムに「付加価値」をもたらすのは、武道×武家文化の組み合わせだけではありません。山でトレッキングを楽しんだ後に、山の幸を用いた郷土料理を味わえる体験も良いですし、試合を観戦した後に、その競技をテーマにしたミュージアムを訪れるのも良いでしょう。スポーツを体験しながら自身の体調を整えるコンディショニング系のコンテンツや、「できなかったこと」が「できるようになる」成長系のコンテンツも面白いと思います。

特にインバウンド市場の場合、単にスポーツを楽しむだけであれば「東京で体験するのが効率的」となってしまいかねません。だからこそ解像度を上げて一つひとつのコンテンツを掘り下げ、「この地域でしか楽しめない」体験へと昇華することが、何よりも大切だと思います。


──スポーツツーリズムにおける課題と今後の取組について教えて下さい。

全国にはスポーツと地域資源をかけ合わせたまちづくりを推進する「地域スポーツコミッション」が200以上ありますが、その多くが人的資源の不足やノウハウの蓄積の難しさなどに直面しています。そこで、スポーツ庁では、昨年「地域スポーツコミッション協議in金沢」を開催。地域スポーツコミッション同士が横のつながりを作ることで、人材の交流やノウハウの共有が生まれるプラットフォームづくりを目指しています。

また、インバウンドの地方誘客のためには、市場分析を踏まえたマーケティング戦略の立案が欠かせません。スポーツ庁では、明確なビジョンを掲げながら、各地域がスポーツを通じて自走的に発展していけるような仕組みづくりやアドバイスを行っていきたいと考えています。

スポーツツーリズムは、大きな可能性を秘めた分野です。だからこそ、一歩一歩着実に進んでいくことが重要だと考えています。

2 ケーススタディ:福島県のいわきFCと連携した地域の魅力発信

日本各地では、地域に根差して活動するプロスポーツチームと連携し、地域活性化を図る取り組みが広がっています。JTBいわき店によるプロサッカーチームのいわきFCと福島県と連携した特徴的な事例を紹介します。

POINT01
大人気!相手チームサポーター向けの着地型ツアー

JTBいわき店はいわきFC・福島県と連携し、相手チームのサポーター向けに、いわき市での試合観戦に絡めた着地型の宿泊ツアーを企画。この取り組みは、ホーム(いわき市)での試合観戦の機会を活かし、より多くの来訪者に地域の魅力を知ってもらうことを目的としています。試合観戦・見学ツアーに加え、いわきFCから地域特産品のお土産があるなど、おもてなしを意識した工夫も盛り込まれています。

POINT02 
ノーサイド精神が生む地域間交流

本ツアーの募集方法も特徴的です。いわきFCがSNSを通じてツアー情報を発信すると、相手チーム側がリツイートして、相手チームの応援サポーター向けに拡散。これにより、地域としても快く相手チームとサポーターを迎え入れ、地域の魅力を知ってもらい、お互いを称え合うといったノーサイドの精神が醸成されているのではないでしょうか。

POINT03 
スポーツと旅行を掛け合わせたさらなる感動体験を!

いわきFCのクラブハウスは日本初の商業施設つきで全国的にも有名です。いわきの温泉や自然、歴史文化と掛け合わせたプランを造成し、本ツアーをブラッシュアップすることで、地域の魅力をさらに発信していきます。

3 ケーススタディ:名古屋スポーツコミッションが取り組む地域資源を活用したスポーツツーリズム

次に、地域資源を活かし、トップスポーツチーム・行政・事業者・住民など様々な関係者と連携しながら推進を加速化させている「名古屋スポーツコミッション」の活動事例について、紹介します。

POINT01
「スポーツ」を切り札に、地域住民・事業者・社会へインパクトを与える!

「名古屋スポーツコミッション」は、4つの機能(①大会・イベント誘致と開催支援、②スポーツツーリズムの推進、③地域活動の活性化、④事業の創出)を担いながら、官民連携によるハブ機能としてスポーツをフックに様々な事業を展開しています。

トップスポーツチームが多く、大規模大会が開催できる名古屋市の強みを活かし、観戦目的の来訪者消費をきっかけに経済波及効果を増大させ、地域住民や社会にインパクトを与えるようなエコシステムの構築を目指しています。

POINT02 
地域資源を活用した「居場所」づくりで幅広い年代の行動変容を促す

名古屋市では、栄エリアを拠点にアーバンスポーツの取り組みを推進しています。地域がもつ「象徴的な空間」を「市民の憩いの居場所」に変え、人々が出かけたくなるような空間設計が進められています。


POINT03
観光×文化×スポーツの融合による賑わいの創出

スポーツツーリズムは、観光と文化、スポーツを融合することで大きなシナジー効果が期待されています。名古屋スポーツコミッションでは、弓道の歴史文化の体験コンテンツ化や名古屋城でのスポーツ流鏑馬実施、城・寺社仏閣等ユニークベニューにアーバンスポーツを融合させ、新たな賑わいの創出に取り組んでいます。

4 観光振興と地方創生の鍵 日本におけるスポーツコミッションの現状と展望

スポーツツーリズムの推進において、スポーツコミッション(以下、SC)の存在は欠かせません。本章では、株式会社JTB総合研究所の山下真輝氏より、SCの現在の状況や課題、今後の展望について解説していきます。

プロフィール
山下 真輝
株式会社JTB総合研究所 主席研究員(JSTAセミナー委員)
山下 真輝
1993年株式会社ジェイティービーに入社、観光を基軸とした地域活性化を進める地域交流プロジェクトをJTB全社で推進し、全国各地の観光振興に関わるプランニング・調査研究・旅行商品開発に従事。2017年にJTB本社日本版DMOサポート室長として全国各地のDMO形成に関わり、2018年4月より現職。内閣府地域活性化伝道師登録。

スポーツコミッションとは?

日本におけるSCの必要性が議論されるようになった背景には、3つの要素があります。1つ目は「スポーツと観光の融合」です。スポーツイベントは観光客を呼び込み、地域経済の活性化に寄与するため、スポーツイベントの開催や誘致を行うSCの必要性が高まっています。

2つ目は「地方創生」です。都市部から地方への人口流出が進む中、SCは地域のスポーツ資源を活用し、地域の魅力を発信することで、地方創生に貢献します。

3つ日は「大型スポーツイベントの開催」です。近年、国内で大型スポーツイベント開催の増加に伴い、地域のスポーツイベントの企画・運営能力の向上が求められ、そのためにSCの役割が重要となっています。


地域スポーツコミッションの役割と機能

地域SCは、地域の様々な社会課題をスポーツの力を活用して解決する、「スポーツによるまちづくり」を促進・支援するための組織といえます。

地域SCが担当する役割や活動は地域によって異なりますが、「住民向け活動(インナー事業)」「対交流人口向け活動(アウター事業)」の2つに大別することができます。

2022年に(一社)日本スポーツツーリズム推進機構(JSTA) が取りまとめたデータによると、地域SCの主な活動は高い経済効果が見込める「スポーツ合宿・キャンプの誘致」「既存のスポーツ大会・イベントの誘致」などが上位を占めています。

これらはいわゆる「アウター事業」ということになりますが、一方で「健康づくり事業」「競技者の育成」などの「インナー事業」については、まだ十分な取り組みができていないことが分かります。

地域スポーツコミッションの組織体制について

地域SCの組織体制に目を向けると、約6割が「地方公共団体(自治体)」に事務局を置いており、行政主導で運営している状況がわかります。自治体から独立して活動している団体もありますが、実質的にはほとんどのSCが行政運営、または行政支援のうえ活動しています。

続いて、地域SCの予算をみると、1,000万円未満の団体が54.7%(71団体)を占めており、平均は3,750万円となっています。

最後にSCに勤務する職員の数をみると、4人以下の団体が66.7%(86団体)を占めており、平均は5.6人となっています。

予算や職員数をみると、まだまだ小さい規模で運営されていることがわかりますが、最初のSCが設立されてからまだ10年程度です。今後、SCの設立趣旨や取り組み成果が浸透することで、さらに規模が拡大していくと考えています。


今後の地域スポーツコミッションの展望

地域SCの組織体制の現状を踏まえて、今後は、以下5つのポイントが重要になります。

1 行政との連携の強化
2 財政基盤の拡充
3 人材育成と職員体制の拡充
4 地域特有のスポーツ文化の育成
5 継続的な評価と改善

これらの点を踏まえた上で、地域SCは持続可能な成長を遂げ、地域社会におけるスポーツの発展に寄与することが期待されます。

5 まとめ

「地域×スポーツ」をテーマに、有識者の見解や取り組み事例をご紹介しました。記事ではダイジェスト版でお届けしましたが、ダウンロードしてお読みいただけるマガジン本編には、ご紹介しきれなかった情報も掲載していますので、ぜひご覧ください。

株式会社JTB
設立1912年
資本金1億円
代表者名代表取締役社長執行役員 山北 栄二郎
本社所在地

〒140-0002
東京都品川区東品川二丁目3番11号 JTBビル

事業内容

旅行を基盤としたツーリズム事業を中心に、地方創生にまつわるエリアソリューション事業、企業・地方自治体・教育機関に向けたビジネスソリューション事業を展開しています。

URLhttps://www.jtbbwt.com/government/

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