「大阪・関西万博」開幕まで、1年を切りました。万博そのものによる効果だけでなく、万博を契機とした日本各地域への誘客や消費の拡大等、地域への波及効果が期待されています。
本記事では「大阪・関西万博」をテーマに、誘客やプロモーションのポイントについて、日本各地の事例や有識者の意見をもとに紐解いていきます。
1 万博を通じて、日本の魅力を世界に伝えたい 「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、2025年4月13日に開幕する大阪・関西万博。インバウンド市場への影響や関西圏以外の地域との関わり方にも注目が集まっています。
2025年日本国際博覧会協会の広報・プロモーション局で地域・観光部長を務める木嶋淳氏に、万博×インバウンドをテーマにお話を伺いました。
木嶋 淳
1977年、京都府生まれ。京都大学経済学部を卒業し、2000年に国土交通省入省。2011年には岩手県県土整備部空港課総括課長に、2016年には国士交通省中国運輸局觀光部長に就任。2021年には国土交通省大臣官房危機管理室企画官となり、2022年には国土交通大学校柏研修センターで教授(危機管理)を務める。2024年に(公社)2025年日本国際博覧会協会広報・プロモーション局地域・観光部長に就任。
日本各地には、万博のテーマと親和性の高い多彩な観光資源がある
──まずは大阪・関西万博がインバウンド市場にもたらす影響について教えてください。
ご存知の通り、日本のインバウンド市場は近年大きく成長しており、日本経済を支える産業のひとつになっています。もちろん国内の各地域においても、観光振興は地域活性化のために欠かせない要素です。
多様な自然や景観、伝統文化などに恵まれた日本ですが、まだ世界の人に知られていない数多くの魅力があります。万博の開催は、世界の人々がこのような地域の魅力を“発見”する契機になるのではないかと思います。
現在、万博協会ではJNTOなどと連携しながら世界各国で積極的なプロモーション活動を実施しており、会期中(2025年4月13日~10月13日)には、約350万人の外国人の来場を見込んでいます。万博という一大イベントを通じて、世界の人々に日本の各地域の魅力を伝える。それが、私たちの使命だと考えています。——日本の地域の魅力を世界に発信するための、具体的な仕掛けについて教えて下さい。
代表的な取り組みのひとつが、観光ポータルサイト「Expo 2025 Official Experiential Travel Guides」の開設です。同サイトでは、一般的な観光情報の発信はもちろん、特に万博来場予定者に向けて地域の観光情報や旅行商品、イベント情報などを直接案内し、サイト上で高付加価値旅行商品の販売も行えるようになっています。サイトでは日本全国の観光情報が網羅されていますが、利用者は日時や場所からの検索・予約だけでなく、万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」に紐づいたサブテーマ(「いのちを救う」「いのちに力を与える」「いのちをつなぐ」)からも、観光コンテンツを検索することが可能です。
豊かな自然や伝統文化、食の魅力に恵まれた日本には、万博のテーマと親和性の高い観光資源が数多くあります。これらを体験することで、より深く万博の世界を楽しんでいただけるはずです。来場チケット購入者用のメルマガでこれらの観光資源やその体験商品を掲載している観光ポータルサイトを積極的に紹介するなど、万博に関心を持つ方々が実際に体験商品の予約などへのアクションに結びつくような情報発信を心がけています。
観光ポータルサイトのほかにも、万博会場内での地域の魅力発信に取り組んでいます。例えば万博会場には各地の魅力を発信するデジタルサイネージが設置され、地域ごとのブースなども出展される予定です。また、イベントステージでは「東北絆まつり」をはじめとする、さまざまな地域のお祭りも行われます。これらの取り組みを通じて、万博が日本の地域の魅力を伝えるショーケースになればと考えています。
各地域の独自性を打ち出すことがインバウンド誘客につながる
——大阪・関西から遠い地域は、どのようにしてインバウンド旅行者を取り込むべきでしょうか。
実は大阪や関西からの距離は、誘客に大きく影響しないと考えています。それよりも大切なのは、「この地域に行ってみたい」と思えるような独自性を打ち出していくことではないでしょうか。
ひと言で「インバウンド」といっても欧米豪、中東、アジアなど、市場ごとに価値観も休暇制度もさまざま。一概には言えませんが、例えば2~3週間かけて日本を旅する欧米豪の旅行者の場合、興味を持てるコンテンツさえあれば、大阪から遠いエリアにも日本滞在中に足を伸ばす可能性が高い。また、アジア圏から何度も日本を訪れるリピーターの方であれば、「今回は大阪に行くけれど、次回はあの地域に行ってみよう」と考えると思います。当然、旅行者によって、魅力と感じる資源も違ってきます。だからこそ、自地域でしか味わえないものは何かを各地域が考え、それにマッチすると思われるターゲット層にその魅力を確実に伝えることが重要になってきます。日本には魅力的な地域がたくさんあります。インバウンド市場に合わせて地域の姿を変えるのではなく、地域のありのままの魅力を磨き上げることが、結果として多くの旅行者を呼び込むことに繋がるはずです。
——木崎さんが注目する地域の事例などがあれば、教えてください。
「Expo 2025 Official Experiential TravelGuides」にも掲載されていますが、島根県の雲南地域を舞台に行われる「組子細工体験と『現代の名工』舟木清氏のお話」は、素晴らしい事例のひとつですね。伝統工芸の体験だけでなく、熟練の名工との対話の時間を設けることで、旅行者にとって「ここでしか味わえない」深みのあるコンテンツを実現していると思います。
また、徳島県美馬市の「美馬和傘体験プラン」にも注目しています。これは、2日間かけて和傘の仕上げを体験するプランで、旅行者は体験後にマイ和傘を持ち帰ることができます。じっくりと伝統工芸と向き合う時間は旅行者にとって特別な経験になりますし、高付加価値な観光商品の販売は地域の伝統産業を守ることにも繋がります。
2つの事例に共通しているのは、それぞれの地域で培われてきた独自の伝統文化をそのまま観光資源として活用していることです。観光事業者や住民、行政、職人などが一体となって地域の魅力を世界に発信し、旅行者を呼び込む。その結果、地域の経済が活性化し、伝統文化が守られ、地域の人々の誇りも醸成されていく。そのような好循環が生まれているのです。
日本全国には、このような好循環を生み出せる観光コンテンツが、まだまだ数多くあると思います。万博を通じて、世界中の人々に日本の魅力を伝えるために、今後もさまざまな取り組みを行っていきます。
2 ケーススタディ:マーケティングを活用した栃木県の魅力発信 栃木県では、万博の開催を契機としたインバウンド誘客の促進に取り組んでいます。栃木県とJTB宇都宮支店が連携し、マーケティングの観点から改めて地域の魅力を見つめ直した事例と今後の展望について紹介します。
POINT01 価値観は千差万別!マーケティングの重要性を理解する
栃木県は関西方面から物理的な距離があり、観光客を関西圏から呼び込むことは容易ではありません。そのため、顧客ニーズを理解し、地域の資源を整理・分析、その情報をもとにコンセプトを設定することで、ターゲットに対する効果的なアプローチを行うことが重要です。
POINT02 顧客ニーズの把握とコンセプトの明文化
まずJTB字都宮支店は、県が誘客対象の重点国として捉える台湾・アメリカをターゲットに設定し、顧客ニーズを把握するための調査を実施。ターゲットの紋込みを行いました。
次に、地域資源の整理をしたことで、全国に誇る農産物や国際的な賞を受賞する日本酒、豊富な源泉を有する温泉、中禅寺湖でのアクティビティ等は、「栃木の豊富な水資源」が生み出していることを再認識できました。
そこで、大阪・関西万博のテーマとの親和性も鑑み、「いのち育む『とちぎの水』」をコンセプトに掲げ、テーマ性を持たせたコンテンツの開発と情報発信を行うことになりました。
POINT03 大阪・関西万博を契機とした高付加価値コンテンツの造成へ!
栃木県は、「万博ポータルサイト」で「いのち育む『とちぎの水』」をテーマとしたコンテンツの造成を推進し、動画やWeb特集ページなどを通じて配信。
JTB宇都宮支店の斉藤祐貴さんは「高付加価値なコンテンツが求められる中でコンセプトの設定は必須。ストーリー性を重んじるこの機運を、大阪・関西万博のあともレガシーとして残していきたい」と今後の展望を語ります。
3 ケーススタディ:山陰エリアで取り組む地域一体となったデスティネーションマネジメント インバウンド観光客の宿泊実積が低い島根県にとって、大阪・関西万博は地域の魅力を海外に向けて発信できる絶好の機会です。JTB山陰支店が地域のステークホルダーと共に取り組む事例を紹介します。
POINT01 今こそ地域が一体となった取り組みを!万博を契機と捉えた協議会の発足
松江市は、大阪・関西万博を発端として、インバウンド訪日客の宿泊増売、ひいては地域の活性化につなげていくことを目的に、2023年10月に「松江市インバウンド推進協議会」を発足しました。
POINT02 地域の隠れた資源(タカラ)の磨き上げによる周遊促進と広域連携の重要性
島根県では、万博を契機とした誘客にあたり、隠れた資源の認知と具体的な商品展開に課題意識を抱いていました。
そこで、JTB山陰支店がオペレーション・商品造成を担い、海外OTAでの展開を含めたプロモーション・販売を「万博ポータルサイト」等で実施。さらに、JTB山陰支店は山陰インバウンド機構と連携し、新たな山陰の魅力を訴求する商品造成に取り組み、複数の販路を通じて発信する予定です。このように、地域の魅力を面で発信することによって、自地域への誘客にもつながっていきます。
4 魅力あふれる観光地へ!インバウンド向けデスティネーション・マーケティングの秘訣 万博を契機としたインバウンド誘客において、マーケティングとニーズの分析も欠かせません。JTB総合研究所 主任研究員の藤田 尚希氏に、デスティネーション・マーケティングのポイントを伺いました。
JTB総合研究所 主任研究員 交流創造推進担当(地域交流・MICE・IR・万博)
藤田 尚希
デスティネーション・マーケティング及びマネジメントの専門知識を活かし、観光やMICEによる地域活性化のための調査・計画・戦略策定等をはじめ、近年はIR(統合型リゾート)や万博、エリアマネジメント等、行政や企業に対する幅広い領域のコンサルティング業務に従事している。博士(経営学)、総務省自治大学校講師。
万博を契機としたデスティネーション・マーケティングと観光客ニーズ分析
万博の開催まで1年を切った今、訪れる観光客を自地域へ誘客すべく、観光資源の磨き上げや商品化、データに基づくプロモーション活動等、積極的に誘致活動に取り組んでいる地域があります。この様な特定の地域への観光需要の創造を目的とした活動は“デスティネーション・マーケティング”と認識されており、各地域で展開されています。
マーケティングにおいて、顧客の「〇〇したい」という顧客ニーズの理解はとても重要です。インバウンド観光客の日本観光に対するニーズについて、観光庁の訪日外国人消費動向調査の結果(日本滞在中の活動参加率と消費額について)を基に、地域で行うべきポイントについて考えていきたいと思います。
5 まとめ 万博をきっかけに、大きな影響が期待されるインバウンド市場。地域の観光資源の見直しとともに、地域のステークホルダーが一体となって商品造成やプロモーションを行っていく必要があります。加えて、インバウンド観光客と接点を持つためには、マーケティング活動が欠かせません。
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