波力発電について
海が波をつくるエネルギーを電気に変換する波力発電は、水力や風力などと同じく、再生可能エネルギーの1つです。次世代の発電方法として国内外で注目されています。
・波力エネルギーで発電する仕組み
波力発電が起こる主な仕組みに「越波型」「振動水柱型」「可動物体型」があります。越波型は、防波堤と貯留池をつくり、貯留池の表面と防波堤を超えた波の落差を利用する発電方法です。波が打ち寄せ、引き波になる際に、タービンを回転させて発電します。
振動水柱型は、航路用のブイ(発電装置)を使った波力発電方法です。ブイの中には空気室があり、波によって振動が発生すると空気が押し出され、その力でタービンが回転します。
可動物体型は、タービンの代わりに振り子を使います。波が振り子を前後させることで、油圧発生装置が作動、その結果油圧モーターが回転して電気が発生します。
・波力エネルギーの特徴
波力エネルギーは枯渇する心配がないエネルギーというのが大きな特徴です。波の発生が期待できるところであれば、比較的場所を選ばず設置できますので、離島でも発電が可能です。
多くの離島では、ディーゼル発電が主流ですが、波力発電が普及すれば、安定した価格での電気供給が期待できます。
行政による波力発電事業の取り組み
波力発電は研究開発が進められている段階で、波力発電事業も未知数な部分が多くあります。ですが、海に囲まれている日本にとって、そのポテンシャルは高いと言われています。
・波力発電はポテンシャルの高い再生可能エネルギー
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2011年に実施した、波力エネルギーの試算によると、沖合100kmまでの波力エネルギーの賦存量(理論上利用可能な波力エネルギー量)は195GWでした。大手電力会社10社の総合発電量(2010年)は約207GWですので、波力エネルギーがいかに巨大なエネルギーであるかがわかります。
・国土交通省の「海洋再生可能エネルギー利用の推進」
災害時のエネルギー制約に備え、再生可能エネルギーの推進が政府の課題となっています。国土交通省は、その一環として港湾施設の有効利用に着目、「海洋再生エネルギー利用の推進」を推進事業の1つに掲げています。
海洋再生可能エネルギーには、洋上風力をはじめ、海洋温度差エネルギー、潮流エネルギー、そして波力エネルギーと複数種類があります。海水の太陽光があたる表層と、深層海水が流れ込む層の間には温度差がありますが、その温度差で発生するエネルギーのことを、海洋温度差エネルギーといいます。潮流エネルギーは、黒潮の流れを利用したエネルギーのことです。
海洋エネルギー事業を安全かつ円滑に行うため、国土交通省は経済産業省と連携し、海洋風力発電事業に関連した技術基準の改正など、必要なガイドラインを策定しました。波力エネルギーに関するガイドライン(「浮体式の発電施設の安全ガイドライン」)も策定され、その結果2017年8月に、NEDOと株式会社IHIによる「世界初(2017年8月時点)の浮体式海流発電施設の実証試験」が実現しました。鹿児島県口之島沖で実施されたこの実験では、黒潮のエネルギーを活用することで、最大30kWの発電出力を確認しました。
波力発電事業の課題と対応策
波力発電事業には、いくつかの課題も残されています。
・波力発電ポテンシャルの試算方法
波力エネルギーのポテンシャルを試算する際、国土交通省の「全国港湾海洋波浪情報網」などデータを参考にするのが主流ですが、より正確な数値を割り出すには、GPS波浪計を使った観測などが必要になるため、測定方法の見直しや適切なデータの使用方法について解析方法を確立することが望まれます。
波力発電事業を推進するには、発電所を設置するのに適した場所を検討する必要があります。その際、波浪観測値を参考に、データの適切な解析・評価が必要です。
・技術開発と技術の向上
波力発電の開発は、英国やアメリカが進んでいますが、日本は基礎的な研究を進めている段階で、技術開発は波力発電先進国よりもやや遅れているのというのが現状です。技術面で遅れているといっても、まったく着手していないというわけではなく、波力発電システムを使用した実験が行われています。たとえば、(独)海洋研究開発機構は、三重県南勢町沖実海域に、振動水柱型波力発電システム「マイティーホエール」を設置、1998年から14年間、打ち寄せる波の動きや、設備の耐久性について調査が行われました。
・コスト削減
日本の波力発電についての取り組みは遅いというよりむしろ早く、第1次オイルショック(1973年)後に訪れた、自然エネルギーブームの頃にスタートしました。しかし、波力発電はコストがかかるうえ、エネルギー変動が大きいことが課題として残されています。
必要な設備を海洋に設置する必要があるため、設置だけでも、陸地よりコストがかかってしまう傾向があります。設備は常に波の大きなエネルギーを受けるうえ、腐食など、定期的なメンテナンスが必要です。
そのため、本格普及には高効率化を実現する発電システムの確立や設備費の削減が不可欠とされています。