みなさん、こんにちは。一般社団法人コード・フォー・ジャパン(Code for Japan: 以下CfJ)の砂川です。前回の西会津町様のインタビューが好評ということで、少し胸を撫で下ろしていたのも束の間、既に原稿の締め切りに追われております。
(参照:【コード・フォー・ジャパン 自治体インタビュー #1】西会津町)
今回からは「地方自治体の設計」という連載で、私やCfJの同僚がこれからの地方自治体の仕事の中で気になっている観点を取り上げていこうと思います。
市民目線とは言うものの
連載第1回で取り上げるテーマは「市民目線」です。
自治体の中で「市民目線で考えよう」「市民のニーズを満たそう」といった言葉はごくごくありふれた表現として使われています。自治体DX全体手順書にも「利用者目線」「利用者中心」という言葉は繰り返し使われていて、みなさん何となく受け入れているのが現状ではないでしょうか?
でも、ちょっと待ってください。
市民目線、利用者目線って人間が自然に身につけているものでしたっけ? そうでないとしたら、学校や職場でやり方を教えてもらいましたっけ? 私は「相手の立場に立って考えましょう」と言われたことはありますが、どうやったら相手の立場でものごとを考えることができるのか教えてもらった記憶はありません。
「いやいや、市民目線は職場で自然に身につくでしょ」と思う方もおられるでしょう。たしかに、医療や福祉、教育の現場などの、常に相手に向き合って仕事をされている方々は、驚くような解像度で相手に共感し、深い洞察を持っていることが多々あります。でも、そういった専門職の方々が現場で長い時間をかけて体得した市民目線・利用者目線を、一般職に自然に身につけて欲しいというのはなかなか酷な気がします。
困っていることをただ聞けばいい、わけではない
市民目線が身についていないなら、直接相手に聞いてみればいいじゃないかと思われるかもしれません。実際、自治体DXの一環として、所管課の困りごと・課題を照会したり、ヒアリングを行ったりする場面はよく見かけます。
それが悪いわけではないのですが、思ったような答えが集まらないという声もよく聞きます。なぜでしょうか?
困りごとを聞かれた側に立って考えてみると、実際に困っている瞬間・場面で聞いてもらわないと思い出せないということが挙げられるかもしれません。無機質な会議室に呼ばれ、自分の仕事の流れを思い浮かべた上で、困っていることを相手に伝えることは簡単なことではありません。
また、表面上困っていることを伝えることはできても、全体像を捉えた上で深掘りして説明できる人は多くないでしょう。
庁内ですらそういったことが起こりうるのに、普段行政職員と接する機会のないような市民に対してただ単純に困りごとを聞くのは、得策ではないことがお分かりいただけるのではないでしょうか?
しかしながら、これほど生活スタイルが多様になった今の日本で「市民は〇〇に困っているはずだ!」と決めつけることも難しいのが実情です。
市民目線を少しずつ身に付けるための練習をしよう
市民目線や利用者目線に近い表現として、「他者への共感」なども使われることがあります。そして、他者に共感するためには「観察する力」と「洞察する力」を身に付ける必要があると言われます。
「なぜ、あの人はあんな態度をとったのだろう」
「なぜ、あの人はあんなことを言ったのだろう」
結局、こういった問いを何度も繰り返し、状況を観察し、洞察を深めること以外に、他者への共感力を高める方法はありません。どうしても時間がかかるプロセスではありますが、このような複雑で曖昧な領域こそ、AIではなく人間が担うべきことだと私は思います。
デザイン思考や、サービスデザインといった分野では、観察力や洞察力を高めるための手法が数多く考案されています。あくまで手法でしかないため、独学で身に付けるのは難しい面もありますが、もしみなさんのまちの市長や幹部が「市民目線を持ちましょう」と仰っているようなら、デザイン思考に少し触れてみるのがいいかもしれませんね。
もし庁内での進め方などでお悩みがあれば、弊団体までお気軽にご連絡ください。
★コード・フォー・ジャパンのご連絡先★
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Profile
一般社団法人コード・フォー・ジャパン 砂川 洋輝
2010年に総合電機メーカーに入社。半導体や電気設計に5年間従事したのち退職。2015年からフィンランド アールト大学に留学し、デザインマネジメントを学ぶ。2017年から、故郷の神戸市役所でICT業務改革専門官(3年間の任期付き職員)として採用され、ICTとデザイン思考を用いた働き方改革の推進に従事。2020年に任期満了に伴い退職し、現在一般社団法人Code for Japanで主に自治体DX推進や市民協働の分野で活動中。神戸大学V.School 客員准教授も務める。