カンファレンスの冒頭では、厚生労働大臣(当時)の加藤勝信氏が開会のスピーチを行った。加藤氏は、日本経済のおもな課題は「人口減少と少子高齢化にともなう生産年齢人口の減少」と指摘し、その課題が働き方改革を推進してきた背景になっていると説明した。
働き方改革のポイントについては、「働く意思があるものの働けない人たちに、さまざまな働き方の選択肢を与えること」と述べ、多様な働き手による労働への参画に期待感を示した。生産性の向上についても触れ、「日本よりも労働時間が長くて生産性が高い国はない。労働生産性を伸ばせる余地は大きい」と話した。
厚生労働省は来年度予算の概算要求で、「中小企業への積極的な支援」を働き方改革における3つの柱のいちばん上にすえており、加藤氏は「中小企業を積極的に支援するためだ」と説明。そのうえで、「地域の中小企業による働き方改革の推進は、働く人の職場環境を改善し、地域社会の活性化にもつながる。カンファレンスを通じて、取り組みへの原動力をつけてもらいたい」と参加者に呼びかけた。
ひとつめの基調講演では、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局の尾田進氏が登壇。地方創生を推進する同事務局として着目する働き方改革のあり方をテーマに講演した。
尾田氏は、出生率低下の問題は仕事と家庭の両立といった「働き方」にかんする要因が大きいと分析。「合計特殊出生率や第一子の平均出産年齢は地域によって異なる。それぞれの事情に応じた対策が必要だ」と述べ、労使と行政の連携や、国のさまざまな交付金の活用を提案した。
また、企業の働き方改革は、若者の地方への誘致にもつながると指摘。経済産業省が実施した就職意識にかんするアンケートの結果によると、近年は「従業員の健康や働き方に配慮している企業かどうか」が、就活生とその親にもっとも重視される傾向がわかった。尾田氏は、「地方の中小企業は働き方改革に取り組むことで、『働きたい』と若者に思われる企業になれる」と述べた。
講演の最後に同氏は、企業の働き方改革を推進する自治体職員の参加者に向け、「“企業の従業員は地域の住民で、地域の企業は地域の成員である“という認識をもって、自治体をあげて働き方改革に取り組んでほしい」と強調した。
ふたつめの基調講演では、政府の働き方改革実現会議の構成員も務めた、三菱総合研究所の武田洋子氏が登壇。マクロ経済の観点から、今後求められる労働市場のあり方などについて語った。
武田氏は、働き方改革が求められる背景には、「人口構造の変化」「生産年齢人口の減少」「技術革新」の3つの環境変化があると指摘。技術革新については、「一部の仕事をAIやロボットが担うようになり、労働市場で求められる人材も変わってくる」との見方を示した。
三菱総研のまとめによると、日本における職業タイプ別の人材構成「人材ポートフォリオ」は、定型的なタスクを主とするルーティン業務型の職業にたずさわる人材が約8割を占める。しかし、2030年にかけてはこうした人材が余り、非定型的なタスクにたずさわる人材の需要が増加。その結果、人材のミスマッチが拡大するとみられている。
こうした、今後起こる新しい環境変化への適応は、日本にとって大きな課題となるが、武田氏は、「結果的に、多様な人材が労働市場への参加を促されると同時に、働き方改革を後押しすることになる」と話し、「前向きな発想でとらえ、対応に取り組むことが大切だ」と締めくくった。
働き方改革にかんする自治体の取り組み事例の紹介では、「健康経営」の普及を推進する横浜市の事業を、同市経済局の森田伸一氏が紹介した。
健康経営とは、従業員の健康管理を戦略的に実践する経営手法で、森田氏は「働き方改革と親和性が高い取り組み」と解説した。
横浜市では、経済局と健康福祉局が共同で健康経営の普及促進に取り組んでいる。取り組みのひとつとして、健康経営の効果測定で、中小企業の従業員を対象にアンケートを実施。「健康リスクが高い人ほど、労働生産性の損失が大きい」といった相関関係が明らかになっているという。
平成28年からは、健康経営に取り組む事業所を認証する制度を開始。認証は、「健康経営を宣言している」「健康経営を実践する体制を整えている」「健康経営のPDCAサイクルを回している」といった条件を基準に、3段階に分けられ、認証をえた企業は認証マークを名刺やWebサイトに掲載できるようになる。
同市はこのほか、企業の健康経営を支援する拠点を、市内2ヵ所に開設。健康や健康経営にかんするセミナーなどを定期的に開いている。森田氏は「全国でも初めての取り組み」とアピールした。
自治体によるふたつめの事例紹介では、柏原市の山本直樹氏が子育て中の母親を支援する公民連携の取り組みを紹介した。
同市は、託児サービスを手がける民間企業のママスクエアと連携し、子どもを預けた場所で保護者が働ける拠点『ママスクエア』を今年3月にオープン。ここで母親は、同社が企業から受注する電話対応やデータ入力などの業務にあたる。母親が働く間、子どもは窓ごしに設けられた「キッズスペース」で過ごす。「子どもを保育園に預けなくても、すぐそばで働ける」として、『ママスクエア』で働く母親から好評をえている。
事業を始めた背景には、深刻な人口減少問題による労働力不足があったという。市の人口は毎月50人前後のペースで減少が続いており、今年2月末には7万人を割り込んだ。市は、子育て中の母親の就業を促すことが市全体の労働力確保や就業率の引き上げにつながると判断し、子育て世代の働き方改革を実現する事業の検討を始めた。
山本氏によると、オープン前には『ママスクエア』で働きたいという母親は予想を上回る50人以上が集まったという。同氏は「事業に興味をもつ子育て世代は多いと実感した。今後も企業と連携し、経営を拡大していきたい」と話した。
協賛企業によるプレゼンテーションでは、働き方改革を推進する製品・ソリューションの紹介が行われた。
ITセキュリティ事業を手がけるソリトンシステムズの富本正幸氏は、認証システムとモバイル端末に情報を残さない技術で情報漏えいのリスクを低減する、ネットワークセキュリティサービスを紹介。テレワーク向けに導入している自治体の事例などを紹介した。
三菱総合研究所の佐渡友裕之氏は、定型的なパソコン操作を自動化し、業務処理を効率化できるロボット「RPA(※)」が、複数の自治体で実験的に導入されている状況を解説。「導入の際には、プログラミング知識がなくてもロボットを作成でき、導入までの支援が充実しているサービスを選ぶのがよい」と話し、デリバリーコンサルティング社のソリューション『ipaS』を推奨した。
※RPA:Robotic Process Automationの略。ロボットによる業務自動化
カンファレンスを共催した時事通信社からは、約30年にわたって官公庁を取材してきた経歴をもつ武部隆氏が講演。働き方改革にかんしては、「静岡市の職員から出た“働き方改革は福利厚生にあらず”という言葉が印象的だった」と話し、「働き方改革を“企業の存続をかけた経営戦略”ととらえて普及を促進するべきだ」と訴えかけた。また、「企業に働き方改革を促すには、自治体が率先して自分たちの働き方を改革していかなければならない」とも語った。
―働き方改革に関連したサービス内容を教えてください。
オフィスと同等の業務を、「いつでも・どこでも・安全に」実現できる仮想クライアントサービス『s-WorkSquare』や、Web会議システム『sMeeting』などを提供しています。
NTTドコモグループ内でも、テレワークの実施で同様の機能を利用しています。グループで実施したアンケート結果では、「生産性が向上し、通常と変わらず業務ができた」との回答が80%、「ワークライフバランスの向上を実感した」が70%を超える結果となりました。こうした取り組みが評価され、NTTドコモは平成29年度「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」に選定されました。
―自治体での導入事例を紹介してください。
島根県の健康福祉部で『sMeeting』が採用されています。地方機関の職員の移動時間削減を含めた働き方改革実践の一環で、当サービスが選定されました。音声品質のよさやコストメリットなどが評価されたものと考えています。
今後も、当社の商材を活用して業務効率化を推進してもらうことで、自治体職員のワークライフバランスの実現に寄与できるよう、貢献できればと考えています。
小林 剛(こばやし たけし)プロフィール
昭和48年、新潟県生まれ。新潟大学大学院自然科学工学科修了。現在はドコモ・システムズ株式会社で、自治体・企業向けのサービス提供に従事。
ドコモ・システムズ株式会社
設立 |
昭和60年5月 |
資本金 |
113億8,287万3,615円 |
売上高 |
591億円(平成30年3月期) |
従業員数 |
777人(平成30年3月31日現在) |
事業内容 |
オフィスワーク向けクラウド型企業情報システムの開発・運用・サービス提供、セキュリティコンサルティング・環境構築業務 |
―働き方改革に関連してどのようなサービスを展開しているのでしょうか。
当社はITセキュリティ関連製品の開発・販売、サービス提供を行っています。特に、コンピュータネットワーク接続時の認証サーバ製品や、コンピュータ利用時の本人確認の仕組みを提供するソフトウェアが、多くの自治体や民間企業に採用されています。
働き方改革では、自宅など外部環境での業務遂行の機会が増えることで、重要情報の漏えいリスクが懸念されます。当社はこのリスクを軽減し、より安全かつ利便性を損なわないセキュリティ製品を提供することで、自治体の働き方改革を支援しています。
―自治体に提供しているサービスを紹介してください。
当社では、自治体の業務内容や端末種別などのニーズに応じ、セキュアブラウザ方式、アプリケーションラッピング方式、リモートデスクトップ方式と、3つの方式の製品から最適なものを提供できます。いずれも、情報の外部もち出しを制限し、利用端末や利用者の限定を実現するものです。
ある自治体は、「多様な働き方を支える業務環境の構築」のひとつとして、BYODでグループウェアへのリモートアクセスを実現し、生産性を向上させました。別の自治体では、災害支援のため被災地に派遣された職員が、自庁内の通常業務を派遣先で実施し、業務を効率化しています。
―今後の自治体の支援方針を聞かせてください。
自治体におけるコンピュータ関連のセキュリティ対策は、各種ガイドラインを考慮する必要があり、具体的な対策手法を決めることは、非常に難しくなっています。
当社では特に、パソコン利用時の二要素認証による本人確認の仕組み、庁内LANへの不正端末の接続防止策、不正プログラムによる被害対策、リモートアクセスの仕組みなどを得意とし、最適な対策方法を提案しています。情報セキュリティ対策全般に対してのご相談も乗りますので、お気軽にお問い合わせください。
富本 正幸(とみもと まさゆき)プロフィール
昭和46年、神奈川県生まれ。通信事業系会社を経て、平成12年に株式会社ソリトンシステムズに入社。公共担当として営業企画・販売推進の職に従事する。
株式会社ソリトンシステムズ
設立 |
昭和54年3月 |
資本金 |
13億2,650万円 |
売上高 |
165億円(平成29年12月期、連結) |
従業員数 |
732人(平成29年12月31日現在、ソリトングループ連結) |
事業内容 |
ITセキュリティ事業(ITセキュリティ、サイバー攻撃対策関連のオリジナル製品の開発・販売)、モバイルブロードキャスト事業(モバイル回線を利用した、高品質映像中継システムの開発・販売)、エコプロダクト事業(センサー、IoT関連機器の開発・販売) |
URL |
https://www.soliton.co.jp/ |
―働き方改革に関連したサービスを教えてください。
当社では、テクノロジー志向のコンサルティングサービス「テクノロジーコンサルティング」と、国内外の最先端ITソリューションを理解し、協業する「オープンイノベーション」の領域で、顧客のビジネスに新しい価値を提供しています。
働き方改革の原動力となる生産性向上のためのソリューションとしては、RPAを軸に、業務自動化ソリューション『ipaS』(アイパス)を提供することで、デジタル化を積極的に推進しています。『ipaS』は、PCで動作するシステム・アプリケーションに対し、いままで人が行っていたマウスやキーボードでの定型業務の操作を簡単に記録し、自動化することができます。
顧客である大手広告代理店では、約8時間かかる作業を『ipaS』を使って約30分に短縮させることに成功しました。
―自治体への展開の状況を聞かせてください。
すでに多くの自治体で、市民税納付書再発行業務や、利用申請者情報登録業務など、多数の業務を対象に実証試験を開始しています。
今後、自治体においても民間企業と同様に、デジタル化の推進が必要だと考えています。当社は、単にRPAを販売するだけではなく、導入後の展開もしっかりとサポートしています。デジタル化の一要素としてとらえているRPAを通じて、自治体全体の働き方改革へとつなげていきたいですね。
関 貴士(せき たかし)プロフィール
日本NCR株式会社などに勤務し
た後、平成28年、株式会社デリ
バリーコンサルティングに入社。
コンサルティング本部副本部長
を経て、平成29年より現職。
株式会社ソリトンシステムズ
設立 |
平成15年4月 |
資本金 |
2,902万5,000円 |
売上高 |
7億7,722万2,000円(平成30年7月期) |
従業員数 |
73人(平成30年8月現在) |
事業内容 |
情報システムにかんするコンサルティング、システム構築事業 |
URL |
http://www.deliv.co.jp/ |