ケーブルコンベンション2024 関連イベント「ケーブル技術ショー2024」(主催:(一社)日本CATV 技術協会/(一社)日本ケーブルテレビ連盟/(一社)衛星放送協会、後援:総務省(予定))が7月18日(木)・19日(金)に開催される(オンライン展示会:6月3日(月)~8月31日(土))。
今回の開催コンセプトは、「Let’s join DX with Cable TV!」。“ケーブルテレビで地域共創・地域DXを推進しよう”という意味が込められている。自治体と連携した地域DXで地域課題を解決していく、というケーブルテレビの新しい事業の推進は、今回のケーブル技術ショーの大きな目標だ。
そこで本記事では、自治体とケーブルテレビが連携した地域DXの注目事例を連載でレポートしていく。第1回目の今回は、静岡県三島市とTOKAIケーブルネットワークによる、水に関する防災と観光案内の情報発信を行う「水DX」をレポートする。(取材・文:渡辺 元・月刊ニューメディア編集長)
※月刊ニューメディア2024年2月号に三島市の「水DX」についてTOKAIケーブルネットワークを取材した記事を掲載した。今回は、新たに同社への最新の取材と、自治体側への取材を行い、記事を大幅に追加・再構成し、前後編の2回に分けて掲載する。(月刊ニューメディア編集部)
水と暮らす街の挑戦: 水害リスクと観光資源を両立する「水DX」
静岡県三島市は「水の都」とも呼ばれる。噴火した富士山から流れてきた溶岩の末端に位置する三島市には湧水群があり、中心市街地にも湧水や川が多数ある。楽寿園や源兵衛川、白滝公園、桜川など、水辺が美しい景勝地も多い。三島市では人々の暮らしのすぐ近くに湧水や川があり、人々は水と暮らしている。三島市の水に魅せられた観光客も国内外から大勢訪れる。しかし、暮らしの近くに水があることは、ひとたび大雨になれば水害の危険もあるということにほかならない。
そこで三島市は、水に関する防災と観光案内の両方を兼ね備えた情報発信をWebサイトで行う「水DX」のサービスを2023年に開始した。システムの構築を委託されたのは地元ケーブルテレビ事業者だ。水DXには同社の通信、映像、ICTの実績と技術力が活かされている。さらに、自治体内や自治体間の壁と越えた連携を実現させたことにも、同社の寄与が大きい。自治体が地元ケーブルテレビ事業者と組むことによって利用価値の高い地域DXを実現した、全国を代表する事例の一つだ。(取材・文:渡辺 元・月刊ニューメディア編集長)
市役所7部署をまとめた調整力
水DXは河川監視や水資源のPRなどをWebサイトで情報発信する、水関連の総合的な地域DXサービスだ。
システムの構築を委託されたのは地元ケーブルテレビ事業者のTOKAIケーブルネットワーク。
デジタル田園都市国家構想交付金(以下、デジ田)を獲得したプロジェクトだ。河川監視には、同社が免許を持っている地域BWAが使用され、河川のライブカメラ映像と水位のセンシングデータを伝送し、水DXのWebサイトで一般公開している。現在の水位などの状況だけでなく、AIを活用した水位変化の予測サービスも自治体に対して提供。その情報を基に自治体が「避難指示」を出す仕組みだ。インバウンドを対象にしたサービスでは、市内各地の川の映像や、三島市の水資源などを紹介している。
水DXの実現でTOKAIケーブルネットワークが果たした役割は大きい。
「三島市の水DXの原案は、最初はコンセプトを記したA 4書類1枚というシンプルなものでした。TOKAIケーブルネットワークがそこから、三島市のWebサイト上で防災用途の河川のライブカメラ映像や水位情報を提供したり、三島市内の水関連の名勝などのライブカメラ映像を紹介したりする観光用途の魅力発信を合わせた水DXのシステムとサービスとして具体化してくれました。
他のメーカーなどからも、河川に監視カメラを設置するといった提案は来ますが、それらは災害対策がメインです。それに対してTOKAIケーブルネットワークの提案内容が良かったのは、災害時だけでなく平時にも住民や観光客などが利用できることです。平時にも活用できることで、今後長期にわたって運用できる水DXを実現できました」(三島市 企画戦略部 デジタル戦略課 課長補佐 デジタル推進係長 木本 智 氏)
三島市 企画戦略部 デジタル戦略課
課長補佐 デジタル推進係長
木本 智
この水DXの大きな特長は、市役所内の縦割り行政を超え、各部署を横断する形で三島市の総合的なDXを実現している点だ。
水DXの各サービスは、管轄する市役所の部署がそれぞれ異なる。準用河川や内水氾濫水位監視は土木課、監視カメラは危機管理課、インバウンド向けサービスは「みどりと水のまちづくり課」、水質情報は環境政策課といったように、水DXだけで市役所内の7つの部署に管轄が分れている。さらに1級河川の監視は国、2級河川は県が管轄している。
この縦割り行政の組織の壁を越えることができたのは、ケーブルテレビ事業者であるTOKAIケーブルネットワークが市役所の各部所と調整を行ったからと言える。デジ田の申請準備の中で、株式会社TOKAIケーブルネットワーク次世代成長戦略本部 広域展開部 広域展開推進一課 課長川口 尊氏は、市役所でデジ田を取りまとめた政策企画課をはじめ、土木課など水DXの各サービスの管轄部署を行き来して、各部署間の調整や交渉を繰り返し、部署間連携を作り上げていった。
「市役所内のさまざまな課のお話を聞き、他の部署に丁寧に説明したり、交渉したりして、できるだけそれぞれの課の要望を叶えるシステム、サービスを実現できるように調整をしました」(TOKAIケーブルネットワーク・川口課長)。
株式会社TOKAIケーブルネットワーク
次世代成長戦略本部 広域展開部 広域展開推進一課 課長
川口 尊 氏
市役所内の公園、農地、土木、危機管理、上水道、下水道といった課によって水DXの目的や要件が異なる中で、各課が納得する内容に同社が調整を果たしたことへの三島市側の評価は高い。
「各課の要望を調整するためには、システム技術的な知見が必要です。完成した形のイメージも把握していなければ調整が困難です。その点で、TOKAI ケーブルネットワークがうまく各課間で説明・調整していただきました」(三島市 企画戦略部 デジタル戦略課 主査 杉山翔一朗 氏)。
各部署にそれぞれ政策目標があり、調整は容易ではない。この縦割り行政の壁を越えることができたのは、日頃、市役所の各部署と密接な関係と信頼を築いているケーブルテレビが調整役を担ったからだ。
株式会社TOKAIケーブルネットワーク 常務取締役 劔持成利氏は、「地域DXを各地域の目的に合わせてトータルコーディネートする役割は、地元の自治体と信頼関係を築いているケーブルテレビ事業者が担うのが理想的です」と述べる。
今回のデジ田の申請は構想と部署間の調整に時間を要し、企画提案書の作成をエントリー締め切りまでの土日を挟んだわずか数日間で行い申請し、採択された。部署間の調整は、担当者が約3年ごとに異動するという市役所の慣習が、さらに困難なものとしている。これだけ短時間で企画と調整を成功できたのは、ケーブルテレビ事業者が担当したのが大きな要因だろう。
また、「デジ田の申請では、事業におけるメッセージ性やインパクトも必要でした。地域BWAを河川の危機管理に活用するというストーリーもありますが、最大の目玉はAIによる危機の未来予測です」(TOKAIケーブルネットワーク・川口課長)。
国・県とのデータ連携の重要性
国が管理する1級河川、県が管理する2級河川の水位などに関するデータは、基本的にオープンデータとして公開され、自由に利用できる。しかし、システムが異なるため、市が管理している準用河川のデータなども併せて集約し、一元的に可視化する必要がある。
「河川の監視カメラや水位計は、一級河川は国、二級河川は県の機器が使われています。三島市の水DXの特徴の一つは、国、県、市などの情報を一つのシステムで一元化して見ることができることです。1つのシステムに統合されたことで、高い利便性を実現できました。さまざまなデータを統一感のあるデザインで見ることができるのもわかりやすく優れています」(三島市・杉山主査)。
現在、多くの自治体では、国、県、市と異なる映像や水位データを確認しなければならないため、作業の煩雑さに悩まされている防災対策担当者は多い。
「それを1つのシステムで確認することができるようにしました。国や県の河川映像や水位データはオープンデータですが、一元化して見られるようにするには、システム的に連携させなければなりません。
三島市の水DX のシステムでは、弊社がAPI の接続など技術面や、オープンデータを管理している会社への接続料支払などを担っています。県のオープンデータは県内全自治体のデータを利用できます。川の上流に位置する近隣自治体の水位情報は防災に有益で、データ連携できることは重要です。
住民の方にとっては、1級河川や2級河川といった区分や管理者の違いは関係なく、家の近くの河川の情報を知りたいのです。しかし、別々の組織が管理しており、国、県、市が自ら歩み寄ることは困難です。
各種のオープンデータを住民の方のニーズに応じてつなぎ合わせるためには、当事者意識を持った調整者が必要です。その役割には、地元をよく知っているケーブルテレビのような民間企業が適しています」(TOKAIケーブルネットワーク・川口課長)。
(続く)
ここまで、行政の組織の壁を越えたDXでの連携や、各種オープンデータの連携で、地域密着の事業者としてのTOKAIケーブルネットワークがその調整者の役割をいかに果たしてきたかを見てきた。
だが、水DXで同社が寄与したのはそれだけではない。水DXに不可欠なライブカメラ映像やセンサーデータの伝送などで、通信事業者であるケーブルテレビのインフラや技術力が活用され、災害時でも強靭な高性能・高信頼の水DXを実現している。
次回配信する本記事「後編」では、三島市が通信事業者であるTOKAIケーブルネットワークにシステム構築を委託したことによる効果について、技術面からレポートする。
後編はこちら
プロフィール
『月刊ニューメディア』 編集長 渡辺 元
情報通信業界の変遷を第一線で取材してきたジャーナリスト。現在は、月刊ニューメディアの編集長として、情報通信政策やメディアビジネス、放送・通信技術などに関する最新情報を発信する一方、各種イベントでの講演活動などを通じて、情報通信業界の未来について提言。
地域課題解決に貢献する官民連携マッチングイベント・参加無料
ケーブルテレビ事業者は、地域密着型の強みを活かし、地方公共団体や民間企業と連携することで、地域創生・自治体DXを加速させています。
そこで、「ケーブル技術ショー2024」では、地域創生・自治体DXを推進する地方公共団体とケーブルテレビ事業者を結びつけるオンラインマッチングイベントを6月に開催いたします。
例えば、以下のテーマで、双方のニーズに合致したマッチングを行うことが可能です。
・高齢者向けサービス
・買い物支援サービス
・防災DX情報配信システム
・教育ICT
・スマートシティ
・その他、地域創生・自治体DXに関する課題
【こんな方におすすめ】
デジタル推進とか、いろいろ言われているが、予算の伝え方を含めて、アイデアが欲しいし、サポートが欲しい、伴走者が欲しいというお困りごとを抱えているような、地方公共団体で地域創生・自治体DXを担当されている方
【開催期間】
6月3日(月)~7月12日(金)
【参加申込締切】
2024年4月5日(金)
【参加申込】
申込専用フォームから参加登録を行い、地域共創・地域DXなどに関する課題やニーズを登録しますと、マッチングリストをお知らせいたします。
面談の相手は、面談候補者の中から、希望条件に合致した方を自由にお選びいただけます。
希望条件に合わない場合は、お断り可能です。
オンライン開催のため、出張申請や経費精算が不要であり、自席からでも参加可能です。
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