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地域活性が日本を元気にする

地域活性が日本を元気にする

これからの自治体は経営の発想を取り入れ、政策立案に集中すべき

地域活性が日本を元気にする

前高知県知事 橋本 大二郎

少子高齢化、税収減、都市部への一極集中など、いま自治体の多くが大きな曲がり角に立たされている。これからの自治体はどこに針路をとるべきか。高知県知事時代に数々の改革を成し遂げた橋本氏に聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.1(経営者通信31号自治体特集)(2014年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

補助金依存と決別し「地域自立の国づくり」を目指せ

―いま自治体は多くの課題に直面しています。どうすればこの難局を打開できますか。

 自分たちの個性や独自性を伸ばし、競争力を身につければ必ず状況は打開できます。そのためには国に依存しない覚悟が自治体に必要。それを私は「地域自立型の国づくり」と表現し、高知県知事時代から提唱してきました。
「地方分権」という言葉がありますが、そこには「地方が国にお願いして権限を分けてもらう」という考えが潜んでいる。中央集権構造の温存が前提の地方分権では、本質的な地域活性は達成できないでしょう。いま求められているのは、権限を上から下に分け与える分権ではなく、地域が自立し、国と地方が対等な立場になることです。

―地方と国が対等の関係になるためには、なにが必要ですか。

 自主財源を増やし、国からの補助金依存に決別すれば対等な関係になれます。補助金は予算執行が国から厳格に管理されるため、駅前の再開発にしろ、公園や道路の整備にしろ、どうしても計画内容が均一化し、地方から個性を喪失させます。これでは、地域活性は図れません。

―どうすれば自主財源を増やせますか。

 人を呼びこみ、地方消費税を増やすしかありません。旧来の代表的な自主財源モデルは、企業誘致によって法人税収を増やす、というものでした。しかし、グローバル化によって海外に生産拠点を移す企業が増加するなど、そのモデルはもはや通用しません。
 これからは、国依存から脱却して地域の個性と独自性を伸ばし、人を呼びこむ力を身につけて自主財源を増やす。そうした取り組みが自治体には求められるのです。限られた財源のなかで、その目的を達成するには、コスト管理や投資効率の追求に優れた経営の発想が自治体にとって参考になるでしょう。

自治体も顧客満足度を追求せよ

―営利追求の企業と公共サービス提供の自治体では組織目的が異なるので、相いれないのではありませんか。

 いいえ。組織の性格は異なっていても、目標達成や課題解決のプロセスは共通する部分が多いのです。たとえば、企業はもっとも投資負担の少ない手段で目標を達成させようとします。限られた財源のなかで最大の結果を得ようとするのは自治体も同じです。
 また、企業のマーケティング手法には、自治体の個性と独自性を伸ばすためのヒントがあります。

―どのようなヒントがあるのですか。

 高知県知事時代、私はことあるごとに「お客さんは誰かをよく考えよう」と職員に訴えていました。自治体にとっての「お客さん」とは行政サービスを必要としている人たちのことです。たとえば福祉担当なら高齢者、教育担当なら子どもたち。そうした自治体のお客さんを第一に考え、満足度を高めるためになにをすべきかを考える。ニーズをあぶり出し、最小の予算で最大の効果を追求していく。これは従来の自治体の方法論にはない発想です。
 このように、旧来にはない大胆な発想で仕事に取り組む自治体職員が増えれば、日本はもっと元気になります。そのためにも、自治体は業務執行から政策立案に軸足を移すべきです。

大胆なアウトソースで政策立案に特化すべき

―自治体が政策立案にシフトすべき理由を聞かせてください。

 自治体の職員は優秀です。そうした職員たちを政策立案に集中させれば、厳しい環境を打開できる新しい知恵が必ず出てくるからです。
 しかし自治体職員の多くは、日々の業務だけで疲弊しているのが実情。そうした現状を変え、自治体職員がもっている潜在力を開花させるには、産学や地域住民、NPOとのネットワークを活かし、民間にまかせられる業務を大胆にアウトソーシングすべきです。
 自治体の仕事を拾い集めると膨大な数になりますが、縦割りの部門別ではなく横串で考えてみると、受付、審査、企画、広報など、共通するいくつかの業務に分類できます。高知県では70程度の業務にわけました。そして、そのなかには民間にアウトソーシングできる業務がいくつもあります。民間にまかせられることはまかせ、職員は政策立案に集中する。それが、新しい自治体の姿だと思います。
 また、地方の個性や強みを伸ばすためには、現行の入札制度の改革も避けては通れない課題のひとつでしょう。

個性あるまちづくりには民間の知恵が必要

―なぜ、入札制度の改革が必要なのですか。

 現在の競争入札の仕組みでは価格競争になり、どうしても「安かろう悪かろう」に流れやすいからです。
 もちろん、競争入札で落札した受託業者のなかにも良質なサービスや、優れた技術を提供している会社は数多く存在します。しかし、多くの受託業者は、価格競争だけに腐心しているのが現状です。
 個性あるまちづくりを行うには、価格競争の観点だけではなく、アイデアにあふれた優秀な民間の知恵が必要です。とくに文化的な事業や地域の個性づくりに関する事業は、決定プロセスの透明化を徹底的に図ったうえで、首長に事業者選定の権限を与えてもいいと思います。
 いま自治体は大きな曲がり角に立っています。地方活性が日本を元気にするという志をもち、旧来の方法にとらわれない新しい発想でチャレンジする自治体を応援し続けたいですね。

橋本 大二郎(はしもと だいじろう)プロフィール

1947年、東京都生まれ。1972年に慶應義塾大学を卒業後、NHKに入局。社会部記者、キャスターとして活躍。1991年にNHKを退職し、高知県知事選挙に立候補。同知事選挙史上最多の31万6968票獲得して初当選した。4期目の2007年に任期満了で知事を退任。在任中、官官接待の廃止、国体の簡素化、1.5車線の道路整備、森林環境税の導入などを手がけ「元祖・改革派知事」と呼ばれた。現職は武蔵野大学客員教授、慶應義塾大学特別招聘教授。著書に『未来へ―「霞が関と永田町」大改革の処方箋』 (プレジデント社)、『知事―地方から日本が変わる』(平凡社新書)などがある。

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