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「県民の幸せ」の追求が県政の原点。制度ありきではなくニーズが大事です

「県民の幸せ」の追求が県政の原点。制度ありきではなくニーズが大事です

和歌山県 の取り組み

和歌山県が取り組む独自の観光施策、企業誘致とは

「県民の幸せ」の追求が県政の原点。制度ありきではなくニーズが大事です

和歌山県知事 仁坂 吉伸

地域活性化のためには多様な施策が必要であり、産業振興も重要な施策のひとつ。そんななか、和歌山県では国内外を含めて順調に観光客数を伸ばしているほか、企業誘致にも積極的だ。就任から10年が経過し、平成29年度に新たな長期総合計画を策定した和歌山県知事の仁坂氏に、観光施策、企業誘致といった産業振興施策の詳細などを聞いた。

※下記は自治体通信 Vol.11(2018年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

県がもつポテンシャリティをさらに引き出していく

―近年、和歌山県に訪れる国内外の観光客が増加しています。どんな観光施策を行っているのですか。

 観光客を増やすためには4つの取り組みが必要だと思っています。まず、素質があるかどうか。これは、われわれがどうこうする話ではないかもしれませんが、和歌山県にはたくさんの素質があります。自然がいっぱいで、海も川もキレイで温泉もある。海産物や果物も豊富で、歴史的遺産もいっぱい。「紀伊山地の霊場と参詣道」といった“歩く遺産”、いわゆる体験型の世界遺産だってある。そうした、人を呼び込むコンテンツが本当にたくさんあるんです。

 2番目は、お客さまをお迎えする整備をすること。やはり、不便なところでは誰も来てくれませんから。以前の和歌山県は、近隣と比べて交通の便がよくありませんでした。近年は近畿自動車道紀勢線がすさみまで届くようになったほか、京奈和自動車道によって東名阪などから高野山へ簡単に行けるようになっています。

―3番目はなんですか。

 プロモーションです。せっかくの素材を、ただ「いいぞ」というだけではしょうがない。外部の人たちを刺激するような演出が必要です。たとえば「ほんまもん体験」。これは藍染や果物狩り、カヌー乗りといった体験を農家民泊などとからめてプラン化して、全国にアピールする取り組みで、人気企画です。今後は、「水」を切り口に和歌山県の豊富な自然の魅力を発信する「水の国、わかやま。」、県内全域にサイクリングロードを整備する「サイクリング王国わかやま」、歴史や文化をテーマに旅モデルを紹介する「わかやま歴史物語」といった取り組みを強化していきます。

―4番目を教えてください。

「おもてなし」です。たとえばトイレ。熊野古道や駅前の公衆トイレにも温水洗浄便座を標準装備。また、外国人に対応するための「Wi-Fi」整備や多言語に対応した「電話通訳サービス」の導入を県庁主導で進めています。観光案内も「豊臣秀吉が攻めてきて…」を直訳しても、そもそも豊臣秀吉のことを外国人は知らない。そのため、歴史の背景がわかるような案内を多言語で表示しています。

 こうして、平成28年の観光入込客数は約3487万人、外国人宿泊客数は約50万人と、過去最高を記録しました。ただ、和歌山県がもつポテンシャリティを考えると、まだまだこんなものではありません。今後もさまざまな取り組みによって、集客を図っていきます。

企業経営者が嫌がるのは「行政のレッドテープ」

―企業誘致にも積極的ですね。

 そうですね。もちろん産業育成がいちばん大事ですが、新しい血をどんどん入れて活性化を図るのも重要。そこでいま、一生懸命企業誘致を行っています。

 これも必要なことが4つあると思っていて、1番目は再び交通の便。またこうしたインフラにくわえ、教育や医療といった社会インフラも重要で、これも整えました。

 2番目は、これも再びプロモーションですね。そして、3番目が奨励金。お金ありきで企業誘致ができるほど甘くはありませんが、なければないで困りますから。そういう意味で、最高100億円の奨励金を用意しています。

 そして、いちばん重要なのが行政です。規則が細かすぎたり、煩雑な手続きが多かったりといった、「行政のレッドテープ」を企業経営者はいちばん嫌がります。そこで和歌山県では、私が鬼のような統制で必要な手続きなどをスピーディに対応しています(笑)。

 おかげで、この10年間は以前の倍のペースで企業誘致の件数が増えています。

どうすればよくなるかが行動原理になるべき

―仁坂さんが行政をしていくうえで、大事にしていることはなんでしょう。

 これも4つあるんですけど、いいですか(笑)。ひとつは「制度」ではなく「ニーズ」で考えること。「県民を幸せにするためにはどういうことが必要か」を考えるのが県政の原点。「こういう制度をずっと運用しています」という事実は関係ありません。私がよくいうのは「憲法を変えるのは難しい。法律も時間がかかる。政令だったら2週間、省令は1週間くらいで変えられる。解釈なんて1日だ」と。そういった柔軟な対応を、理をつくしてガンガンやればいいんです。「いままでやってきたから」ではなく「どうすればよくなるか」が、行動原理にならないといけません。

―2番目はなんですか。

 理屈・理論・理由です。こうしたものに反した行動をすると、必ずしっぺ返しをくらいます。どういうことかというと、「一部の人が幸せになるけど、まち全体が崩壊する」といった取り組みをしないということ。じつはそういうような話ってたくさんあるんですよ。多数派の意見に迎合するのではなく、勇気をもって正しい方向に誘導する必要があるのです。

 3番目が決断力。なにをするにも最後は「やる」と決め、その後の責任を取らないといけません。知事とは、責任を取るために存在しているもの。ですから喜々として責任を取ろうということです。

 そして最後は、自分のために仕事をしないこと。もっと露骨にいうと、「選挙で選ばれたい」と思って仕事をしちゃいけませんよ、と。「人のために」というとおこがましいですが、トップに必要なマインドは「正義」と「おもいやり」だと思っています。

県民のなかに分け入って情報をえるのが重要

―職員とはどんなコミュニケーションを取っているのでしょう。

 かつて寺山修二氏が「書を捨てよ、町へ出よう」と記しましたが「書を捨てず、まちに出よう」といっています。県民ニーズを知るには、私も含めて県民のなかに分け入らないといけません。ですから、「まちに出よ」と。書は大事なので捨ててはいけません(笑)。

 そのための具体策として、『産業別担当者制度』を実施。県内産業ごとに担当者を割り当て、関係企業などとの意見交換を通じて現状や課題を把握し、県の施策立案に活かすのが狙いです。

 また、10年くらい前の県職員は語学ができず、外国人対応が苦手でした。そこで、語学対応するよう要請。いまでは100人を超える職員が英語など外国語を話せるようになり、どんどんひとりで海外に出ていってプロモーションを行っています。

 こうした取り組みを通じて「全員が知事になったつもりで行動しよう」ともいっています。知事の視点でいろいろ議論し、失敗してもいいから行動して、施策立案するクセをつけていく。それが浸透すれば、私はもういらない。それが究極の理想です。

仁坂 吉伸(にさか よしのぶ)プロフィール

昭和25年、和歌山県生まれ。昭和49年に東京大学経済学部経済学科を卒業後、通商産業省(現:経済産業省)に入省。通商産業省生活産業局総務課長、経済産業省大臣官房審議官、経済産業省製造産業局次長などを経て、平成15年にブルネイ国大使、平成18年に社団法人日本貿易会専務理事に就任する。同年、和歌山県知事に就任。現在は知事として3期目を務めている。

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