※下記は自治体通信 Vol.23(2020年4月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
近年、西条市(愛媛県)が、「住みたい田舎」として注目を集めている。事実、同市における平成30年度の移住者数は、前年度対比で約3倍を実現した。その背景には、人口減少に危機感をもった同市の戦略的な移住・定住施策があるという。いったい、どのような取り組みなのだろうか。市長の玉井氏に、取り組みの詳細を聞いた。
半数以上の「小学校区」に、消滅する可能性が浮上 ―西条市が戦略的に取り組んでいる移住・定住施策の詳細について教えてください。
どの自治体もそうですが、西条市も人口減少は進んでいます。平成26年に、日本創成会議の人口減少問題検討分科会が公表した消滅可能性都市(※)に、西条市は含まれていませんでした。それ自体は、悪い話ではありません。ただ、西条市が消滅可能性都市と同様の定義で市内を小学校区別で独自に調査したところ、全25小学校区のうち、半数以上の15小学校区が消滅可能性都市に該当していたのです。
当市ではこの結果を市民に公開し、市民の理解と協力を得ながら対策を練っていこう、と。課題解決のためには、やはり移住・定住施策は重要で、大きな柱として打ち出すことにしたのです。
※消滅可能性都市:人口流出・少子化が進み、存続できなくなるおそれがある自治体を指す。定義は「2010年の国勢調査を基準年として、2040年時点で20~39歳の女性人口が5割以下に減少する自治体」となっている
―どのような施策を行ったのでしょう。
まずは、関東圏に向けて紙やテレビといったメディアを活用し、シティプロモーションを行いました。さらに、積極的に東京都で開催される移住・交流フェアに出展。そのほか、移住促進サイト「LIVE IN 西条」の開設や、関係人口の拡大を狙った「LOVE SAIJOファンクラブ」の立ち上げ、FacebookやInstagramなどのSNSを活用したPRなど、さまざまなツールを駆使して、まずは西条市のことを知ってもらおうとしたのです。
そのうえで、次はより具体的な取り組みを行いました。
無料体験ツアーと、起業型地域おこし協力隊 ―それはなんですか。
西条市を知ってもらい、移住への意思が高まった子育て世代を対象にした、完全オーダーメイド型の移住体験ツアーを開催しました。一泊二日で、交通費・食費・宿泊費は無料。「農業がしたい」という人には、西部地区の田畑を案内し、「教育の状況を知りたい」という人には、当市のICTを活用した遠隔合同授業の様子を見学してもらったり。ちなみにこのICT教育の取り組みは「全国ICT教育首長協議会」で、「2018 日本ICT教育アワード」を受賞したこともあり、けっこう評判なんですよ。これが、移住の決め手になった参加者もいますからね。
また、実際に移住をしている方が「移住コンシェルジュ」役として、ツアー参加者に西条市の不便なところも含めて率直に話してくれるので、よりマッチング度が高まるというわけです。
―ほかに取り組んでいることがあれば教えてください。
民間企業と連携し、若者向けに市内で起業することを前提とした、地域おこし協力隊を募る「起業型地域おこし協力隊」を実施。まずは民間企業3人の方にコーディネーターとして西条市に来てもらい、市内にどういったビジネスチャンスがあるかをチェック。そこから起業希望者を募り、3人との面談やプレゼンなどを通じ、適していると思われる方を地域おこし協力隊として迎え入れ、一緒に起業まで伴走していくスキームです。
―地域おこし協力隊の期間が終了しても、自立して市内で働けるように支援するわけですね。
ええ。現在、13人の若者が地域おこし協力隊として活躍しており、フードコーディネートや加工農業、スポーツアクティビティなどさまざまなジャンルで、起業に向けてがんばっています。その拠点として、市内の商店街にコワーキングスペース「紺屋町dein(デイン)」を開設。起業意欲のある若者が集まることで、切磋琢磨する環境が生まれています。これがきっかけで、「西条市は若い人が挑戦できるまち」というイメージが徐々に広まり、さらなる移住の促進につながっていると思います。
雑誌のランキングで「全国第1位」に選出された ―そうした取り組みにおける定量的な成果を教えてください。
平成29年度の移住者が106人だったのに対し、平成30年度には289人と約3倍に増えました。ツアー参加者からは、平成30年度から4組11人の移住が確定。令和元年度は4組8人の移住が確定し、3組13人がほぼ確定見込みと、確実に成果につながっています。こうした成果が出たのも、先ほど言った各種取り組みを地道に行ってきた結果だと考えています。
さらに、そうした取り組みが評価された副次効果もありました。
―それはなんでしょう。
宝島社が発行する『田舎暮らしの本』で発表された「2019年版 住みたい田舎ベストランキング」において、総合部門・若者世代部門・子育て世代部門・シニア世代部門・自然の恵み部門の全部門で、四国第1位を獲得。人口10万人以上を対象にしたランキングでは、全国第12位に選ばれました。
さらに、最近発行された同雑誌の2020年版では、引き続き全部門で四国第1位を獲得し、2連覇を達成。若者世代が住みたい田舎部門では、全国第1位に選ばれました。こうした評価は素直にうれしいですし、我々にとっても励みになります。西条市出身の方たちも、うれしくてたまらなくなって、どんどんこの情報を発信してくれているんですよ(笑)。この評価がまた、移住者増の呼び水になってくれると期待しています。
「持続可能なまち西条」をバトンタッチする ―移住・定住施策における今後のビジョンを教えてください。
引き続き、シティプロモーションの推進、子育て世代向けの無料個別移住体験ツアー、若者に向けた起業型地域おこし協力隊の活動を軸に、若者世代の移住・定住への取り組みを促進していきます。今後は、移住者の「住む」「働く」「暮らす」をフォローすることで、新たな人生のチャレンジを応援するプラットフォームを構築していきたいと考えています。
西条市は、人口が約10万9,000人の小さな地方都市ですが、四国でも屈指の工業都市を形成。一方で、経営耕地面積は四国一の広さを誇っており、工業と農業のバランスが整った大きなポテンシャルを秘めたフィールドだと思っています。それを最大限に活かすことによって、私が職員や市民の方によく言っているスローガンを実行していきます。
―どのようなスローガンですか。
「勝ち残るまち」の実現です。人口減少、少子高齢化が加速するなか、都市間競争は激しくなっています。次代を担う若人へ「持続可能なまち西条」をバトンタッチするとの熱き心で、市政運営に努めてまいります。必ずやり遂げます。
玉井 敏久 (たまい としひさ) プロフィール
昭和38年、愛媛県西条市生まれ。昭和57年に高校卒業後、四国電力株式会社へ入社。平成12年に四国電力労働組合専従、平成18年に四国電力へ復職後、平成19年、愛媛県議会議員に初当選。平成28年から西条市長就任。