過疎高齢化が進む中山間地域の挑戦
町民ファースト視点のデジタル化で 「持続可能なまち」をめざす
北広島町長 箕野 博司
※下記は自治体通信 Vol.33(2021年10月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
人口約1万8,000人を擁し、面積の8割以上を森林地帯が占めている北広島町(広島県)。そんな同町では近年、積極的なDX推進が行われており、令和3年5月には、「北広島町デジタル町民ファースト宣言」が発出された。いったいどのようなビジョンがあるのか。同町長の箕野氏に、宣言をした背景や、取り組んでいるDX推進の詳細を聞いた。
真に優先すべきは、町民生活の豊かさ
―令和3年5月、「北広島町デジタル町民ファースト宣言」を発出した背景を教えてください。
これまで以上に多様化する地域課題や町民の困りごとを、デジタルによって解決していく決意を町内外に発信するためです。
本町では、令和2年4月、総務課内に「北広島町DXチーム」を創設。少子高齢化や人口減少が進むなか、便利で暮らしやすい「持続可能なまち」をつくるため、行政サービスのDXを進めていこうと。折しも、今回のコロナ禍により、DXはさらに加速化していくでしょう。ただ、「デジタルファースト」だと「なによりデジタル化を優先する」とイメージしがちですが、真に優先すべきは「町民生活の豊かさ」です。そこで、令和3年4月に「北広島町行政サービスDX戦略」を策定したタイミングで、宣言を行ったのです。
―具体的にどのような取り組みを行っていくのでしょう。
大きく、8つの重点課題を掲げて取り組んでいきます。基本的には、町民参加型のワークショップで出た意見やこれまで寄せられてきた要望、コロナ禍における生活様式に必要な行政サービスの視点などから抽出しました。どれも重要な課題ですが、なかでも本町が重視しているのは「FTTH*1を活用した新たなサービスの創造」です。
現在、多くの住民には本町が運営する「きたひろネット」という同軸ケーブルによるインターネットサービスを利用いただいていますが、以前からFTTH化を求める声が多くあがっていました。「きたひろネット」は十数年前に敷設されたものですが、近年は動画視聴のニーズが増え、対応が難しくなっていたのです。そこで、持続可能な通信技術を担保するため、民設民営によるFTTH化を進めているところなのです。
まずはできるところから、デジタル化を進めていく
―ほかに重視している課題はありますか。
たとえば、「デジタル普及員制度の構築」ですね。当町は過疎高齢化がかなり進んでいる地域のため、デジタル化にすぐ対応できない町民もいます。「誰も取り残されない」ためにも、そうした普及員のサポートによってデジタルに対応できる社会環境を整えていくことが大切だと考えているのです。
また、「リモートワークやオンライン会議の促進」には2つの意味あいがあります。1つは、庁内業務における促進。もう1つは、企業や人材誘致といった観点の促進です。庁内における働き方改革はもちろん、住環境の良い北広島町でテレワークをしてもらったり、廃校などをリノベーションしたサテライトオフィスを開設したりといったことも考えられます。
すべての取り組みが一気に進むわけではありませんが、まずはできるところからデジタル化を図っていこうと考えています。
―町民や職員の反応はいかがでしょう。
やはり町民や職員からは、「本当にできるのか」「具体的になにをするのか」「なにから取りかかるのか」などの声が実際に出ています。そうした声に対しては、本町が目指す姿の共有や小さな成功体験の積み重ねが重要ではないかと考えています。
たとえば最近では、新型コロナワクチン接種のインターネット予約。電話の予約と並行して行ったのですが、高齢者の方から「なんぼ電話かけてもつながらん」という苦情を多くいただいて。そこで本町では支所も含め、高齢者へのインターネット予約のサポートを行いました。多くの高齢者から「予約ができた」と喜ばれたのですが、そうした経験を通じて、「インターネットのほうが簡単に予約できる」ということを、職員も含めて感じてもらえたはずです。
またそのほかに、町民にわかりやすいカタチで独自の取り組みを行う予定です。
町内だけでなく、外部のノウハウも重要
―どのような取り組みですか。
「ひろしまサンドボックス*2」事業を活用した、官民連携の取り組みです。先ほど述べた通り、過疎高齢化が進む本町では、将来的に現状の物流インフラの維持や高齢者の買い物が困難になっていくことが予想されます。そこで、自動配送ロボットを活用した商品配送の実証実験を行おうと。実際には、ロボット製作を手がける東京のベンチャー企業と地元の小売店と三者間での連携協定を結び、庁舎とショッピングセンターをフィールドにして今年の9月から実証実験を行う予定です。まだ本当に実験の段階ですが、本町のような地域の住民にとって、大きな課題解決のきっかけになることを期待しています。
このように、町内だけではなく外部からのノウハウを積極的に取り入れることもDX推進には重要だと考えているのです。
8つの課題を皮切りに、「夢」の実現に取り組みたい
―今後におけるDX推進の方針を教えてください。
町民視点はもちろん、町民が「デジタル化をすることでどのように生活が便利になるか」がイメージしやすいDXに取り組んでいきたいと考えています。いまは全国的に少子高齢化や人口減少が進んでおり、なかなか夢を語ることは難しいですが、デジタルの部分では語れます。たとえば、本町では農業や林業の後継者問題がありますが、スマート農業、スマート林業による働き手の獲得であったり、あるいはリモートによるかかりつけ医の問診であったり、地域コミュニティの維持であったりなど。特に高齢化が進んでいる本町のような中山間地域では、DXで解決できる問題がけっこうあると思っています。8つの課題を皮切りにしつつ、ゆくゆくはそういった「夢」も実現していければと。
また職員に対しては、3つの視点を念頭に置きながらDXに取り組んでもらいたいと言っています。
―それはなんですか。
やはり、いちばんは町民ファーストの視点です。つねに利用者の目線で、業務を改善することが重要ですから。そして、失敗を活かすこと。これまでの失敗や苦情を客観的に分析し、これまで当たり前に行ってきたサービスの提供方法を根本的に見直すことも大切です。最後に、職員自体が主体的にかかわるという意識を醸成すること。そのために、ワーキングチームによる組織横断的な推進体制の整備や職員研修の充実を図っていく予定です。町民と職員からの協力を得つつ、今後も町内全体でDXに取り組んでいきます。
箕野 博司 (みの ひろし) プロフィール
昭和30年、広島県生まれ。昭和54年に広島大学理学部数学科を卒業後、千代田町農業協同組合(現:広島北部農業協同組合)に入組。平成21年、広島北部農業協同組合理事に就任する。平成25年、北広島町長に就任。現在は3期目。