国と各団体の協力を得て総力戦で挑んでいく
同じマインドをもつ47人が団結し、新型コロナウイルスに立ち向かう
全国知事会会長/鳥取県知事 平井 伸治
※下記は自治体通信35号(Vol.35・2022年1月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。
令和3年9月3日、過去最多となる40人の知事からの推薦を得て、鳥取県知事の平井氏が全国知事会の会長に就任した。目下のところ、各自治体が最優先に取り組むべき課題は、状況が落ち着きつつあるなかにあっても、新型コロナウイルス感染症対策にほかならない。そうしたなか、新会長となった同氏はどのような考えのもと、どういった施策を行っていくのか。平井氏に詳細を聞いた。(インタビューは10月12日に行いました)
期待をされているぶん、責任は大きい
―過去最多となる、40人の知事からの推薦を得ての会長就任をどのように受け止めていますか。
昨年1月以降、日本は新型コロナウイルスに翻弄され続けてきました。そうしたなか、私は全国知事会において、新型コロナウイルス緊急対策本部の本部長代行や、社会保障常任委員会の委員長として、感染症対策の言わば中核を担ってきました。これだけ多くの推薦があったというのは、やはり私のそれまでの経験が評価されたうえで、新型コロナウイルス対策に引き続き注力することを期待されていると。これにつきると思います。期待をされているぶん、裏を返せばそれだけ責任が大きい。私自身も覚悟を決めて、会長職を担っていきたいと考えています。
―どのように対策を行っていくのでしょう。
やはり、47人の知事が結束して新型コロナウイルスに立ち向かっていくことが重要です。各知事にはそれぞれの立場があり、当然、主張は異なります。しかし今は、新型コロナウイルス感染症をなんとか収め、住民の安全と命を守りたい一心なわけです。この点において、すべてのマインドがきれいにそろっています。さらに、Web会議システムの活用が当たり前になったことで、北海道から沖縄までの各知事が集まり、意見を戦わせる機会が増えました。コロナ禍にありながら、こうした「禍を転じて福となす」とも言うべき効果も見られます。
また、国と全国知事会との連携もさらに重要になってきますが、こちらもコロナ禍のなか、新しい関係性が生まれてきていると感じています。
国や各団体と構築した、新たなパートナーシップ
―どのような関係性ですか。
ものごとを、機動的に進めていける関係性です。たとえば、通常であれば、知事会が財政制度や社会保障制度のあり方などをそれぞれの立場をもつ知事の間で討論、調整したうえで国へ提起する。そして、数年かけて予算化される。それが知事会と国における、役割と体制だったと思います。しかし、コロナ禍では、都市部や地方部に関係なく、知事会で一致団結しながら討論を進め、すばやく現場のニーズを国にぶつける。国もそれを受け止め、非常に困難な調整を乗り越え、早ければ1~2ヵ月で予算化、実施されることも。たとえば、飲食店に対する感染防止対策協力金が、それに該当します。
このように、コロナ禍ならではの、自治体と国との関係性が生まれていると感じているのです。こうした、厳しい状況のなかでつくられたパートナーシップを退歩させることなく前に進めていくことで、地方自治も実りの多いものに変わっていくのではないかと。
また、パートナーシップで言うと、「各団体とのパートナーシップ」もさらに強めていきます。
―詳しく教えてください。
たとえば、医療提供体制を整備していくためには、感染状況や病床の空き状況など、現場の状況を把握しなければなりません。そこで、日本医師会と連携し、意見交換を行う。宿泊療養施設が必要なら、経団連と連携して宿泊施設の提供を模索する。あるいは日本商工会議所と連携し、経済対策に向けた協力要請を国に対して行ったり、日本旅行業協会や全国旅行業協会と連携し、観光支援を模索したりする。線的な知事会運営ではなく、現場の各団体と手をつなぎ、もっと面的な取り組みで日本再生に貢献したいと考えているのです。
パラダイムシフトで、地方に好機が生まれている
―そうした国と各団体とのパートナーシップ構築の先に、どのようなビジョンを見すえていますか。
私が全国知事会の会長として掲げているのは、「コロナと闘い、新たな日本とふるさとを創る」ことです。国内でのワクチン接種が進み、世界中で新薬の製造や活用も進んでいます。ですから今は苦しくとも、いつか局面が変わるときがやってきます。そのため、新型コロナウイルス対策の先も見通しておく必要があります。
たとえば今、テレワークが進むなか、人々の生活に変化が生まれています。実際に鳥取県でも、大都市の大企業に勤めている人が当県に移住し、テレワークで本業を行いつつ、県内の企業で副業を行うケースが増加。こうした傾向は全国各地で見られます。東京一極集中から、地方部へと人が流入していく傾向にあるのです。
―コロナ禍によって地方にも好機が生まれていると。
そのとおりです。これは、人々の意識や働き方のパラダイムシフトと言えるでしょう。ここから、新たな価値やネットワークが広がり、地方創生にもつながっていくはずです。今後は、各自治体がもつ得意分野を活かして移住定住を促進し、生活や経済の再生を進めていく必要があるでしょう。
―新型コロナウイルス対策や地方創生実現のため、首長はどのようなリーダーシップをとっていくべきでしょう。
それぞれのスタイルがあると思いますが、私は市井のなかのひとりであるべきだと考えています。日本では、知事をはじめとした首長と住民の距離が遠いと感じます。私は県のPRのために「カネはないけどカニはある」といったダジャレを言ったりしてきましたが、それはある意味、芝居でもあります。住民の心と気軽に通じ合っていかないと、難しい理屈だけを言っても共感は生まれませんから。共感をもってもらえることで、たとえば飲食店の時短要請にも聞く耳をもってもらえる。本県も2週間のみ特定エリアで協力要請を行ったのですが、ほぼ100%の店が協力してくれましたから。
打倒した先に見すえる、新たな日本とふるさと
―全国知事会会長としての、今後の抱負を教えてください。
まずは新型コロナウイルス感染症を収め、国や各団体の協力を得ながら、経済対策や災害対策、地球温暖化対策などさまざまな政策課題の対策を知事同士で団結して行っていきたいです。唐の韓愈の詩に「真(まこと)に一擲を成して乾坤を賭す」という言葉があります。簡単に言うと、「天地をかけて勝負に挑む」という意味です。新型コロナウイルスにより、人々の健康や命、そして経済、社会がかつてないくらい危機に陥っています。いまこそ、47人がまとまって大勝負をかけ、新型コロナウイルスの打倒に全精力を傾けるときではないかと。そしてその後に、新たな日本やふるさとを創っていくことに注力していきたいですね。
平井 伸治 (ひらい しんじ) プロフィール
昭和36年、東京都生まれ。昭和59年に東京大学法学部を卒業後、自治省(現:総務省)に入省。その後、兵庫県や福井県にて地方行政の実務や制度改正などに取り組む。平成11年に鳥取県総務部長に就任し、平成13年に全国最年少(当時)で鳥取県副知事に就任。総務省勤務、自治体国際化協会ニューヨーク事務所長などを経て、平成19年、鳥取県知事に就任する。現在は4期目。令和3年9月、全国知事会会長に就任。