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「田園都市」のモデルケースを目指す香川県独自の地方創生策とは

瀬戸内海という「財産」を活かし「人生100年時代」を楽しめる県に

瀬戸内海という「財産」を活かし「人生100年時代」を楽しめる県に

「田園都市」のモデルケースを目指す香川県独自の地方創生策とは

瀬戸内海という「財産」を活かし「人生100年時代」を楽しめる県に

香川県知事 池田 豊人

※下記は自治体通信 Vol.47(2023年2月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。


令和4年9月、香川県では12年ぶりとなる新知事に、国土交通省元道路局長の池田氏が就任した。インフラ整備のエキスパートとして、全国各地のまちづくりを推進してきたなかで、地方創生を成功させるだけの「香川県独自の強み」を改めて感じたという。「当県はいま、『製造業の国内回帰』によって、新たな発展の入口局面にある」と力強く語る同氏に、県独自の強みを活かした地方創生策の詳細について聞いた。

全国のまちづくりを通じて、改めて感じた香川県の魅力

―令和4年9月、どのような使命感を持って香川県知事に就任しましたか。

 私は長年、国土交通行政に携わってきたなかで、全国各地に赴き、それぞれの地域の特性に合わせた魅力的なまちづくりを見てきました。今回の知事就任を通じて、私は42年ぶりに地元の香川県へ戻ってきましたが、改めて、ほかの地域には負けない魅力が当県にはあると感じました。この魅力を最大限に活かした県独自の地方創生策を推進することにより、当県の経済を発展させ、県民の安全な暮らしを守ることが、私の一番の使命だと考えています。

―池田さんが感じる香川県の魅力とはなんでしょう。

 私が改めて感じたのは、「瀬戸内海の力」です。当県を含め、中国・四国地方の瀬戸内海沿岸は、日本を代表する工業地帯として発展してきた歴史があります。その背景には、瀬戸内海の水運という交通利便性はもちろんのこと、波が穏やかであるという内海の特性によって、沿岸の埋め立てや工場建設が進んだことも大きく影響しています。造船や重機、化学関連産業を中心に多くの企業が集積している瀬戸内海沿岸は、製造業の一大生産拠点が形成されており、当県の経済発展に重要な役割を果たしています。そして、今後さらにこの地域で、企業の集積が進むと期待できるような現象が、いま起きています。

製造業で進む「国内回帰」。瀬戸内海沿岸に注目集まる

―それはどのような現象ですか。

 「製造業の国内回帰」です。日本の製造業は近年、生産コストを抑えるために多くの工場を海外に置いてきましたが、ここにきて、大手製造業を中心にそれらを日本へ戻す動きが加速しています。これまで安かった海外の人件費や土地代が高騰し続けているため、海外に生産拠点を置くメリットがなくなっているのです。そうしたときに、国内のなかでも工場立地として物流面でアドバンテージのある瀬戸内海沿いに注目が集まっています。実際、県内最大規模の工業団地である「番の州臨海工業団地」では、一部空いていた工場用地が令和3年にすべて売り切れました。また、ここにきて、全国的に精密機械の電子部品製造や情報通信機器製造など、新たな成長産業の立地も進んでいます。私は知事就任時の挨拶で、「香川県はいま、新たな発展の入口局面にある」とお伝えしたのですが、それはまさに当県が、「製造業の国内回帰」を受け入れるだけの基盤を瀬戸内海沿岸に持っているからです。

 さらに当県は観光分野でも、「新たな発展の入口局面」と自信を持って言えるだけの基盤を有していると自負しています。

外国人延べ宿泊者数の伸び率全国一を記録

―具体的に教えてください。

 当県には、金刀比羅宮や栗林公園といった国内有数の観光スポットがあるほか、瀬戸内国際芸術祭の開催や「うどん県」のキャンペーンなどを通じて、コロナ禍前に訪れた観光客数は年間約1,000万人に達しました。そうしたなかで、とくに外国人観光客から高く評価されているのが、瀬戸内海をはじめとした「瀬戸内の自然」です。数多くの海外メディアから、穏やかな海と風光明媚な景色のコンビネーションについて、「世界に類を見ない美しさ」といった言葉で紹介されています。実際、観光庁の「宿泊旅行統計調査」によると、東日本大震災翌年の平成24年に約4万3,000人泊だった当県における外国人延べ宿泊者数は、コロナ禍前の令和元年に過去最高の約77万2,000人泊と約17.9倍に増え、伸び率は全国一を記録しました。今後、コロナ禍の収束に伴い観光政策を強化していくなか、高いポテンシャルを持つ当県の観光事業は、再び発展へと向かう入口局面にあると考えています。

―産業政策と観光政策のそれぞれに、「瀬戸内海」が深くかかわってきそうですね。

 ええ。今後、瀬戸内海という「財産」を活かした政策を推進していくなかで、改めてその価値を世界中に発信していくことが、私たち行政の役割だと考えています。当県は令和3年度に、県政運営の基本指針となる「『みんなでつくるせとうち田園都市・香川』実現計画」を定めました。そのキーワードの1つとなっているのは、「活気あふれる街と美しい自然の隣接」です。「美しい自然」は、都会にはない地方特有の財産と言えますが、それを打ち出すだけでは地方創生など実現できないでしょう。「活気あふれる街」となるには、産業の発展は不可欠です。そうした意味では、県内には、その2つが共存する理想的なまちがいくつもあります。たとえば、「直島」です。

「自然と活気」が共存する、理想的なまち「直島」

―どのようなまちですか。

 直島は近年、「瀬戸内の自然」を活かした現代アートのまちづくりによって観光地としての注目度が高まっていますが、そこにはもともとナショナルブランドの銅製練所があり、いまでも一大産業拠点となっています。そのため、交通を含めたインフラはもともと十分に整備されており、観光促進の面でその条件がプラスに働いてきました。同様の視点で香川県全体を眺めてみると、世界から認められた豊かな自然環境があり、経済発展をけん引する産業基盤が瀬戸内海沿岸に広がっています。さらに気候面では、温暖で日照時間が長いといった特徴もあります。まさに、「活気あふれる街と美しい自然」が共存する当県は、理想的な地方創生策を描ける土台があると考えています。

―池田さんが描く地方創生ビジョンとは、どのようなものですか。

 私が目指しているのは、当県を「人生100年時代のフロンティア県」にすることです。そのためには、若者から高齢者まで、すべての世代の人に活躍の場があり、元気に安心して楽しみながら暮らせる社会にしていくことが必要です。政府が掲げる「デジタル田園都市国家構想」は、まさにそうした社会の仕組みづくりに向けた方針であり、当県においては、瀬戸内海をはじめとした豊かな県土や自然環境のほかに、温暖な気候といった当県独自の特徴を活かすことで、必ずそれは実現すると考えています。当県を、全国の自治体におけるモデルケースとなるような「田園都市」にしていきたいと考えています。

池田 豊人 (いけだ とよひと) プロフィール
昭和36年、香川県高松市生まれ。昭和59年、東京大学工学部土木工学科卒業。昭和61年、同大学大学院工学系研究科土木工学専攻修了。同年、建設省(現:国土交通省)入省。国土交通省関東地方整備局道路部長、国土交通省大臣官房技術審議官、国土交通省近畿地方整備局長を経て、平成30年、国土交通省道路局長就任。令和2年8月、国土交通省を辞職。日本製鉄株式会社顧問を経て、令和4年9月、香川県知事に就任。現在1期目。
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