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コロナ禍からの復興を掲げる沖縄県の新たな振興計画

歴史が紡いだ「ソフトパワー」を前面に、世界に開かれた交流と共生の島へ

歴史が紡いだ「ソフトパワー」を前面に、世界に開かれた交流と共生の島へ

※下記は自治体通信 Vol.50(2023年6月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

感染症法上の位置づけが「5類感染症」に移行した新型コロナウイルス感染症。この感染症による社会・経済的影響がもっとも深刻なものとなったのは、ほかならぬ沖縄県ではなかったか。同県では、コロナ禍から立ち直ろうとするなかで、昨年新たな「沖縄振興計画」を策定。地域の特色を活かした持続可能な発展を掲げている。同県知事の玉城氏に新計画策定の背景や狙い、今後の県政ビジョンなどを聞いた。

インタビュー
玉城 デニー
沖縄県知事
玉城 デニーたまき でにー
昭和34年10月、与那城村(現:うるま市)生まれ。昭和56年、上智社会福祉専門学校卒業。その後、ラジオパーソナリティやタレントとして活動し、平成14年9月に沖縄市議会議員選で初当選。平成21年8月には衆議院議員選で初当選し、4期務める。平成30年10月、沖縄県知事に就任。現在2期目。

「社会」「経済」「環境」3つの枠組みが新計画の基軸

―沖縄県では昨年、新たな「沖縄振興計画」を策定しています。策定の背景を教えてください。

 昨年の令和4年は、我々が「本土復帰」と呼んでいる、米国政府から日本政府への施政権返還から50周年を迎えた年でした。その本土復帰から10年ごとに策定してきたのが、沖縄振興計画です。この間、社会資本整備が進み、観光・リゾート産業をはじめ、さまざまな成果があがっています。

 一方で、国土面積の約0.6%しかない本県に、米軍専用施設の約70.3%が存在するという過重な米軍基地負担が続いています。しかも、これらの施設は都市地域に集中しており、県経済発展の制約になっています。この基地問題の解決に向けて、当県では「平和で豊かな沖縄の実現に向けた新たな建議書」を日米両政府と国会に提出しています。この建議書と同時に、沖縄のあるべき姿を描き、発展の道筋をまとめたのが、第6次となる沖縄振興計画「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」です。

―新たな計画の重要なポイントはどこにありますか。

 「新・沖縄21世紀ビジョン基本計画」では、国連が掲げるSDGsを取り入れたほか、前計画にはなかった「環境」を新たな柱にくわえ、「社会」「経済」「環境」の3つの枠組みによる施策展開を計画の基軸としています。

 前計画まで順調に拡大してきた観光産業などの成長も、今般の新型コロナウイルス感染症の影響によって、いったんは蒸発してしまったかたちになっています。しかし、その間にも、日本の南の玄関口にある地理的な優位性を活かし、ヒト、モノ、金融、情報が行き交う「アジアの結節点」として、地域のダイナミズムを取り込んできた経緯があります。新計画では、そうした沖縄の地域特性を活かした新たな施策の展開を打ち出していく考えです。

環境変化への強靭性をもった、持続可能な観光産業へ

―3つの枠組みでは、それぞれ具体的にどのような方向性を描いているのでしょう。

 まず、「社会」という枠組みで掲げている基本目標は、「誰一人取り残すことのない優しい社会」の形成です。新型コロナウイルス感染症の拡大をめぐっては、離島県ゆえの医療提供体制の脆弱性が浮き彫りになりました。その経験のなかで、県医師会や看護協会などの医療関係団体の協力も得ながら、新たな医療提供の仕組みを導入してきました。一元的な入院調整を行うための沖縄県独自の入院管理システム「OCAS(オーキャス)」を開発したことは、その一例です。また、入院調整が完了するまでの間に必要な医療を提供する「入院待機施設の設置」や、高齢者施設でのクラスター対策としての「認定看護師の派遣」なども、新たに構築した「沖縄スタイル」の医療提供体制といえます。今回のコロナ禍の経験によって、強靭性を高めた医療提供体制は、安全・安心な社会づくりの基盤となるものと考えています。

―「経済」の枠組みでは、どのような方向性を示していますか。

 「強くしなやかな自立型経済」の構築を基本目標に掲げています。今回のコロナ禍によって、リーディング産業である観光関連産業はきわめて深刻な打撃を受け、未曾有の危機に瀕しました。昨今、インバウンド需要は戻りつつあるものの、今回の教訓から、今後我々が考えるべきは「観光の質」の向上だと思っています。振り返ってみれば、「量」を追っていた側面もあるコロナ前の観光スタイルは、ある種の飽和状態を迎えていたという認識があります。その認識のうえで、環境変化に対する強靭性をもった持続可能な観光産業を確立するためには、歴史や文化、自然といった「ソフトパワー」の比較優位を前面に押し出した付加価値向上がカギになると考えます。またそこでは、飲食業界がデリバリーやテイクアウトといった新しい工夫で危機を乗り越えたように、観光産業においてもDXによる「変革」が求められるでしょう。コロナ禍をきっかけに、従来の観光スタイルを超える付加価値を追求する動きがいま若い世代を中心に見られており、県としても期待感をもって後押ししていきます。

島しょ特有の立地を強みに、先端技術を取り込む

―「環境」の枠組みにおける施策についても教えてください。

 ここで掲げているのは、「持続可能な海洋島しょ圏」の形成です。当県は、日本の国土面積に匹敵する広大な海域に多数の島々が散在する海洋島しょ圏であり、その散在性、遠隔性、狭小性はこれまで社会経済活動における地理的不利性と考えられてきました。一方で、この広大な海域から得られる多様な海洋資源と多大な恩恵は、発展可能性を秘めた沖縄特有の地域特性でもあります。この地域特性を活かした新たな展開として、当県ではいま「テストベッド・アイランド構想」を提唱しています。これは、新技術の実証試験や社会実装などを積極的に行う場(テストベッド)として沖縄を開放する試みで、そのひとつとして太陽光や洋上風力といった再生可能エネルギーの実証・実装を通じて、沖縄らしい島しょ型エネルギー社会の実現を目指しています。島しょ特有の閉鎖的な立地条件を逆に強みとし、小規模だからこそ挑戦できる先端技術を積極的に取り込み、沖縄の発展可能性を引き出していきたいと考えています。

地域の平和構築に貢献すべく「地域外交室」を設置

―これらの施策の先に描く県政ビジョンを聞かせてください。

 沖縄には、「世界に開かれた交流と共生の島」として、独自の国際ネットワークを構築し発展してきた歴史があります。このネットワークと独自のソフトパワーを最大限に活用し、アジア・太平洋地域の平和構築と相互発展に積極的な役割を果たしていきたいと考えています。その取り組みの一環として、令和5年度から「地域外交室」を庁内に設置し、県の在外事務所と連携しながら、アジア・太平洋地域の平和構築に貢献する独自の地域外交を、一体的・戦略的に展開していく方針です。沖縄の開かれた交流の先進性は、世界に約42万人いるといわれているウチナーンチュ(県系人)の存在が示しています。この祖先の知恵と努力が築いた資産を我々も大切に継承しながら、開かれた交流の島・沖縄を実現させていきたいと考えています。

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