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経済至上主義からの脱却を掲げる新たな県政ビジョン

これからの時代の価値観に寄り添い、「和歌山が最高」だと思える未来を創る

これからの時代の価値観に寄り添い、「和歌山が最高」だと思える未来を創る

※下記は自治体通信 Vol.51(2023年7月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

コロナ禍に突入して丸3年が経過した現在、ポストコロナを見据え、各自治体ではそれぞれの社会課題に対応した行政方針を掲げている。そうしたなか、和歌山県では、令和4年12月に知事に就任した岸本氏が、「和歌山が最高!だと 子どもたちが思う未来を!」というスローガンを打ち出し、県政の基軸に置いている。この県政方針には、どのような背景があったのか。今後の県政ビジョンとともに、同氏に聞いた。

インタビュー
岸本 周平
和歌山県知事
岸本 周平きしもと しゅうへい
昭和31年、和歌山県生まれ。昭和55年に東京大学法学部を卒業後、大蔵省(現:財務省)に入省。主計局主査、米プリンストン大学客員講師、財務省理財局国庫課長などを歴任し、平成16年に財務省を退官。トヨタ自動車株式会社渉外部長、内閣府政策参与兼務を経て、平成21年に衆議院選挙に出馬し当選。以降、連続5期務める。平成24年に経済産業大臣政務官、内閣府大臣政務官を務め、令和4年に衆議院議員を辞職。同年12月に和歌山県知事に就任。現在1期目。

ふるさとのすばらしさを、県民と共有することが使命

―昨年12月、どのような使命感をもって和歌山県知事に就任したのでしょう。

 18歳から約30年間、故郷を離れて暮らした私が、平成21年より5期13年にわたり国会議員として金帰月来の生活を続けるなかで痛感してきたことがあります。それは、和歌山県の歴史や文化、自然の豊かさ、そして人々の温かさでした。このふるさとのすばらしさを県民とともに共有することこそが、私の使命だと思っています。

 和歌山県は、半島ゆえのアクセスの悪さや人口規模の小ささから、これまでの20世紀的な経済重視の物差しでみると、県のGDPは全国でも下位に位置づけられてきました。しかし近年は、世の中の価値観が大きく変わり、脱炭素や持続可能性、ジェンダーフリーといった価値観が重視される時代になりました。こうした時代の趨勢を受けて、和歌山県のポジションが「変わりつつある」との手ごたえを我々は感じています。

―具体的に、どのような部分でそれを感じていますか。

 当県の面積の約8割を占める森林の価値が大きく見直されていることは、その象徴です。急峻な地形を有する当県の森林は、ある時期から林道を整備して木材を切り出すことに経済合理性がなくなり、林業は衰退の一途をたどりました。森林も経済成長の「足枷」とさえみなされる存在になっていたのです。

 しかし、地球環境問題が重視される今、森林は「カーボン・クレジット」を創出する資産と位置づけられています。しかも、いわゆる「森林環境譲与税」により、税金を投入して森林を守ることが可能な時代になりました。さらに、最新のロボット技術を活用すれば、急峻な傾斜地の木材も切り出せるようになります。もともと紀州材は国内トップクラスの材質を誇りますから、森林の整備が進めば、林業の再生にもつながります。森林がきれいになれば、川や海もきれいになり、水産業の活性化にもつながります。こうした好循環が生み出す「一次産業の活性化」は、県政の新しい柱として掲げる2つのテーマのうちの1つです。

新時代の価値観をもち、物語性を織り込んだ観光業へ

―もう1つの柱はなんですか。

 「観光立県」への取り組みです。そこで重要になるキーワードが、「量から質への転換」だと考えています。これまでの発想では、大量輸送で多くの観光客を招致し、数の力で収益を追うのが、観光産業のスタイルだったといえます。しかし、その発想では地理的な制約がある和歌山県はどうしても不利であり、和歌山特有の歴史や文化といった魅力も活かしきれないという問題意識がありました。折しも、世界の観光産業では昨今、「3つのS」で表現される価値が重視されています。3つのSとは、「Spirituality=精神性」「Sustainability=持続可能性」「Serenity=荘厳さ」です。これこそ、和歌山県の観光資源に内包された価値観そのものだといえます。

―どういうことでしょう。

 和歌山の代表的な歴史遺産である熊野詣は、皇室を中心に約1,100年前から脈々と受け継がれ、日本の精神文化を継承する象徴的な行事といえます。ここには「3つのS」すべてが体現されています。それだけではありません。「蟻の熊野詣」といわれるほどに集めた大勢の人々の中には、内裏に仕える女官もいました。古くから女人禁制ではない霊場は、私が知る限り熊野だけであり、まさにジェンダーフリーの嚆矢といえるでしょう。また、有名な「小栗判官と照手姫」の物語が示すのは、熊野が受け継いできた「障がいをもつ人を大切にする価値観」や「おもてなしの文化」です。その意味では、和歌山こそ、ユニバーサルツーリズム発祥の地だと自負しています。こうした新しい時代の価値観と親和性をもち、豊かな物語性を織り込んだ観光産業を育て、上質なサービスを提供できる観光立県を目指しているのです。

新たなブランディング戦略を「チーム和歌山」で実行

―「新しい柱」の先にどのような県政ビジョンを描いていますか。

 「和歌山が最高!だと 子どもたちが思う未来を!」というスローガンの実現を和歌山県の重点政策に据えています。それにはまず、大人が同じように思えなければいけません。そのためには、和歌山の歴史や文化に自ら誇りをもつことが重要だと思っています。日本の食文化を支える味噌や醤油、鰹節といった発酵食材はいずれも和歌山県が発祥といわれていますが、そうしたことさえあまり知られてはいません。そこで、情報発信を通じた新たなブランディング戦略をはじめ、本県の活性化に資する提言を行う機関として「和歌山未来創造プラットフォーム」を新たに組織しました。ここには、各界の識者に参画してもらい、いわば「チーム和歌山」として各種の県政テーマにあたっていく体制を整えています。

「発展」に重きを置くつもりはない

―県政運営にあたり、大切にしていることはありますか。

 行政運営で一番大事だと私が思うのは「職員がどれだけ楽しく明るく働けるか」です。県政の最大の目的は、県民を幸せにすることにほかなりません。幸せの定義は人それぞれですが、幸せな人は必ず笑顔ですから、県民の笑顔を増やすことが我々の使命です。だとするなら、そもそも職員が笑顔でなければ県民の笑顔をつくり出すことなどできません。リーダーである私の仕事の大半は、明るく楽しく働ける場を職員に提供することだと思っています。そこで行っているのが「おにぎりミーティング」です。これは、毎回7~8人の職員と一緒にランチをとりながらアイデアや悩みを直接聞き、今後の施策に活かす取り組みです。すでにいくつも業務改善や職場環境改善に資する提案が生まれています。県職員は約3,500人いますが、任期中には全員の顔と名前を覚えるつもりです。

―そうした県政運営のもとで、和歌山県を発展に導くのですね。

 いいえ、いわゆる「発展」に重きを置くつもりはありません。少子高齢化で人口は減りながらも、和歌山県民が精霊宿るこの豊かな大地で明るく楽しく暮らせればいいのです。その姿を見て、県外だけではなく海外からも多くの人に関心をもってもらい、和歌山県を訪れてもらえるようになるならば、それが理想ですね。

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