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財政健全化の先に描く新潟県の次期総合計画の青写真

成長発展へのポテンシャルを活かし、県民自らが魅力を語りたくなる社会へ

成長発展へのポテンシャルを活かし、県民自らが魅力を語りたくなる社会へ

※下記は自治体通信 Vol.54(2023年12月号)から抜粋し、記事は取材時のものです。

新潟県では、県財政の危機的状況を受け、平成30年6月に知事に就任した花角氏のもと、抜本的な行財政改革に着手した。この間、各種の歳出歳入改革によって財政の健全化は軌道に乗り、令和5年度単年度の収支は均衡。現在では、今後ピークを迎える公債費負担への対応にも見通しを立てたという。今後、新たな成長発展に向けた諸政策へと大きく舵を切ろうとしている同県では、どのような成長戦略を描いているのか。知事の花角氏に詳しく聞いた。

インタビュー
花角 英世
新潟県知事
花角 英世はなずみ ひでよ
昭和33年、新潟県生まれ。昭和57年に東京大学法学部を卒業後、運輸省(現:国土交通省)に入省。観光庁総務課長、自動車交通局総務課長、大阪航空局長、大臣官房審議官(海事局、港湾局併任)などを歴任し、平成25年4月に新潟県副知事に就任。海上保安庁次長を経て、平成30年6月に新潟県知事に就任。現在2期目を務める。

県民自身が、魅力に気づいていない

―就任から5年、この間の成果を振り返ってください。

 私が就任時から掲げ、新潟県総合計画にも盛り込んだ基本理念は、「住んでよし、訪れてよしの新潟県」でした。特に、「住んでよし」に強い思い入れを持ってきました。というのも、じつは就任してほどなく、3,000人を対象に県民意識調査を実施したのですが、その結果にある種の問題意識を持ったからです。

 その調査ではまず、「新潟県が好きか」との問いに「YES」と答えてくれた割合は約8割を占めました。しかし、「新潟県は魅力的か」と質問を重ねるとその数は約6割に減り、「魅力を発信すべきか」は約5割になり、「自分では発信しているか」は1割を切る結果だったのです。控えめな県民性を考慮したとしても、もっと県民のみなさんが新潟の魅力に気づき、誇りを持って語れるようになってほしいと考えたわけです。

―その基本理念の実現に向けて、どのような政策に取り組んだのですか。

 4つの政策を柱に据え、理念の実現を目指しました。4つの柱とは「防災・減災対策」「健康立県」「起業・創業の推進」「交流人口の拡大」です。防災・減災対策については、大きな河川の河床掘削や砂防堰堤の整備などを着実に進めた結果、昨年の豪雨においても大きな被害を招くことはありませんでした。「健康立県」では、病院再編や医師確保を進め、地域医療の持続可能性を高める施策を進めてきました。

 また、「起業・創業の推進」では、令和3年度までに起業家支援拠点を県内に8ヵ所設け、先輩経営者や各種専門家に相談できる支援体制を構築してきました。その結果、この3年半で145人の起業家が誕生しています。なかには、農業従事者による「第2の創業」への挑戦も見られます。県では、「一本足打法」とも揶揄される本県農業の米作依存を減らし、園芸などを振興する基本戦略を「オール新潟」で推進しています。こうした新しい挑戦を後押しし、社会に活力を生み出すことが、新潟県の魅力づくりにもなっていくものと期待しています。

抜本的な行財政改革で、破綻寸前の状態から脱する

―そうした魅力が、「交流人口の拡大」にもつながると。

 ええ。実際、コロナ禍によって一時的に落ち込んだ外国人宿泊者数も、それ以前は順調に増加していました。コロナ禍が収束した今、この分野でも着実に諸政策の成果が表れてくると見込んでいます。

 こうした政策推進の一方で、この5年間を振り返るにあたっては、抜本的な行財政改革を進めてきたことにも触れなければなりません。

―改革以前、新潟県財政はどのような状況だったのでしょう。

 私が就任した年の3年前から、新潟県は毎年の収支が赤字に転落しており、破綻寸前の状態にありました。財政調整基金を取り崩してやりくりしていましたが、その基金も当時あと2年ほどで底をつくという状態でした。そこで、令和元年10月に「行財政改革行動計画」を策定し、財政健全化に乗り出しました。そこでは、県職員の給与や議員の報酬のカット、県の補助金の削減といった支出の合理化策を実行。計画の最終年度となる令和5年度は目標を達成し、単年度の収支は均衡、令和13年度にピークを迎える公債費負担への対応にもめどをつけることができました。今後、新潟県の中長期的な成長を考えるうえで、避けては通れない重要な取り組みを無事やり遂げたといえます。

中長期的な成長発展に向けた、3つの重要テーマ

―財政健全化にめどをつけ、総合計画も来年度が最終年度となるなか、次なる県政テーマはどういったものになりますか。

 中長期的な成長発展に向けて取り組むべき3つの重要テーマを想定しています。具体的には「脱炭素社会への転換」「デジタル改革の推進」「分散型社会への対応」の3つです。

―詳しく教えてください。

 1つ目の「脱炭素社会への転換」については、潜在的な成長のチャンスを秘めている分野だと考えています。というのも、新潟県には再生可能エネルギー資源が豊富にあり、今後の技術開発をリードできるポテンシャルを有しているからです。新潟県沖は洋上風力発電の適地とされており、今年から来年にかけて、大規模な洋上風力発電プロジェクトが動き出す予定です。また、もともと全国有数の実績を持つ水力発電では、小水力発電所の建設が始まっており、今後全県的に展開していく計画もあります。さらに、国内原油生産の6割以上を占める地の利を活かし、メタネーション*やCCUS*といった次世代のCO₂利活用技術の開発も進んでいます。これらの実用化が、新潟県の成長戦略の一端を担うものと期待しています。

―ほかのテーマはいかがですか。

 「デジタル改革の推進」については、スマート農業の普及や企業におけるデジタル化を支援し、県内産業の競争力向上を後押しします。同時に、遠隔医療支援や学習環境の整備といった医療・教育分野でのDXで、県民生活の利便性向上も図ります。この改革を後押しする行政としても、ペーパーレスやオンライン手続きの拡大などに率先して取り組んでいるところです。

 「分散型社会への対応」については、コロナ禍を機に人々の地方回帰の動きが顕在化するなか、その受け皿となることが今後の成長発展には欠かせません。そのためには、若者世代にとって魅力ある職場づくり、子育てにやさしい環境づくりに力を入れていきます。

*メタネーション : 水素とCO₂を化学反応させ、メタンを合成する技術
*CCUS : 排ガス中のCO₂を分離・回収し、有効利用、または地下へ貯留する技術

新潟県の高いポテンシャル

―今後の県政運営の方針を聞かせてください。

 行財政改革でも示したとおり、県政上の課題に対しては、決して先送りしたり、ふたをしたりすることなく、一つひとつ誠実に取り組み、結果を追求していきます。

 新潟県は、日本海側唯一の政令指定都市を擁し、上越・北陸両新幹線、県内外をつなぐ5つの高速道路網、新潟空港や日本海側の拠点港・直江津港を有します。日本海側の表玄関として、成長発展への高いポテンシャルを有していると自負しています。このポテンシャルを発揮できれば、今以上に県民のみなさんが誇りを持って魅力を語れる新潟県になれるはずです。

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