【自治体通信Online 寄稿記事】
自著書評(佐倉市 職員・塩浜 克也/市川市 職員・米津 孝成)
蜘蛛の巣のように入り組んでいて、時には“例外の例外”に行く手を阻まれる―。地方自治制度は良く言えば奥が深く、「どこから手を付けていいかわからない」と手を焼いている自治体職員のみなさんは少なくないのでは? こうした悩みに応えるのが今回ご紹介する『「なぜ?」からわかる地方自治のなるほど・たとえば・これ大事』(公職研)。同書は、体系が複雑かつ関係する法律も多い地方自治制度を好奇心が刺激されるトピックというプリズムで“分解”し、ラビュリンス(迷宮)を攻略する地図や方位磁石を差し出します。本書の共著者である塩浜 克也さん(佐倉市 職員)と米津 孝成さん(市川市 職員)のおふたりが、同書のポイント・工夫した点などをお届けします。
本書執筆の背景
本書『「なぜ?」からわかる地方自治のなるほど・たとえば・これ大事』(公職研)の著者は、千葉県の佐倉市役所と市川市役所の現役の職員です。それぞれの役所において、法規部門への所属を経験し、これまでも共著で若手職員向けの参考書(学陽書房刊『疑問をほどいて失敗をなくす 公務員の仕事の授業』)を執筆するなど、後進の応援に努めてきました。
(参照記事:「疑問をほどいて失敗をなくす 公務員の仕事の授業」)
本書の表紙カバー
本書は、著者2人が地方自治制度について研修や勉強会の講師を務める際に、こんな事例があるのだけどなと思いながら、限られた時間では聴衆の皆さんに伝えきれない興味深い事例を数多く掲載しています。
- 人口4万人を超える「村」(沖縄県読谷村)がある一方、3,000人を切る「市」(北海道歌志内市)がある。
- 埼玉県新座市の区域内には、10数世帯が住む東京都練馬区の飛び地(面積はサッカーコートの4分の1程度)がある。
- 法律に違反するとして、最高裁の判決により無効となった条例(神奈川県臨時特例企業税条例)がある。
「こんなこと、知ってるかい?」。皆さんも、学校の先生の授業中の雑談や、仕事の合間に先輩から聞いた話が面白かったことはないでしょうか。
人の興味を引くための工夫を「フック(釣り針)」といいます。マーケティングの参考書で購買層の関心を惹く手段として説明されることもあります。複雑そうに見える制度や仕組みでも、その背景や関連事項が併せて説明されると、頭に入ってきやすいのではと思います。
大事なことを、わかりやすく
本書は、地方自治の「なぜ?」につながる事例について、「たとえば」「なるほど」「これ大事」の視点から抽出し、制度や仕事上の注意点に関する説明と併せて掲載しました。構成は大きく7つに分かれ、地方自治制度の基本的な事項から、初心者にはわかりにくい法律上の様々なルールまで、幅広く解説しています。
《本書の目次》
- 第1章《自治体のきほん》自治体の構成要素や種類、国と自治体の仕事の分担など
- 第2章《自治体と執行機関》長と行政委員会の関係、行政処分の意味、住民参加など
- 第3章《公務員制度》服務規程、懲戒制度など
- 第4章《財政・会計》予算の内容・原則、契約の種類・手続など
- 第5章《自治体と法》法律と条例の関係、公布と施行など
- 第6章《自治体の争訟》住民訴訟、法務大臣権限法など
- 第7章《議会の役割》議決事件、専決処分の要件・効力など
本書執筆の舞台裏を少々ご紹介しましょう。
具体的な「事例」の取捨選択では、ちょっと苦労がありました。読者の理解を促すため、本文の説明と、紹介する事例をどのように構成するのがよいか。
編集者さんも交えた何度もの打ち合わせを経て、読者が膝を打つような「なるほど」、説明内容の具体例を示す「たとえば」、制度の目的や効果を端的に示す「これ大事」の3つの視点から事例の選択を行い、その取捨選択を本文の構成にも活かしました。
興味をもってページをめくっていただいているうちに、地方自治制度の主な内容について理解が及ぶことを意図しています。
ページをめくるうちに地方自治制度の主な内容に理解が及ぶことを意図
事件は現場で起きている
「事件は会議室で起きているんじゃない。現場で起きているんだ!」。これは、昔の刑事ドラマのセリフです。
本書に紹介された各事例から、法律の条文や他の参考書を読むだけではイメージがわきにくい、法運用の具体的な「場面」について理解を深めていただけたらと思います。
また、法律が想定もしなかったことが起こることも決して稀ではありません。そのような事態に、行政がどのように対処したのかを確認してください。
法律の当初の想定どおりにはいかなかった事例は、見直しによって制度が複雑になっていることがあります。「例外の例外」のような細かなルールの理由は何か。「なぜ?」を知っていれば、躓く危険も減るはずです。
背景が複雑で、対応の判断に困りそうな事例としては、こんなものがあります。
- 2018年12月、埼玉県深谷市では、廃校となった学校の体育館と敷地を売却する一般競争入札が「マイナス入札(マイナスの価格の提示)」で行われた。なお、通常の「プラス入札(プラスの価格の提示)」の場合は「売買契約」であるが、本事例は「負担金給付付き無償譲渡契約」となることから、議会の議決が必要となる。
- 道路用地は道路という目的のために利用されている公共用財産であることから本来は他者による時効取得の対象とはならないが、占有が開始されるまで道路の形状をとどめていなかったような場合は、「黙示の公用廃止」があったと判断され、相手方の時効取得が認められる可能性がある。
こういう人に読んでほしい
地方自治制度のどこから手を付けていいかわからない。そんな方は、本書を是非手に取ってみてください。具体的な事例によるイメージの喚起で、知識の習得は楽になるはずです。
ベテラン職員の方にも、本書は知識の確認のお役に立てるものと考えます。苦手な分野を見つける契機にもなるでしょう。
職員研修の講師を務める機会がある職員の方は、この本から講義の「ネタ」を仕入れてください。聴衆の皆さんの理解を深める材料になればと思います。
本書を読んだ方々が「地方自治って、おもしろい!」と感じていただけたら幸いですし、ひいては、皆さんのお仕事を通じ、地域の方々の暮らしの安心と充実につながれば、著者としてこれに勝る喜びはありません。
■塩浜 克也(しおはま かつや)さんのプロフィール
■米津 孝成(よねづ たかのり)さんのプロフィール
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