【自治体通信Online 寄稿記事】
自著書評(伊勢崎市 建設部 土木課長・橋本 隆)
土木職・建築職をはじめ電気職・機械職など“現場の第一線”で仕事をしているのが、技術系公務員と呼ばれるみなさん。住民や事業者等と協働し、時には(厳しい!?)調整をしながら仕事を進めることも多い技術系公務員には、独特の “実務ノウハウ”があるとされます。これまで、経験を通じて習得するしかなかったそれらの“暗黙知”を言語化し、わかりやすく解説したのが、今回ご紹介する
『これだけは知っておきたい! 技術系公務員の教科書』(学陽書房)です。同書を執筆した伊勢崎市 建設部 土木課長・橋本 隆さんが、自著に対する想いや自著に込められた特徴等をお届けします。
本書出版の経緯
伊勢崎市 土木課長の橋本と申します。自治体通信オンラインでは「自治体職員の志事〈しごと〉」を連載しています。今回は、令和5年4月に出版することになった本書『これだけは知っておきたい! 技術系公務員の教科書』(学陽書房)について、出版の経緯や想い、“本書の特徴”等をお伝えすることができればと思います。
本書では、土木職や建築職が多く在籍する職場で活躍する技術職の公務員の皆さんのことを「技術系公務員」と呼ぶことにしました。
すでに技術系公務員の管理職として3年目を迎えていた私は、現職の技術系公務員だけでなく、学生や社会人から技術系公務員になったばかりの新規採用職員に向けた実務書の必要性を強く感じていました。
将来、さらに技術系公務員の人員減が進む可能性が高い中で、「技術系公務員でよかったです」「技術系公務員のやりがいを感じています」「技術系公務員として豊かな人生を送っています」と語る人が増えてくれることを心の底から望んでいたからです。
技術系公務員向けのわかりやすい教科書があったらとのシンプルな想い。それこそが本書を書くことになったきっかけです。
本書の表紙カバー
技術系公務員に寄り添った教科書
技術系公務員は、若手の頃から住民や事業者等と接し、用地取得や補償に関わる交渉を経験します。また、新技術や情報化、さらには非常時の災害にも即座に対応することが求められます。日々の仕事を進める中では、大きなやりがいを感じる一方で、同じくらい大きなプレッシャーを感じることもあるでしょう。また、技術の多様化、ベテラン技術職の大量退職、度重なる人事異動等により、今後の職場環境や人財育成に不安を感じることもあるのではないでしょうか。
「高度な技術力が必要な業務だから、プロポーザル方式で発注しよう」
「技術職の部長が3人も退職するけど、来年の人事はどうなるのかな」
「2年で異動することになったけど、まだこの課に残りたかった」
私がこれまでに経験してきた職場でも、よくこんな声を耳にしていました。
そこで本書は、技術系公務員の仕事について、どのような経験を積むことを意識し、どのような姿勢で臨んでいくべきなのかをお伝えします。その姿勢の根幹となるのは、技術系公務員として組織に貢献し、また着実にスキルアップしていくための心構え、仕事術や思考法です。
また、人財や予算が減少していく状況での技術継承や人財育成の問題、もっと大きな視野に立てば、市民活動や副業を含めたプライベートでの社会貢献といった、人としてのあり方に興味がある人もいるでしょう。こうした社会的背景を踏まえると、技術系公務員の育成術、メンタル術やキャリアデザインについても、深く考えていく必要があると感じています。
実際に、全国の技術系公務員の皆さんと交流する中では、さまざまな職場での実務に根ざした実践やそこから得られた情報が求められています。手探りであってもすでに始まっている実践、具体的な活用に結びつくツールや実務ノウハウ、これらの内容についても紹介する機会にできればと思います。
本書の特徴
本書の特徴としては、3つを挙げることができます。
まず1つ目は、目次です。技術系公務員として着実にスキルアップし、成長していくために必要な心構え、仕事術、思考法、育成術、メンタル術、キャリアデザインを全6章にまとめました。
■本書の目次
PART1 新人からベテランまで! 技術系公務員の心構え
PART2 あらゆる業務に活かす! 技術系公務員の仕事術
PART3 成果と信頼を獲得する! 技術系公務員の思考法
PART4 ノウハウを引き継ぐ! 技術系公務員の育成術
PART5 「折れない心」をつくる! 技術系公務員のメンタル術
PART6 「VUCA時代」を生き抜く! 技術系公務員のキャリアデザイン
PART1は、新人からベテランまで、ぜひ身に付けておきたい「心構え」を紹介しました。
PART2は、本書の最も大きな特徴といえます。あらゆる業務に活かせる実務的な「仕事術」を紹介しました。
PART3は、成果や信頼を獲得する職員になるための「思考法」について紹介しました。
PART4は、実務のノウハウを引き継いでいくための「育成術」を紹介しました。
PART5は、折れない強い心をつくるための「メンタル術」を紹介しました。
PART6は、*VUCA時代にもたくましく生き抜くための「キャリアデザイン」の考え方を紹介しました。
*VUCA:社会や仕事等の将来予測が困難な状態のこと。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)という4つの単語の頭文字をとった略語。
2つ目は、図表と写真を合計70種類ほど掲載しました。全ての見開き頁に図表や写真を用いることで、頭の中でイメージしていただける解説方法にしました。
3つ目は、さまざまな技術部門でも読み替えられるような、わかりやすい内容を心掛けました。できるだけ数多くの技術部門にも置き換えて考えられる内容を充実させました。
読者の皆さんへのメッセージ
私は、不安を抱いている技術系公務員の「実務の味方」になることができればと願いながら本書を執筆してきました。各章を順番に読み進めていただいてもよいですし、気になる章から読み始めても全く問題ありません。お忙しい人やどうしても短時間で読みたい人には、重要な部分をゴシック体にしましたので、その部分を拾い読みしていただいてもよいでしょう。
皆さんが技術系公務員として、数十年間の公務を終えて定年を迎えたとき、皆さんが住んでいる地域や皆さん自身はどうなっているのでしょうか。都市には「都市計画マスタープラン」があるように、皆さんも「自分自身のマスタープラン」を描きながら、技術系公務員としての明るい未来を一緒に切り拓いてみませんか。本書では、そのお手伝いができればという思いで執筆しました。
今後も、技術系公務員を取り巻く状況は大きく変化していくでしょう。こうした新しい変化にも対応できる技術系公務員になるためにどのような視点を身に付けておくべきか、本書にはそのヒントをたくさん盛り込みました。こうしたヒントは、土木職や建築職ではない技術職にも通ずる仕事の要諦として、広くお役立ていただけたら幸いです。そして本書が、技術系公務員の皆さんにとって「座右の書」になれば、これに勝る喜びはありません。
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■ 橋本 隆(はしもと たかし)さんのプロフィール
群馬県 伊勢崎市建設部土木課長
1972年生まれ。9年間勤務した建設会社を退職後、2003年伊勢崎市入庁。都市計画課、群馬県県土整備部都市計画課(派遣)、企画調整課、土木課、区画整理課長、都市計画課長、都市開発課長を経て、現職。総合計画、都市計画マスタープラン、景観計画の策定のほか、県内市町村初の景観行政団体や世界遺産登録の実務を経験。博士(工学)、技術士(建設部門)、一級土木施工管理技士。「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2022」受賞。
職員研修講師や外部講演会講師を数多く務める一方で、職員自主研究グループ「人財育成研究会」代表、全国5,000人以上の公務員が参加するオンライン市役所の「都市計画のゲンバ」自主ゼミ長を務める。
20年間ほど参加している市民団体「いせさき街並み研究会」の活動で、まちづくり功労者国土交通大臣表彰(2016年)、群馬県まちづくり功労者表彰(2015年)、いせさき元気大賞(2017年)等を受賞。
今年4月に『これだけは知っておきたい! 技術系公務員の教科書』(学陽書房)を出版。