なぜ、この本を書いたのか?
皆さんは役所の中で、毎日どんな言葉を使って話していますか?
どんな言葉で書類や資料を作っていますか?
何か意識して、訓練していることはありますか?
私は今、藤枝市の職員をしています。その前までは静岡県職員でした。ずっと自治体職員を続ける中、仕事のあらゆる局面で、日頃から使う言葉の大切さと、社会的な役割の重要性を強く感じてきました。
自治体は非常に多忙で、これからさらに忙しくなります。地域の行政需要は、増えることがあっても減ることはないでしょう。毎日の仕事に追われ、言葉の使い方やその鍛錬について、あまり意識していない方も多いと思います。
しかし、役所のすべての業務は言葉を介して進みます。しかも言葉の相手方は多岐にわたり、地域の現場や窓口における住民の方々、企業や様々な団体、議会、そして職場・組織庁内など、その範囲は極めて広いのです。
我々公務員にとって大切なのは、サービスの意図と中身が相手に正確に届き、理解され、吸収され、相手に共鳴、共振してもらえる伝え方です。
役所の中でも外でも、伝えたはずなのに伝わっていない、説明したはずなのに理解されていない、それどころか、誤解までされている! 話した、伝えたはずなのに、資料もデータも渡したのに…なぜ!? 自治体業務の様々な場面で、一発で、一言で、どんな人々にも公務員の思いと仕事の中身を、正確に早く相手につかんでもらうコツとは何か?
言葉の使い方は、施策・事業の進捗や効果、そして住民評価に大きく影響します。伝え方次第で、相手の共感度や評価の度合いが大きく変わるからです。そして、毎日寡黙に、地道に仕事を進めていけば、いずれは人々に理解されると思い込んでいる公務員など、もう完全に時代遅れです。
あなたの仕事を的確に、効果的に多くの人々に伝え、あなたのアツい思いを知ってもらわなければ、その仕事はこの世に存在していないのと同じです。
あなたが懸命に取り組む仕事を埋没させない最大のポイントは、仕事の優れた内容とともに、それを伝えるあなたの「言葉力(ことばぢから)」に掛かっているのです。
公務員として、相手に届き、人々に響き、心を動かしてもらえるような説明力、表現力、コミュニケーション能力の大切さ。それが自治体組織経営の強化と健全化、ひいてはまち全体の勢い、活性化に向けて極めて重要な要素であるのに、それを体系的に説いた書物が世にほとんど出ていない。それが本書『公務員の言葉力(ことばぢから)~伝えたいことが相手に届く!~ 』を一気に書き上げた大きな動機です。
本書の読みどころは?
地域のために活力あふれる元気な自治体を、どうつくるのか、そのための組織はどうあるべきか、それに向けた職場づくりはどうすればいいか…? その一つの答えが、我々職員の「言葉力(ことばぢから)」の醸成です。
考えてみましょう。公務員の業務には、実に様々な局面があります。役所の中では上司への説明、報告と決裁、庁内協議やミーティング、会議での説明や首長へのプレゼンテーション。
庁外に向けては現場での人々との対話、住民や関係団体への事業説明、要請や苦情への対応、議会の本会議、委員会での答弁、報道機関への対応など、多種多様です。
これらのどのシーンにも共通する重要な要素とは何でしょうか?それは、我々一人ひとりが担当職務について、その全体像、目的、理想とともに、今、何が必要とされ、何をしたいのか、それでどんな効果を狙っているのかを、誰に向けても一言で分かりやすく説明でき、誠実に対話できることです。その力が「言葉力」です。
職員一人ひとりがこうした言葉の使い方ができるかどうかは、自治体組織、ひいては自治体全体の経営の本質にかかわってきます。この本は、職員に求められる言葉の力を通じて、自治体の経営のあり方を考える書です。
自治体職員各位に伝えたいこと
本書の主なテーマは、次のとおりです。
○自治体職員が求められる「言葉力」とは何か ? これをアップする手法とは何か ?
○言葉力の活用による、職場、組織、そして地域の活力増進方法とは ?
○言葉力を駆使した、仕事の仕方の改革とは ?
○言葉力による内部統制の確保やパワー・ハラスメントへの対処とは ?
○言葉力の育成で、自治体経営がどう変わり、どう強靭化するのか ?
ヒトが働く意味とは、何でしょうか?
私は、大きく2つあると思います。一つは生活の糧を得ること。もう一つは、人々の役に立つことです。特に後者は重要で、ヒトは有償・無償を問わず、ヒトや社会の役に立つことに無上の喜びを感じる動物です。
我々公務員も、仕事が人々に知られ、評価やお叱りを受けることで、士気が大いに上がり、やりがいを実感するのです。そして、自分の仕事をもっと良くしたい、もっと人々に喜ばれたいと言う熱い気持ちが湧き起こります(仕事の自己改革)。
さらに公務員には、全ての業務について常に説明責任があります(常時的説明責任)。仕事の発信は、公務員の社会的な義務なのです。ここに気が付くと、以下の戦略チャートプロセス1が描けます。
言葉力から、組織経営の本質に向けて
ここから、自治体の組織経営の話に移ります。
組織の活性化に向けて、最も基本的で重要な経営ファクターとは何でしょうか? それは明解です。組織内の個々の職員の士気を上げるか、又は決して下げないよう、特に管理職が最大限の努力をすることです。
ではそれに向けて、日々どう取り組むのか?
ヒトは言葉で働き、言葉で動きます。適時の的確な言葉には、組織を元気にする力があります。私は、組織経営に携わる課長以上の管理職に求められる5つの言葉行動について、本書で分かりやすく解説したつもりです。
本書を自治体の若い職員から管理職まで、幅広く読んでご参考にして頂ければ幸いです。
山梨 秀樹(やまなし・ひでき)さんのプロフィール
藤枝市理事
同市人財育成センター長
元静岡県理事
昭和58年4月静岡県庁に入庁、総務部市町村課、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室などを経て、平成20年10月藤枝市行財政改革担当理事、平成23年4月同市市長公室長、平成24年8月同市副市長、平成27年4月静岡県くらし・環境部長代理、平成28年4月知事公室長、平成29年1月静岡県理事(地方分権・大都市制度担当)、平成31年3月同県を定年退職、同年4月から藤枝市理事。6月から同市人財育成センター長。
<連絡先>
054-643-3704(藤枝市役所 人事課)