自治体にも浸透するSDGs
2020年に入り、SDGsという言葉が、自治体の業務でもよく聞かれるようになったように思います。普段の生活でも、通勤途中の電車や雑誌・新聞などで、カラフルな17色のアイコンをご覧になる機会が増えたのではないでしょうか。
SDGsとは、Sustainable Development Goals(日本語訳:持続可能な開発目標)の頭文字をとって「エス・ディー・ジーズ」と読み、世界中が共通して取り組む目標を指しています。このSDGsは、2030年を達成期限として、「貧困をなくそう」や「飢餓をゼロに」といった17の目標から構成されています。
首長や自治体職員にも、SDGsのカラーホイールを模したピンバッジを身に着けている人を見かけますし、鯖江市(福井)のメガネを模したピンバッジなど、地域の状況を反映しながら、自治体が主導して作成する動きも見られます。ほかにも、間伐材を用いた木製のピンバッジを福祉作業所で作成・販売している事例があります。
本書出版の背景
高木特任助教の新著『まちの未来を描く!自治体のSDGs』(学陽書房)
私は、2012年から5年半ほど大和市(神奈川)の職員として、住民協働や厚木基地対策、保育園の入所事務などの業務に携わった経験があります。
勤務時間外でも、自治体職員で構成される自主研究会(いわゆる自主研)に参加したことで、自分が所属する部署の業務に限らず、多岐にわたる行政の業務を先輩方や同僚から学び、実感する機会を与えていただきました。
こうした経験を活かして、自治体職員がSDGsを活用するための視点や手法を伝えるために、2020年3月には前著『SDGs×自治体 実践ガイドブック 現場で活かせる知識と手法』(学術出版社)を上梓しました。
とても嬉しいことに、多くの皆さまにご覧いただくことができましたが、一方で「SDGsを活用するための実践的なノウハウだけでなく、SDGsとは一体どのようなものかについて、自治体の文脈に落とし込んだ内容で、肩肘張らずに読める書籍があれば、SDGsを知らない周囲の職員にも紹介できる」といった声を多く頂戴しました。
また「自治体としての取り組み事例だけでなく、自分が働いている部署で実践できるような具体的な事例をもっと知りたい」というリクエストもたくさん寄せられました。
こうした声を反映して作り上げたのが、新著『まちの未来を描く!自治体のSDGs』 (学陽書房)です。
今回は、本書をお薦めする2つのポイントをご紹介させていただきます。
グローバルな目標をローカルに落とし込んで表現
SDGsは世界中の国や地域が取り組んでいるグローバルな目標です。そのため、開発途上国を主な対象とした内容や、自治体だけでなく政府や企業と関連の深い内容も記述されています。
こうした世界規模の取り組みは、世界の潮流や価値観を自治体にもたらしてくれる反面、どうしても地域の取り組みと縁遠く感じられてしまうのも事実です。
そこで、本書の第1章では、SDGsで示された世界の課題と、自治体が抱える課題を数値データや関連情報などを可視化して表現するインフォグラフィック(註:データや情報などをわかりやすく視覚的に表現すること)と呼ばれる手法で表現しています。
世界の課題から抽出した課題をインフォグラフィックで可視化する(出所:高木超『まちの未来を描く! 自治体のSDGs』)
例えば、SDGsの17あるゴールのひとつ「安全な水とトイレを世界中に」に関わる数多くの課題から、新型コロナウイルスの感染拡大で注目が高まっている「手洗い」に着目し、石けんと水で手洗いできる設備を自宅に備えている人の割合を紹介しています。
日本では水道が整備されているため、安全な水を使うことができますが、世界の常識はそうではありません(上のインフォグラフィック参照) 。
こういった世界の実情を知ることで、自治体職員の読者がSDGsの規模感や世界が抱える課題をひと目で理解していただけるように工夫をこらしています。
世界の課題を自治体の課題に読み替えて表現(出所:高木超『まちの未来を描く! 自治体のSDGs』)
次に、こうした世界の課題を自治体が抱える課題の文脈に読み替え、同じくインフォグラフィックで可視化しています。
例えば、2020年の日本に暮らす私たちの自宅や職場では、蛇口をひねると安心して飲むことができる水が出てきます。しかし、私たちの子どもや孫の世代が暮らす未来に、蛇口をひねって同じように飲むことができる水が出てくるかどうかは、現在を生きる私たちの行動にかかっています。
そのために、2020年現在の自治体がすぐに取り組まなければならないことのひとつに、耐震性のある水道管の整備を挙げることができます(上のインフォグラフィック参照) 。
日本は世界の中で地震が非常に多く観測される地域です。直近の10年間でも、2018年の北海道胆振東部地震、2016年の熊本地震や、2011年の東日本大震災などのように、最大震度7を計測した地震が何度も発生しています。
発災時には、避難所等で安心して使える水インフラがあることは重要ですが、基幹的な水道管のうち、耐震性のある管路は全国平均で4割程度にとどまっていると厚生労働省が発表しています。
このように、SDGsで示されたグローバルな課題は、国内の自治体に読み替えてもいくつも見つけることができるのです。
本書では、自治体の文脈で見つけたSDGsに関連する課題を17のゴールごとに紹介しています。これらを参考にしていただき、SDGsで示されたグローバルな課題を身近な自治体に引き寄せて捉えるきっかけになれば、著者として嬉しく思います。
「SDGsハック!」で自部署の政策・施策・事業をアップデート
本書のもうひとつのお薦めポイントは、自治体全体の政策としてのSDGsだけでなく、各課の業務でSDGsを活用できる方法を「SDGハック!」と名付け、ご紹介している点です。
自治体職員がSDGsを自分ごとに感じられない要素のひとつに、重点施策のような限られた分野だけで検討されていたり、総合計画や基本構想への反映といった各種計画への反映に用途が限られていたりすることが挙げられます。
そこで、本書では、静岡市(静岡)、札幌市(北海道)、大津市(滋賀)、北本市(埼玉)、大阪府といった5つの自治体から企画部門、環境部門、公営企業、シティプロモーション部門、スマートシティ部門といった幅広い部署で働く現役公務員の方々からの協力を得て、実際に各課で取り組むことができるSDGsの実践事例(「SDGハック!」)をご紹介しているように、今日から提案・実践できるアイデアやヒントを多数紹介しています。
SDGsハックを活用することで、読者の方々の仕事はもちろんのこと、施策や事業をアップデートし、住民の生活の質の向上につながることを狙いとして、できる限りわかりやすく、かつ具体的に表現することを心がけています。
SDGs導入のきっかけに
今回ご紹介した2点のお薦めポイントのほかにも、SDGs未来都市等における先進事例や、地方議会議員によるSDGs推進の取り組みもご紹介しています。
官民問わず、SDGsの広がりは待ったなしです。ぜひ本書をSDGs導入のきっかけにしていただければ、著者として大変嬉しく思います。
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高木超 特任助教の寄稿記事
【自治体SDGs~先進事例と実践者たち】 亀岡市「レジ袋禁止条例」の挑戦 #1~事業者と住民の行動変容につなげる 亀岡市「レジ袋禁止条例」の挑戦 #2~民間企業など多様なステークホルダーとともに取り組む 【自著書評】 『SDGs×自治体 実践ガイドブック 現場で活かせる知識と手法』
高木 超(たかぎ こすも)さんのプロフィール
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教 国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット(UNU-IAS OUIK)研究員 NPO等を経て、2012年から大和市役所(神奈川)の職員として住民協働、厚木基地問題等を担当。2017年9月に退職し、渡米。クレアモント評価センター・ニューヨークの研究生として「自治体におけるSDGsのローカライズ」に関する研究を行うほか、国連訓練調査研究所(UNITAR)とクレアモント大学院大学が共催する「SDGsと評価に関するリーダーシップ研修」を修了。2019年4月から現職(国連大学は2019年9月着任)。 鎌倉市SDGs推進アドバイザー、亀岡市SDGsアドバイザー、能登SDGsラボ連携研究員のほか、ミレニアル世代を中心にSDGs の達成に向けて取り組む団体、SDGs-SWYの共同代表も務める。 著書に『SDGs×自治体 実践ガイドブック 現場で活かせる知識と手法』 (学術出版社)がある。新著は『まちの未来を描く! 自治体のSDGs』 (学陽書房)。
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