トラブル&シュート~導入段階でなぜか立ち往生
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情シス担当者が精力的に動いているのに具体的な導入が進まない…
行政にITを積極的に取り入れる先進的な考えを持ち、RPAにおいても他自治体に先駆けて取り組みを進めていたA自治体。ここでは情報システム部門の担当者が精力的に動いており、RPA製品やITベンダーの情報収集も積極的に進められていました。
そしてITベンダーとの試行開発フェーズの1年が成功裡に終わろうとしていました。翌年度からいよいよ本番導入という段階ではあったのですが、「何だか具体的な導入が進まない」という悩みを持たれており、相談を受けることになりました。
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情シス部門と行革部門の協働で
事例のA自治体では情シス部門だけの体制で活動を推進しようとされていたことが判明したため、すぐに行革部門の関与を推奨しました。そして両部門がいる中でRPA導入活動における重要課題を伝え、両部門の協力体制により活動が進むきっかけとなりました。
「情シス部門に“丸投げ”」がNGなワケ
なぜ、情シス部門と行革部門が協働することでRPAの導入活動が進んだのでしょうか? その謎ときをするため、昨年初め、自治体向けにさまざまなセミナー講演をした際に、参加者の理解として多かった声をご紹介しましょう。それは「RPAはAIなので何でもできる」というものでした。
具体的な声としては、
・RPAは高度なAIだ
・(メールやSNSのように)導入したらすぐに業務を効率化できるものだ
・○○市のRPAをもって来たら、うちの庁内でも△△部門ですぐ使える
といった、あたかも「魔法の自動化ツール」といったものが多かった記憶があります。これらのツールへの誤ったイメージに加え、「ITのシステムなのだから」という発想が相まって、「情シス部門に任せておけばよい」という“カン違い” が定着しかけていました。
現に、当初、私たちがおうかがいした自治体の多くで、情シス部門のみでの体制を構築しようとされており、どう進めたらよいものかと頭を抱えておられ、中には「丸投げされている」ことに憤慨されている情シス部門の方もおられました。
そして、皆様口々に、情シス部門だけで推進することの困難さと、苦悩を述べておられました。
「情シス部門にまかせればよい」という、一見、間違ってはいないように思われる考え方や姿勢が、実はRPA導入の大きな支障にすらなりうる“カン違い”だと理解するには、そもそもRPA導入における重要課題を知ることが必要です。
導入効果は「変革意識」で左右
主な目的が「技術適合性」に重きが置かれたRPA試行開発では「RPAで自庁内のシステムを使った業務の実施が可能である」との結果報告に終止する傾向が強いですが、真に検証すべきは「RPAの導入効果は何に起因するか」です。
当社では、対象となった業務における業務負荷の削減効果が5割に満たないケースは「効果が少ない」とみて、その要因を分析しています。もちろん、さまざまな要素があるのですが、大きな要素の1つとして「変革意識」との相関がみられます。
例えば、ある自治体に同一の業務手順にあるAさんとBさんという2人の担当者がいらっしゃいました。そして、それぞれでRPA導入範囲の議論と効果試算を実施した結果、Aさんが「2割程度の効果」と試算したのに対して、Bさんは「8割以上の効果がある」との結果になりました。
なぜ、RPAの導入効果試算について、これほど大きな開きが生じたのでしょう。
おふたりに話をうかがったところ、Aさんは「この仕事は引き続き私がやるべき」という意識からRPA導入範囲は限定的に、Bさんは「この仕事はRPAに任せるべき。私には別にやるべき仕事があるから」という意識で最後の確認以外すべてにRPAを導入するお考えでした。それぞれ違う立場からRPAの導入範囲の最大化を志向していたことが分かりました(下図参照)。
この事例において、おふたりのどちらが正しいか・誤っているかが、重要なのではありません。
重要なのは「導入効果は(IT技術とは別のところにある)変革意識に相関する」ことへの理解です。ですから、導入効果を得るためには「何のためにRPAを導入するのか」といったRPA導入の必要性と意義をしっかりと全庁職員にメッセージし、変革意識を醸成することがポイントになってきます。
また、業務を知っている原課の協力を最大限得るために、活動の推進者を原課に育成することです。原課の育成や全庁活動の推進をより強力にするため、行政改革部門や企画部門、働き方改革の主管である人事部門と連携することも重要です。
この理解があれば、システム部門だけに任せきり(丸投げ)にすることが、いかに“カン違い”なのかに気づくかと思います。
「RPA導入は自分事」という意識形成
私たちは、RPA導入活動において全職員向けセミナーコンテンツと推進者向けのトレーニングコンテンツを有しており、この1年だけでも1,000名を超え、延べ2,000名以上の職員の方々へそれぞれ実施してきました。
これらコンテンツにはさまざまな工夫を凝らしていますが、その1つには「IT感を排除すること」があります。原課の方々のIT知識の高低によって啓蒙活動の成果が左右されず、また「RPA導入は自分事」として捉えて頂けるようにする工夫となります(下図参照)。
尚、これらのコンテンツはテレワーク環境でも実践可能なものとなっているため、集合することが困難な場合においても、その効果を発揮します。
次回は、「現状業務の中で大量定型業務を見つけるべし」を取り上げたいと思います。現状業務の状態に対して、短絡的に導入対象を探そうとすることへの落とし穴についての考察です。
(「その差は7倍にも…『RPA効果』を左右する導入の際のポイント」に続く)
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本連載「地方行政戦略教室『自治体×RPA』」のバックナンバー
第1回:「カン違い」への気づきがRPAのポテンシャルを最大化する
品川 政之(しながわ まさゆき)さんのプロフィール
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
シニアマネジャー
大手通信事業者、情報セキュリティコンサルファームを経てデロイト トーマツ コンサルティング合同会社に入社。民間の大規模BPRを始め、経営管理基盤構築、財務管理強化、IR強化、M&A等数多くの実績を有する。近年は自治体でのRPAを活用した全庁業務改革支援に注力、業務類型の考察知見を有する。BPR推進者を育成する技術トレーニングや、自治体の将来を討議する幹部向け集中ワークショップ、全職員向け啓蒙セミナー等、自治体の業務改革に必要な意識醸成及びノウハウ伝承を目的とした研修の豊富な講師経験を有し、受講者はこの1年で1,000名を優に超える。
<連絡先>
電話: 080-9372-5601(直通)
メール:mshinagawa@tohmatsu.co.jp