制定することが目的?
今回は議会基本条例と議会改革を紹介したい。
議会基本条例は、2006年5月に栗山町(北海道)が全国ではじめて制定した。
その後、同年12月に都道府県では三重県が最初に制定している。2006年の時点では、栗山町、湯河原町(神奈川)、三重県の3議会のみであった。市議会では2007年2月に伊賀市(三重)がはじめて制定している。
栗山町の制定を契機として、議会基本条例を制定する地方議会は増加しつつある。
自治体議会改革フォーラム(呼びかけ人代表=廣瀬 克哉・法政大学法学部教授)は、議会基本条例の動向を調査している。同フォーラムの調査によると、議会基本条例の制定状況は右肩上がりで増加してきたことが理解できる(下のグラフ参照)。
既存の議会基本条例が廃止されない限りは、今後も総数として議会基本条例は拡大していくだろう。
2020年においては、875議会において議会基本条例が用意されている。つまり全国自治体の約半分の議会で議会基本条例が存在していることになる。
しかし、制定数は2013年をピークに減少しつつある。2012年が114議会、2013年が158議会、2014年が117議会となり、2015年が48議会という結果になっている。一般的には、都道府県、政令市、市区の各議会において、議会基本条例が多く制定されている。
言い方に語弊があると思われるが、同条例を制定した議会の中には「議会基本条例を制定することが目的」となっている場合も少なくない(ように感じる)。
冗談か本気は分からないが、筆者が話した議員の中には「議会ランキングを上げるために、議会基本条例を制定した」との発言もあった。このような理由で、議会基本条例を制定した場合は、議会にとっても議員にとっても、そして住民にとっても不幸である。
今日では、さまざまな理由から議会基本条例を制定する機運が強まっている。しかし、あえて「議会基本条例を制定しない」という判断も立派な議会政策の一環となる。
もちろん、根拠を持って「条例を制定しない」と言う必要はあるだろう。
「議会基本条例」の重み
既存の議会基本条例を参考にして、議会基本条例の目的を簡単に考えてみる。
栗山町議会基本条例は「分権と自治の時代にふさわしい、町民に身近な政府としての議会及び議員の活動の活性化と充実のために必要な、議会運営の基本事項を定めることによって、町政の情報公開と町民参加を基本にした、栗山町の持続的で豊かなまちづくりの実現に寄与する」ことを目的としている(第1条)。
下にまとめた囲み記事「議会基本条例の目的規定」をご参照いただきたい。目的規定から定義を検討すると、議会基本条例は「地方自治の本旨に基づく地方議会運営の基本原則を定めた条例」と捉えることができそうである。
議会基本条例の目的規定
※太字は条例名、カッコは制定年月日
栗山町(北海道)議会基本条例
この条例は、分権と自治の時代にふさわしい、町民に身近な政府としての議会及び議員の活動の活性化と充実のために必要な、議会運営の基本事項を定めることによって、町政の情報公開と町民参加を基本にした、栗山町の持続的で豊かなまちづくりの実現に寄与することを目的とする。(2006年5月18日)
三重県議会基本条例
この条例は、二元代表制の下、議会の基本理念、議員の責務及び活動原則等を定め、合議制の機関である議会の役割を明らかにするとともに、議会に関する基本的事項を定めることにより、地方自治の本旨に基づく県民の負託に的確にこたえ、もって県民福祉の向上及び県勢の伸展に寄与することを目的とする。(2006年12月20日)
会津若松市(福島)議会基本条例
この条例は、二元代表制の下、合議制の機関である議会の役割を明らかにするとともに、議会及び議員の活動原則等の議会に関する基本的事項を定めることにより、地方自治の本旨に基づく市民の負託に的確にこたえ、もって市民福祉の向上と公正で民主的な市政の発展に寄与することを目的とする。(2008年6月23日)
菊川市(静岡)議会基本条例
この条例は、議会運営及び議員に係る基本事項を定め、議会及び議員の活動により、菊川市の豊かなまちづくりを実現することを目的とする。(2009年2月13日)
島田市(静岡)議会基本条例
この条例は、島田市議会及び島田市議会議員の活動の原則、市民に開かれた議会の在り方その他の議会に関する基本的事項を定め、市民の福祉の向上と市政の持続的な発展に寄与することを目的とする。(2009年3月24日)
そして議会基本条例が目指すべき姿として「持続的で豊かなまちづくりの実現」(栗山町議会)、「県民福祉の向上及び県勢の伸展に寄与」(三重県議会)、「市民福祉の向上と公正で民主的な市政の発展に寄与」(会津若松市議会)などと議会により異なる。
また、多くの議会基本条例に共通しているのは、議会運営の最高規範という位置づけである。
そこで法律に基づく議会関連の条例と規則は、理念上は議会基本条例の下位に位置すると解される。なお注意すべきは、あくまでも「理念上は」である。条例そのものに上や下ということはない。どの条例も同一レベルである。
議会基本条例の意義は、当然議会により異なる。その中で、目的規定を確認すると、議会の活性化の趣旨が入ることが多い。
この観点で考えると、議会活性化を含んだ議会改革を進めるひとつの契機としているのが議会基本条例の存在意義と捉えることもできる。
筆者は、議会改革を進めるには議会基本条例はとても効果的と考える。なぜならば、議会基本条例に明記した事項は、必ず実施しなくてはいけないからである。それが条例の持つ重みである。
議会基本条例に明文化した事項は、否応なしに実施していくことになる。その意味では、議会基本条例を制定している議会は、議会改革が進んでいると捉えることもできる(ところが多くの議会基本条例は、同条例に規定した内容を真摯に実施しているというわけでもない。議会基本条例を制定して議会改革にやる気があるのか、実はないのか、微妙にわからない議会が少なくない)。
「議会改革条例」を単独制定する事例も
今日、議会基本条例は875条例が確認できる。そして同条例に「議会改革」を明記しているのは477条例である。
北海道議会基本条例は第6章が「議会改革」となっている(第23条~第25条)。第25条の見出しが「議会改革」であり、条文は「議会は、地方分権の進展等に対応するため、自らの改革に不断に取り組むものとする」と記している。第24条が「議員定数等」であり、第25条が「議会事務局等」となっている。
栗山町議会基本条例は、第7章を「議会改革の推進」としている(第11条~第13条)。第11条の見出しが「議会改革推進会議」であり、第12条が「交流及び連携の推進」、そして第13条が「議会モニターの設置」である。
栗山町条例の第12条の「交流及び連携の推進」だけでは理解できないだろう。条文は「議会は、分権時代にふさわしい議会の在り方についての調査研究等を行うために、他の自治体の議会との交流及び連携を推進するものとする」とあり、議会改革を推進していくために他議会との交流と連携を掲げている。
参考として下に囲み記事「議会改革の書き方」をまとめた。
議会基本条例における「議会改革」の書き方
春日部市(埼玉)議会基本条例
(議会改革)
第15条 議会は、地方分権の進展及び市民からの多様な要請に対応するため、自らの改革に不断に取り組むものとする。
2 議会は、前項の規定による取組を行うため、法第109条の規定による特別委員会を設置するものとする。
戸田市(埼玉)議会基本条例
(議会改革の推進)
第25条 議会は、議会の信頼性を高めるため、不断の改革に努めるものとする。
2 議会は、前項の改革に取り組むため、必要に応じて議員で構成する検討組織を設置するものとする。
藤沢市(神奈川)議会基本条例
(前文)
藤沢市議会は,こうした状況を踏まえ,常に時代に対応した地方分権を先導する議会を目指して,一層の議会改革に取り組むとともに,公正性,透明性及び独自性を確保する中,より市民に開かれた議会運営を推進することにより,市民の負託に応えるべく,ここに藤沢市議会基本条例を制定する。
尾道市(広島)議会基本条例
(議会改革)
第24条 議会は、より一層その責務を果たすとともに、公平、公正及び透明で市民に開かれた議会の実現のため、継続的に議会改革に取り組むものとする。
西条市(愛媛)議会基本条例
(議会改革の推進)
第18条 議会は、社会経済情勢等の変化により新たに生ずる市政の課題に適切かつ迅速に対応するため、この条例の理念に基づく議会の改革、活性化に取り組むものとする。
条例名に「議会改革」の4文字が入っているのは2条例ある。芽室町(北海道)の「芽室町議会改革諮問会議設置条例」である。
同条例は「芽室町議会基本条例第20条の規定に基づく附属機関として、芽室町議会改革諮問会議を設置し、その組織及び運営に関しては、この条例の定めるところによる」と明記している。
芽室町議会基本条例の第20条は「附属機関の設置」である。条文は「議会は、議会活動に関し、審査、諮問又は調査のため必要があると認めるときは、別に条例で定めるところにより、学識経験を有する者等で構成する附属機関を設置します」とある。同条文にある「別に条例」が芽室町議会改革諮問会議設置条例である。
そしてもうひとつが愛荘町(滋賀)の「愛荘町議会改革条例」である。
愛荘町条例は「町民に身近な政府として議決機関ならびに監視機能を発揮するため、議会の政策立案機能を高め議会および議員の活動の活性化と充実に必要な議会運営の理念と改革事項を定め、町民が持続的で安心して暮らせるまちづくりの実現に寄与する議会に向けて取り組むこと」を目的としている(第1条)。
個人的には、議会が議会改革を進めるという意思があるならば、議会基本条例に加え、愛荘町議会改革条例のような形態が増えてもよいと考える。
「自治基本条例」と地方議会
最後に、自治基本条例における「議会改革」も言及しておきたい。
自治基本条例に議会改革を規定している事例もある。自治基本条例とは、自治体運営の基本原則を定めた条例であり、しばしば「自治体の憲法」と言われる。
石狩市(北海道)自治基本条例、白老町(同)自治基本条例、斜里町(同)自治基本条例、玉村町(群馬)自治基本条例、牧之原市(静岡)自治基本条例、由布市(大分)住民自治基本条例と少ない。
斜里町の同条例は、第13条の見出しが「議会改革」となっている。条文は「議会は、町民の信託に応えるため、この条例制定の趣旨のもとに改革を推進します」と明記している。
ちなみに、自治基本条例のスタートは2000年である。同年にニセコ町(北海道)が「ニセコ町まちづくり基本条例」を制定し、全国に広がることになった。「全国条例データベース powered by eLen」において調べると、224条例が存在している。
筆者は、住民の福祉を増進するために議会の意義は大きいと考えている。特に、新型コロナウイルス感染症のような非常事態には議会の役割が求められる(しかしながら、議会の活動は大きく目立っていない)。
議会の役割や展望については別の機会に改めて検討したい。
(続く)
本連載「基礎自治体のための議会改革の地図」のバックナンバー
第1回:「削減ありき」でヨコ並び“地方議会改革”の歴史
第2回:透明化 疑問符 対立~1990年代から2010年代の地方議会改革ヒストリア
牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
<連絡先>
牧瀬稔研究室 https://makise.biz/