18歳以下を巻き込む取り組みが大切
― 投票率向上で藤沢市が取り組んでいることを教えてください。
路線バスのデジタル広告、駅前や歩道橋、商業施設への横断幕、懸垂幕の設置等を行っています。また、子どもたちが選挙に興味を持ってもらえるような取り組みとして、投票所に“顔出しパネル”を設置したり、小学生向けの選挙教室も行っています。
しかし、選挙の日付を周知することはできているものの、直接的に取り組みを投票率向上に繋げることは出来ていないと感じています。
― 投票率向上の取り組みで藤沢市議会が参考にした自治体について教えてください。
岐阜県の可児市議会を参考にしており、2019年の1月に現地視察をしました。可児市議会では高校生から政策提言をしてもらい、18歳以下を巻き込んだ取り組みをしていました。
藤沢市議会でも高校生と一緒になって何かできないかと模索しています。2016年に投票年齢の引き下げがあり、若い層に政治参加してもらうためにも18歳以下を巻き込んだ取り組みが大切になってくると考えています。
― 藤沢市議会ならではの、投票率向上に関して出来そうな取り組みを教えてください。
藤沢市ならではの資源を生かすとなると、時期によっては海や水族館などの施設と協働することで市民を選挙へと促す効果があると考えています。
具体的には、投票所に行くと水族館の割引券を配布するなどということが例として挙げられます。他にも、同様な活動としては、例えば、商店街にある複数の店舗がまとまって実施するなどすればインパクトがあり、効果的と考えています。
このような取り組みは、個人的には、シビックプライドの高い藤沢市にとって、充分な強みとなり得ると思っています。
大きな課題は“周知力”
― 投票率向上には何が必要だと思いますか。
投票率には、市民の意識が大きく関係してくることは否めません。そこを変えていかなくてはならないと考えています。市民の投票率への意識を向上するために、何らかの取り組みをやっていかなければならないのですが、現実的にはなかなか難しい…。
また投票率=幸福度とも考えることができると思います。その観点で言うと、投票率を向上させるためには、まずは市民の幸福度を上げるための取り組みを行う必要があり、日々、様々な取り組みは行っています。
― 藤沢市ではどの年代の投票率向上を考えていますか。
「藤沢市をよくする」ということを考えれば、各年代への序列はありません。しかし、データを確認すると、未成年から子育て世代に当たる年代は、数値的に明らかに投票率が低い現状があります。
「年齢別投票率比較」は各選挙の全年代投票率を1とした場合の対数グラフ(年齢別投票率÷全年代投票率)
藤沢市での若い世代の不在者投票や期日前投票に関しては「どうにかしたい」と捉えています。不在者投票は選挙時に旅行などで市内にいない市民が対象となるので数は少ないです。
前回の統一地方選挙で、10代で投票した約2000人の中で不在者投票の数は4人、20代の場合は約3700人中12人でした。期日前投票は全体の投票者数の約2~3割の方が利用されており、年々数値は増えてきています。この状況から期日前投票という制度の周知は広まってきていると考えます。
― 藤沢市において、国政選挙と地方選挙で投票率はどのくらいの違いがあり、その理由は何だとお考えですか。
前回の国政選挙は40%台、地方選挙は30%台と毎回国政選挙と地方選挙とでは10%近くの投票率の差が出ています。市長選挙に関しては、20%台という結果です。
国政選挙は、全国的に国が取り組んでいるため、新聞やテレビなどのメディアで取り上げられ、市民が目にする機会が多くあります。一方で地方選挙では、選挙管理委員会など市自らが情報を発信しなくてはいけません。その意味で、周知する力が足りていないのが現状と考えます。
その他考えられる原因としては、新しく藤沢市に引っ越してきた方々が藤沢市や市議会議員のことをよく知らず、投票に行っていないからとも思われます。
低投票率は民主主義のあり方として問題
― 地方選挙について、メディアでの露出頻度以外に市民の投票率が高いとは言えない原因はありますか。
市民が選挙に関心が低い理由は、市民ひとりひとりが選挙に対してあまり「自分に関係がある」と理解していないからと思います。
投票行動のメリットは、より多くの市民の声が政治や行政に届くことです。若者の選挙行動が強くなれば、若者向けの政策が反映されやすくなります。また、少数の意見で政治が動いてしまうことや、シルバーデモクラシーの回避に繋がります。
一方で、デメリットは、選挙のことをよく分からないで投票に行く人が増えると、真剣に考えている人の意見が反映されにくくなる可能性があります。
また、選挙は無理やり投票させる必要はないという考え方もあります。選挙に行かない人は現状に不満がないと解釈することもできます。
投票率が低いと、一部の意見の人の意見が反映されてしまうことに繋がります。結果として、民主主義として問題になってしまいます。一部の意見だけで政治を動かさないためには、行政がしっかり情報を市民に提供し、市民ひとりひとるが判断できるしくみをつくることが重要です。その上で市民が政治について意見を言える社会になることが、住みやすい社会をつくることに繋がると考えています。
各年代での投票率は、平成31年の市議会議員選挙を例にとると、10代24.47%、20代19.38%、30代26.80%、40代32.24%、50代39.45%、60代48.72%、70代以上49.26%となっています。平成23年、平成27年と比べても各年代とも投票率はほとんど変わりません。
今後は、各年代の投票率を上げるように取り組みを進めていきたいと思います。
(「藤沢市議会の『投票率向上』に向けての取り組み~後編」に続く)
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本連載「基礎自治体のための議会改革の地図」のバックナンバー
第1回:「削減ありき」でヨコ並び“地方議会改革”の歴史
第2回:透明化 疑問符 対立~1990年代から2010年代の地方議会改革ヒストリア
第3回:地方議会基本条例のトレンドと“改革本気度”
牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
<連絡先>
牧瀬稔研究室 https://makise.biz/