「経営感覚」が求められるのは当然、だけど
「役所に経営感覚は必要か?」という問いに対して、「NO」と答える方はあまりおられないのではないでしょうか。
役所には利益を上げるという概念は基本的にはありませんが、限られた収入の中でやりくりしていかなければなりませんし、それを1年こっきりではなく継続していかなければなりませんので、行き当たりばったりで進めていいわけがありません。
ですから、経営感覚が求められるのは当然です。
では、「公務員に経営感覚は必要か?」という問いであればどうでしょう?
これについても「NO」と答える方はあまりおられないと思います。
「公務員だからといって、無駄遣いしていいわけがない」
「公務員にもコスト意識が必要だ」
というわけです。
これも当然のことのようですが、ここで言われているのは「節約」「切り詰め」というニュアンスであり、「経営」と言う言葉の意味とは少し違っている気がします。
そこで改めて「経営」という言葉について調べてみると、「節約」「経費節減」といった趣旨はあまり含まれていないことがわかります。
「経営」という言葉についてググってみると、概ね次の二つの意味に集約されそうです。
ひとつ目は、会社を「経営する」といったときの使われ方です。
意味としては、シンプルに「事業を営むこと」とされていたり、もう少し丁寧に、「一定の目的を達成するために、継続的・計画的に事業を進めること」とされていたりします。
二つ目は、もう少し広い意味を含む場合です。
例えば、先生が学校生活を充実させるために「学級経営」するといったときの使われ方です。意味としては、「工夫をこらして物事を行うこと」といったことになりそうです。
つまり、経営と節約とは違うのです。
“経費削減”は経営のほんの一端
公務員はコスト意識が希薄である、とよく言われます。実際にそうした面はあるでしょうから、改めていく必要があると思います。
しかし、節約することは、経営するという意味ではないことは押さえておきたいところです。
こんなことを言うと、「突き詰めれば『経営』という言葉の意味からは外れるかもしれないけれど、お金を大事にしなければいけないのは確かなのだから、細かいことはいいではないか」という感想を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ここはこだわりたいところです。
というのも「ケチケチ大作戦」を実行することを、経営感覚と勘違いしている人が少なくないように感じるからです。
役所の中だけではなく、役所の外の人もそんな勘違いをされている方が少なくないように思います。
企業経営においては、利益を出すことが大前提とされますので、経費を節減することも要素のひとつになるのは確かですが、それはほんの一部であることは忘れないようにしたいところです。
「消耗品費を何%か削減した」
「出張に行く回数を減らした」
といったことが、成果として報告されることがよくあります。
それ自体は、悪いことではありません。
ただ、そうしたことを行うことだけを「経営感覚」と思い込み、そこで意識が止まってしまうことを心配します。
ケチケチ大作戦と経営は違うものなのです。
「経済知識」を身に着けるべき
もし私が「公務員に経営感覚は必要か?」と聞かれたら、もちろん「YES」と答えます。
ただし、聞いてきた方に、「経営感覚って、どんなことを想定していますか?」ということは確認したいところです。
私は公務員は経営感覚もさることながら、経済知識を身に着けるべきと考えています。それはなぜなのか、経済知識とはどのようなことなのか、といったことについては、次回書いてみたいと思います。
そしてこの連載全体を通じて、公務員がもつべき経営感覚について私なりの考えをお伝えしていければいいな、と思っています。
(「『経済知識』で政策運営はこんなに変わります」に続く)
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林 誠(はやし・まこと)さんのプロフィール
所沢市(埼玉)財務部長
1965年滋賀県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。日本電気株式会社に就職。その後、所沢市役所に入庁。一時埼玉県庁に出向し、現在に至る。
市では、財政部門、商業振興部門、政策企画部門等に所属。役所にも経営的な発想や企業会計的な考え方も必要と中小企業診断士資格を、東京オリンピック・パラリンピックに向けて通訳案内士資格を取得。また、所沢市職員有志の勉強会「所沢市経済どうゆう会」の活動を行う。
著書に「お役所の潰れない会計学」(自由国民社)、「財政課のシゴト」(ぎょうせい)、「イチからわかる!“議会答弁書”作成のコツ」(ぎょうせい)、「9割の公務員が知らない お金の貯め方・増やし方」(学陽書房)「どんな部署でも必ず役立つ 公務員の読み書きそろばん」(学陽書房)。
<ブログ>
「役所内診断士兼案内士のヨモヤ」
https://matoko.blog.ss-blog.jp/