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「法的なものの考え方」を探して#7(自治体法務ネットワーク代表・森 幸二)
安易な「カスハラ」を定着させないために

自治体職員として「カスハラ」に向き合う《後編》

    プロフィール
    森 幸二
    《本連載の著者紹介》
    自治体法務ネットワーク代表
    森 幸二もり こうじ
    北九州市職員。政策法務、公平審査、議員立法などの業務に携わり、現在は北九州市 人事委員会 行政委員会 事務局調査課 公平審査担当係長。自治体法務ネットワーク代表として、全国で約500回の講演。各地で定期講座を実施中。著書に『自治体法務の基礎と実践』(ぎょうせい)、『自治体法務の基礎から学ぶ指定管理者制度の実務』(同)、『自治体法務の基礎から学ぶ財産管理の実務』(同)、『1万人が愛したはじめての自治体法務テキスト』(第一法規)がある。2023年10月に『森幸二の自治体法務研修~法務とは、一人ひとりを大切にするしくみ』(公職研)、2024年3月に『自治体法務の基礎と実践 改訂版~法に明るい職員をめざして~』(ぎょうせい)を出版。

    「自治体とカスハラ」を考える本シリーズの《前編》では民間企業におけるカスハラの定義を考察しました。《後編》では自治体はカスハラとどう向き合うべきかを深掘りします。

    自治体における「カスハラ」成立の可能性

    《前編》では、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」をもとに、カスハラの定義を検討しました。

    カスハラの定義の要約(詳細は《前編》を参照)

    ところで、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」というドキュメント・タイトルに表しているように、《前編》において検討したカスハラの定義は、あくまでも民間企業におけるそれです。では、自治体も民間にならった「カスハラ」を定義し、カスハラ対策を講じるべきでしょうか。

    私の結論を申し上げます。自治体においては、少なくとも民間企業と同じような意味では、「カスハラ」は成立しえない、民間における「カスハラ」の定義を持ち込んではいけないと考えます。

    次章より、その理由を挙げます。

    民間企業とは異なるべき「レベル感」

    ある住民が「税金(正確には税額)が高い。何とかして欲しい」と、10日間、窓口で繰り返したとします。民間では「カスハラ」です(具体的な指標①=要求の内容の不当性)。大声をあげたり、机をたたいたりすればなおさらです(具体的な指標②=態様の内容の不当性)。業務も妨害されていると感じるでしょう(結果的な指標③)

    でも、自治体においては、基本的には、住民による制度や法律への繰り返しの苦情であり要望の一種です。最終的にはカスハラになったとしても、その過程においては、できるだけ真摯な、少なくとも民間企業よりはていねいな対応が必要なはずです。カスハラになる「レベル感」が民間企業とは異なるべきであると考えられます。

    「平等一律なカスハラ認定」は可能か?

    さらに課題があります。その市民が町内会長だった場合と一般市民であった場合とで同じように、毅然として「カスハラ認定」ができるでしょうか。

    民間であれば、「カスハラ」の定義に当てはまる場合でも、それを「カスハラ」とみなすかどうかは任意です。「気に入らないカスハラ客」だけを「カスハラ客」扱いすることもおかしなことではありません。

    もちろん、度が過ぎれば、結果的な指標③の「労働者の就業環境が害される」にあたり、必然的にカスハラとして対応しなければならなくなりますが、それも雇用主の従業員に対する配慮、ないしは、労働契約上の義務にすぎません。

    でも、自治体の場合は、そもそも住民は平等に扱わなければなりません。「平等一律なカスハラ認定の実現」は、最広義の行政手続きのひとつだとも考えられます。自治体との関係性や相手の属性(例:紹介者の有無)によってカスハラかどうかを判断してはならないはずです。

    「カスハラと認定してはいけないケース」もある

    そして、限界的な事例です。学校において、自治体側の瑕疵や過失に起因した児童や生徒の生命が失われる事故が起こっています。そのご両親が、「子どもを返してほしい」と教育委員会を訪れて、長時間、号泣したとします。

    この行動は、カスハラの具体的な指標①の「顧客等の要求の内容が著しくしく妥当性を欠く」にあたります。また、連日、号泣することは、 具体的な指標②「その実現のための手段・態様の悪質性が高い場合」にもあたるでしょう。業務にも支障が生じます(結果的な指標③)

    でも、「決して、カスハラではない。カスハラだと認定してはいけない」はずです。

    民間企業は別でしょう。「あなたの行為はカスハラです。もうこれ以上は、対応しません。あなたの言い分は、裁判をとおして金銭の形で実現しましょう」です。

    自治体の場合は、毎日、庁舎に押し掛けたとしても絶対にその行為はカスハラではありません。私は断じてそう思います。彼らの行為がどんなに業務を阻害しても(結果的な指標③主観的な要素に該当)、自治体には対応すべき義務があります。彼らの行為をカスハラだと捉えたら、もう、行政や自治体職員の存在意義はこの世からなくなってしまいます。

    「専門家まかせ」はNG!

    自律的に考えることが必要

    さまざまなハラスメントを語るときに自分や自分の周りのひとを救うだけではなく、いろんな場面における人のことを考えてみましょう。現在のハラスメントを語るファシリテーターたちは、法的に見れば、「ステークホルダー(そのハラスメントについての利害関係者)に寄り添っている人」に過ぎない面もあるのではないかと、私は感じてしまうのです。

    だから、専門家に任せず、専門家の意見に引きずられず、みんなで「自治体におけるカスハラ」について考えてみませんか。本稿もその中のひとつです。

    (続く)
    ※本稿をはじめこの連載の内容は筆者の森さんの私見です。

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