今村 寛 いまむら ひろし
福岡地区水道企業団 総務部長。1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2022年より現職。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信する「自治体財政よもやま話」(note)を更新中。
コロナ禍の嵐が過ぎ去ったかと思えば「地球が沸騰している」との悲鳴すら上がる酷暑に見舞われたこの1年。みなさんの周辺でもさまざまな悲喜こもごもがあったのでは? そして“想定外”が当たり前になった今、来たる2024年にはどんな新しい光景が自治体を待ち構えているのか―。それを考えると、ワクワクドキドキ、ハラハラ(!?)する自治体職員の方は多いでしょう。自治体の役割、自治体職員への期待が変わっていくなか、こんな視点を持てば大丈夫だよ、というお話を「対話のプロ」こと福岡市 職員の今村 寛さんがお届けします!
「出前」再開しました 2023年も残すところ数日、あわただしい年の瀬を迎えています。
皆さんにとって、2023年はどんな1年でしたか?
2020年の冬以降世界中を震撼させた新型コロナウイルスのパンデミックもようやく落ち着きを見せ、依然として流行に警戒しながらもコロナ以前の生活を取り戻すことができたというのが2023年の1年間だったのでは ないかと思います。
皆さんは、コロナ前の生活を取り戻すことができましたか?
私はというと、長らくお休みしていた「出張財政出前講座」をこの11月に福岡県内で開催された地方議会議員の勉強会への出講でようやく再スタートを切ることができました。
本当に久しぶりの出講で、以前のように流暢に人前で話せるのか、話は陳腐化しないで聴衆の心に響くのかとても不安でしたが、その懸念は杞憂に終わり、参加者の皆さんにも満足いただけたことでほっと胸をなでおろしています。
2024年の開催スケジュールはまだ決まっていませんが、これまで開催の依頼を受けながらお待たせし続けた地域、まだ一度も訪れたことのない地域を優先に今後依頼を受け、調整していきたいと思います。
皆さんのまちにもお伺いする機会があるかもしれませんので、その際はぜひ会場に足をお運びください。
再スタートした「出張財政出前講座」の模様 (画像は今村さんのFacebook より)
予算獲得への道 先日、私の母体である福岡市の保健師研修の講師を務めました。
一般行政職と違い、市役所全体を俯瞰することやその中枢の意思決定に関与する機会が少ない専門職も、自治体財政の全体像を知り、その中での自分たちの担う仕事の全体の中での位置づけ、優先順位を理解しておくことは必要だ、という依頼理由から、2年に一度この職群研修で自治体財政の全体像やその将来見通し、財政健全化の必要性などを講義しています。
この内容は私が通常の財政出前講座でお話ししている内容とほぼイコールなのですが、主催者から強く依頼されていることがもうひとつあります。
それが「どうすれば新規事業の予算が獲得できるか」というテーマ です。
自治体財政の全体像や将来見通し、財政健全化の必要性といったテーマであれば、当該自治体の現役の財政課職員が担えばいいと思うのですが、もうひとつのテーマのほうは財政課が請け負うわけにはいきません(笑)
とはいえ、一般行政職に比べ役所内部の事務にやや疎い専門職にはこのスキルが必要だ! という主催者事務局の強い意志により、4年前にこのオファーを請け負い、今回が3回目の出講となっています。
それってホントにうまくいく? 講義では、個別の事業構築に当たって「それってホントにうまくいく?」という視点でチェックするということ(それは私が財政課に在籍していたころから常にやっていたことですが)と、特に解決すべき課題とその手法との関係に論理的な乱れがないか、「風が吹けば桶屋が儲かる」という論理展開、ロジックモデルをチェックするよう説いています。
11月に第1回の講義でこれらのことをレクチャーしたうえで、第2回の講義で受講生が企画立案した架空の新規事業案についてプレゼンテーションを行い、私がその内容に茶々を入れるという講義スタイルになっており、12月に行われた先日の第2回のプレゼン大会ではそれぞれの新規事業案について講評させていただいたわけですが、ロジックモデルとは別に、どの事業にも共通で「それってホントにうまくいく?」と感じたこと がありました。
保健師さんたちが立案する事業は、高齢者の地域での見守りや介護予防、精神障がいや認知症患者への支援、児童虐待、感染症対策といった今日的課題への対応など、どのテーマも一筋縄ではいかないものばかり。
そのような困難なテーマを解決する手段として共通するのが「関係者、関係機関との連携」という魔法の言葉です。
どの課題についても市役所、保健所の職員だけで解決できるものではなく、医療機関、介護事業者・施設、地域団体、学校、企業等、テーマごとに協力を得たい関係者、関係機関は多岐にわたるため、その連携組織づくりのようなものが問題解決の手法としてプレゼンの中で頻繁に登場しました。
私は容赦なく問いかけます。「それってホントにうまくいく?」。
あるテーマでは、医療機関との連携が必要だが関係機関との情報交換のための連絡会議に参加する医療機関が少ないとの課題が示されました。
私はプレゼンターに、なぜ医療機関の参加が少ないのかわかっているのか尋ねましたが、わからないとの返事が返ってきました。
それってホントにうまくいく?
“What Is It For Me?” 欠けているのはWIIFM、すなわち“What Is It For Me?”という視点。
私が15年前、東京財団の主催する市区町村職員研修でアメリカ・ポートランドまで行かせてもらい、プロジェクトマネジメントを学んでいたときに教わった、プロジェクトを成功に導くための重要な要素“Ownership”(当事者意識)を醸成するために、プロジェクトに内在させる視点です。
あるプロジェクトに誰かの参画を求める場合、求める側はその誰かの持っている能力や知見、ネットワークなどの資源を活用したいという思惑、つまり自分のプロジェクトを成功させるためにその誰かの参画が必要だと考えているのですが、求められた側からすれば「“What Is It For Me?”=それは私にとってどういう意味があるのか?」という疑問がわきます。
自分の能力、知見、ネットワークなどの資源を活用したいというあなたの気持ちはわかるが、私にとってそれはどういう意味があるのか、ひと肌脱いで自分の持つ資源を投入する私にとってのメリットが何かあるのか、と問いたくなる。
そのことがプロジェクトに誘う側できちんと整理できていない、アピールできていない、プロジェクトに内在させていないから、参画してくれないのです。
ほとんどの行政職員は真面目です。そしてそれぞれが担っている課題解決の使命は社会的に意義があり、ほとんどの場合、その取り組み自体の意義を否定されるようなものではありません。
しかし、取り組みの意義を理解することと、そのために自分の労力や時間、資源を割いて関わることとは別物 で、ひとりの私人、あるいは民間法人として行政の施策に関わることには、関わる側から見た意義、利益に基づくモチベーションがなければその取り組みへの参画は始まらないし続かないのです。
行政施策でよくある、イベント、教室などへの市民の参加が少ないという課題についても同じことが言えます。
こんなに役に立つ情報を提供しているのに、こんなにいい体験ができるのに、どうして参加してくれないんだろう、情報発信が足りないのかな、という課題認識を持つ方々はたくさんおられます。
これも単に情報発信の量を増やすだけでなく、そもそもの情報発信の手法や表現、あるいはイベントそのものの建付けにおいて、情報を受け取り参加するかどうか考える市民のWIIFM すなわち“What Is It For Me?”への配慮が欠けていないか、考えてみましょう。
対話は社会のインフラ WIIFMを考える上では、相手の立場に立って物事を見る視点が必要です。
自分が他者からどう見えるか、外から眺める第三者の視点を持つことは大変重要ですが、それがいつもできるようになるためにはそれなりの訓練や経験が必要になります。
その一番の近道はなんといっても外部の人と接点を持つことです。
私は財政課を卒業してから、大学、民間企業、NPO、学生などたくさんの方々と一緒に仕事をしてきました。
また、財政出前講座の出講での出会いやSNSでの発信を通じて、他の自治体、議員、行政とは関係のない一般市民の方々と数えきれないほどたくさんの対話、交流を続けています。
そこで得た交友関係から、日頃の仕事や市役所、公務員の世界が外側からどう見えるかということも教えてもらい、また、それぞれの個人やセクターの立場におけるWIIFMを考えるコツを知ることができました。
そういった経験の蓄積を生かしていろんな方々との協業、協働を実現し、そこからまた新たな経験を蓄積し続けています。
近年、自治体に求められる役割や機能が変化するなかで、自治体の外側にある組織や人材の力を借り、協力を得ながら物事を進めるという場面も増えました。
民間企業やNPO、地域団体など、頼ることのできるパートナーはたくさんいますが、互いの協力関係を構築するうえで必要な情報共有や意思疎通がうまくいかないということもしばしば見受けられます。
うまくいかない原因の多くは組織文化の壁 。自治体組織が長年育んできた独特の文化が外部ではうまく受け入れられないことや、自治体組織の外側では当然のこととされている常識が自治体職員に通じないということがよくあります。
対話の橋を架けよう!
2024年は、私たち公務員の自覚と努力によって、行政組織内部、行政と市民、そして市民同士の「対話」の橋を架ける年にしましょうね。
『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』(公職研)の表紙カバー
『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)の表紙カバー
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