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我らはまちのエバンジェリスト #24(福岡市 職員・今村 寛)
感じるところが多々あっても…

行政と市民をつなぐ重要な架け橋「マスコミ」との対話を考える

    プロフィール
    今村 寛
    《本連載の著者紹介》
    福岡市 職員
    今村 寛いまむら ひろし
    福岡地区水道企業団 総務部長。1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2022年より現職。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信する「自治体財政よもやま話」(note)を更新中。

    カレンダーが2024年に変わった途端、という無慈悲なタイミングで発生した能登半島地震。自身も被災したかもしれない公務員のみなさんが被災者の方たちを懸命にサポートされています。それにしても、昼夜を問わず対応している敬服すべきその姿に寄り添った報道がもう少しあってもいいんじゃないの? と口に出したくなるのは“身内びいき”でしょうか。今回は「マスコミとの対話」について本音で考えてみました。

    新年早々…

    少し遅くなりましたが新年あけましておめでとうございます。

    2024年は正月早々自然災害や大事故など想定を上回る出来事が次々と起こり、心の平穏を保つことが難しい年明けとなりました。

    特に私が心の平穏をかき乱され、それが今もなお続いているのが能登半島をはじめとする北陸地方を襲った大地震です。

    地震の規模も被害状況も想定を上回るもので毎日ニュースを見るたびに胸を痛めていますが、加えて元日というすべての人が休息し安らかな時間を過ごしているおめでたいタイミングであのような大規模な災害が発生してしまったことの不幸は言葉にできません。

    被災された方々、救出や復旧に従事されている方々、それらを後方支援しているすべての関係者の皆様に改めてお見舞い申し上げ、その尽力に敬意を表します。

    そして、今回に限らず、大規模な自然災害が発生すると否応なく注目を集めるのが私たち公務員の働きぶりです。

    自らも被災地域に住み、実際に被災して家族の生命や身体が危険にさらされる中、勤める自治体の職員として災害対応に当たる職員の心身にかかる負担は相当過酷です。被害状況の把握や物資調達の遅れなど、被災された住民への対応が十分に行き届かないことなど、行政として取り組むべきことの不備について、マスコミから批判の目を向けられることもしばしばあり、そういう報道を見るにつけ、限られたマンパワーで昼夜を問わず現場対応している職員の現状にもう少し寄り添っていただきたいと思うことがあります。

    こんな風に感じるのは、私が公務員だから同じ公務員に対して同情の念を抱いているからなんでしょうかね。

    マスコミの公務員報道に思う

    災害対応に限らず、私たち公務員はマスコミから批判の目で取材され、報じられることが往々にしてあります。

    もちろん、不祥事や不手際など公務の信用を失墜させるような事案に厳しい目を向けていただくことはやぶさかでないのですが、過去には消費税増税の緩和策として講じられた低所得者向けの給付金について自治体からの給付開始のスピードを競わせるような報道が行われ、住民や首長からの過剰反応で疲弊する現場もありましたし、コロナ禍でのワクチン接種率についても同じようなことがありました。

    決して怠惰で遅滞しているわけではなく、自治体それぞれに実情があり、その実情に応じたやり方を選択する裁量が与えられているのだということ、また他の自治体と比較されることでその裁量が阻害されたり、現場に必要以上の負荷がかかったりする可能性があることをマスコミの皆さんにもっと知っていただきたいと当時思いました。

    また、財政の世界にいると、地方交付税の交付・不交付や地方債残高など、ひとつの財政事象の動きをめぐって自治体の財政状況が悪化しているかのような評価がなされたり、ふるさと納税のような臨時財源を活用して恒久財源が必要な給食費の無償化に踏み切るといった施策を礼賛歓迎するような報道がなされたりと、マスコミがそのまま住民に誤った価値判断を刷り込んでしまう危険性についても気になることが多々あります。

    財政の世界以外でも、マスコミの皆さんの誤った先入感をもとに報道した結果、市民、国民にそのミスリードが浸透し、その払しょくのために我々公務員の仕事が煩雑になるという事象はきっと公務員なら誰しも経験があることだと思います。

    どうすればマスコミと公務員は対話できる?

    その道のプロとして

    しかしながら、市民が行政を読み解く力、行政リテラシーの向上には、結局のところ、私たちが市民、国民にどう向き合い、彼らに何を知ってほしいのか、理解してほしいのかを私たち公務員自身が考え、行動するしかないというのが私の結論です。

    以前も書いていますが、自治体職員であればまずは自治体運営の「中の人」としてそのイロハを理解しているはずの職員自らが、自治体運営のプロとして自分たちの自治体の財政について、あるいは政策について、市民がわかる言葉で語ることができるようになることが必要なのだと私は思います。
    (参照:我らはまちのエバンジェリスト #1「その道のプロとして」)

    そのために必要なのは、私たちの情報発信力を補うマスコミの力。

    SNS隆盛の時代が到来したとはいえ、マスコミの影響力は依然絶大です。

    マスコミが報じた内容は概ね正しいと受け止められますので、そこで批判されることは大きな痛手となりますが、彼らは時に役所を目の敵にし、あるいは先入感や行き過ぎた報道等でミスリードを引き起こしてしまうこともあります。「取材する前から『報道の切り口』が決まっているのでは?」。こんなやるせなさを感じたことがある自治体職員の方も少なからずいるでしょう。

    あるいは、「市民と私たち行政組織とのコミュニケーションの妨げとなる誤報や公務員バッシングを助長する報道と、その根底にある先入感、誤解、不勉強を改めてほしい」。こう思う公務員諸氏は多いのではないでしょうか。

    市民と行政をつなぐ「対話の架け橋」

    しかしそうはいっても、この状況を「マスコミが悪い」とばかり言っていても解決するはずはなく、結局のところは私たち行政組織がマスコミと「対話」できなければなりません。

    必要なのは、この連載で繰り返し書いていることですが、「対話」の成立に必要となる重要な構成要素である「開く」と「許す」。

    「開く」は、自分の持っている情報や内心を開示すること。
    「許す」は、相手の立場、見解をありのままに受け入れること。

    私たち公務員は、マスコミ批判を述べるだけでなく、私たち自身がきちんとマスコミのことを理解しているのか、理解するために先入観を持たず、否定も断定もしないで相手の思いを聴き、相手の立場、見解をありのままに受け入れることができているか、ということについても少し顧みてみてはどうかと思います。

    少し顧みてみよう

    そのうえで、彼らが何を知っているのか、いつどのような情報を求めるのかを普段の付き合いの中で知っておき、その価値観や行動習性に寄り添いながら情報を開示、提供していくことができるようになる。

    そうすれば、情報の発信だけでなくその前提となるニーズや報道後の反応の把握といった、情報を求める市民の視点、価値観を理解し、そこにアプローチしていく、双方向のコミュニケーションが可能になります。

    私は公務員自身が市民と行政をつなぐ「対話の架け橋」になるべきと言ってきましたが、マスコミはすでに行政と市民との対話をつなぐ重要な架け橋です。

    その価値を最大化できるよう、情報共有と互いの立場の共感に基づく相互理解、双方向のコミュニケーションに努めなければと思います。


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