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我らはまちのエバンジェリスト #26(福岡市 職員・今村 寛)
悲喜こもごもの「人事の季節」に想う

異動・昇任そして残留~すみなすものは こころなりけり

    プロフィール
    今村 寛
    《本連載の著者紹介》
    福岡市 職員
    今村 寛いまむら ひろし
    福岡地区水道企業団 総務部長。1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2022年より現職。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信する「自治体財政よもやま話」(note)を更新中。

    多くの自治体で来年度の内示が出る頃ですね。昇任や異動希望が叶っての転任を喜び、予期せぬ部署への配置に不安と期待に胸膨らませ、異動や昇任への期待がかなわず残留し、あるいは異動を命じられて不平不満を募らせる―。公務員にとって桜が咲き始めるこの季節はなんとも落ち着かない別れと出会いの“悲喜こもごも”に彩られる季節です。今回は公務員の人事異動について。約30年にわたって自治体職員を務めてきた本連載筆者の福岡市職員の今村 寛さん(福岡地区水道企業団 総務部長)と考えてみませんか?

    悲喜こもごもの季節

    人事異動に起因して毎年繰り広げられる“悲喜こもごも”は、文字通り「悲」と「喜」の感情がないまぜになり、その両方が自分や自分の周りで起こることで、役所全体が精神的に不安定な状況に置かれています。

    さらにその不安定さに追い討ちをかけるのが、人事異動が「命令」であることによる説明の不足、納得感のなさ、合意の不備とそこから生じる組織への不平不満、不信です。たとえば以下のような…。

    頑張った人が報われない。
    昇任や希望所属への異動がかなうのは一部の人だけ。
    卓越した能力や熱い情熱で成果を上げても属人的だと揶揄される。

    では、私たち公務員の働きぶりはどうすれば正当に「評価」されるのでしょうか

    あなたの今のお気持ちは「サクラサク」それとも「サクラチル」?

    モヤモヤが募る「公務員の評価」

    私たちは通常、人事評価として「実績」と「能力」を評価されています。

    「実績」の評価というのはわかりやすいもので、仕事の成果が達成すべき到達点に至った者が誉められ、そうでない者は誉められない。

    社会は学校とは違い、みんな異なる仕事を与えられ、それぞれの仕事で達成すべき目標を目指し、その成果を出すのに日々奮闘しています。学校のテストのようにみんなで同じ問題を解いているわけではないのですから、その結果で他人と優劣を競うことができるはずがない。私たち公務員の「実績」評価については、職場や担当する業務、またその職位によって期待される成果が異なり、それを達成できたかという評価の基準も千差万別。与えられた仕事について自分がその求められるレベルの成果を出せたかどうかを競うのは他人ではなく自分自身でしかないのです。

    自分に与えられた仕事を求められるレベルでやり遂げることは職業人として当然のことですし、それができていなければ叱咤激励を受け、期待以上の水準であれば大きな声で誉めてほしい。

    その際に求めるのは、別にお金や表彰、あるいは異動や昇任で有利な配慮をしてもらうことではありません。私が成果を出したことを認め、誉めてほしい。それだけです。

    • 一緒に働いた仲間から「一緒に働けて良かった」と言われること
    • 目の前の市民から「あなたに担当してもらってよかった」と言われること

    仕事で触れ合う多くの人からどれだけ「ありがとう」と感謝の気持ちを示してもらえるかどうかだけがすべてだと思っています。

    人事評価と配置管理は似て非なるもの

    一方、「能力」の評価を受けるというのは、私たち職員ひとりひとりが異なる個性、能力を持つことを前提に、組織において期待する各職位の標準的な能力と比べてどれだけバランスよく備わっているかを比較評価するものです。

    「能力」の評価は、組織の論理で言えばふたつの目的があります。

    ひとつは、個人の能力開発のモチベーションを付与すること。組織の標準と比較しての優劣(他人との比較ではない)を上司から告げられ自らの長所短所を理解することで、自ら長所を伸ばし短所を改めること、すなわち自己の成長促進を期待しての行為とみることができます。

    私たちは、組織に必要な能力を備えることを期待され、その努力と成果を評価されフィードバックを受けることで、より組織に求められる人材になっていくのですが、この能力評価は異動や昇任といった「配置管理」に活用されることが多く、そのことが「評価」に対するモヤモヤを増幅させています。

    「配置管理」は、たとえば次のような観点で行われます。

    • 異動させるか残すか、異動させるならどういうところに行かせたいか?
    • 昇任を推薦すべきかどうか、推薦の理由は?
    • 他の推薦対象者とのバランスは?

    しかし、あえて言わせてもらえば、異動や昇任は人事課が行うパズルの結果。上位の職位や希望する異動先で職責を全うする能力があると上司が評価しても、実際の昇任や異動につながるかどうかはポストの空き状況とポストが求める能力や人物像次第です。

    人事課が昇任や異動の原案を作成する際に職場における本人の能力評価が参考とされるという事実は否めませんが、ポストの数に応じてその適任者とのバランスをとることは組織運営上の「配置管理」でしかなく、それは「評価」ではありません。

    職員の毎年度の能力や実績の評価結果を人事異動や昇任で反映することは不可能であり、その前提に立って、「評価」は配置管理に活用されているがそれは評価の結果のすべてではないと受け止めるべきと私は思います。

    評価は配置管理に活用されるが「人事評価=配置管理」ではない!

    「評価」よりも「やりがい」

    先日、ある自治体の若い職員さんから私自身の役所人生について問われました。今まで30年以上働いてきて、振り返ってみてどこがいちばん「やりがい」があったかという問いです。

    産業廃棄物行政から始まった私の役所人生は、都市計画や会議場整備、地下鉄、水道といったハード部門から福祉、スポーツ、経済振興、教育といったソフト部門まで幅広く渡り歩き、企画、総合調整、財政といった市政運営全般に官房として携わる経験もしました。

    またここ数年は各組織の総務部門の長として組織運営そのものにもどっぷり浸かり、今振り返ってもみてもよくこれだけたくさんの仕事を経験させてもらったものだと感心します。

    そんな中で私が一番「やりがい」を感じたのはどの仕事でしょうか? 実は、常に今いる場所が一番「やりがい」があるのです(笑)

    それはなぜか。実は私にとって「やりがい」とは、「やりたいこと」がやれることではなく「やりたいように」やらせてもらえること。自分の持っているスキル、ノウハウ、知識、人脈など自分の持つあらゆる能力を活用して、自分なりの方法でその場所にある仕事に「やりたいように」取り組めることそのものが私の快楽のツボなのです。

    30年以上この業界にいると、いつかどこかで見たこと、聴いたこと、やってみたことの応用で片付くものがたくさんありますが、その応用具合によっては自分にしか着想できない、自分しか取り組めないものに仕立てることもできます。

    何をするにしても、そこに自分なりのオリジナリティーを加え、あるいは自分なりの要求水準を満たす形でクオリティを上げ、実施することができる。私にとっては、自分がこれまでの経験で集めたパズルのピースをはめていって新しい職場で必要とされる絵を描き上げることが楽しくてしょうがないのです。

    おもしろき こともなきよを おもしろく

    そういう考えに立てば、どんな職場のどんな経験もこれまでの自分の経験を試す腕試しの場であり、また新たな経験を積み、パズルのピースをため込む鍛錬の場でもあるわけで、そこには「成果」「評価」という概念はありません。

    もちろん、期待された成果がでるように効率よく効果的に業務を遂行すべきことは言うまでもありませんが、私自身は短期間で異動してしまい自分が取り組んだことの成果を見届けることができなかった悔しさを何度も味わっていますので、その部分を自分自身のやりがいとすることはありません。

    宮仕えの人生は他律的で理不尽なものです。まして、組織として仕事をしているのに個人として成果を得よう、評価を得ようと思えば思うほど、それが自分ひとりの力では叶わない現実を感じさせられますし、異動や職務分担の変更で希望した職場、仕事内容にならなかったときの目標喪失感はいかんともしがたいものがあります。

    私に「やりがい」について質問してくれた若い職員に私は次のように言いました。

    仕事の対象物や成果そのものに「やりがい」を求めていれば、自分はそれぞれの異動先で失望することになったはず。そうならなかったのは、すべての職場で「自分の能力の最大限活用」と「知識、ノウハウ、人脈の獲得」を喜びとし、それが叶うことを「やりがい」としてきたこと。その結果として、30年経って20近い職場を渡り歩いてきた今が一番無双状態、何をやっても「やりがい」を感じることができていると。

    件の若い職員さんも、現在の場所で与えられた課題が自分自身の成長の糧であり、またそこで積む経験が将来の自分の血肉となるということをイメージして日々の仕事に取り組むだけで、どんな職場でも充実したやりがいを感じることができると説教してしまいました(笑)。

    「置かれた場所で咲きなさい」という言葉、私は嫌いではありませんが、置かれた場所で「置かれたように」咲くことは難しいし、時には辛いことかもしれません。どんな場所であってもそこで「好きなように」咲くことができれば、きっと毎日が楽しいはず。そのためには「好きなように」できる自分を準備しておかなければいけません。

     おもしろき こともなきよを おもしろく
     すみなすものは こころなりけり

    あまりにも有名な高杉晋作の辞世の句。この下の句の意味は「最後は結局気の持ちよう」という精神論ではなく、どうやったらおもしろくできるかを考え、その準備をしっかりしておくことの必要性を謳っているととらえたいと思います。

    私は、こんな心の準備をしていますが、皆さんはいかがですか?

    下関市(山口県)日和山公園にある高杉晋作陶像


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