自治体通信ONLINE
  1. HOME
  2. 自治体職員寄稿
  3. 市民との協働が育むもの
我らはまちのエバンジェリスト #27(福岡市 職員・今村 寛)
市民は「お客様」? それとも「パートナー」?

市民との協働が育むもの

    プロフィール
    今村 寛
    《本連載の著者紹介》
    福岡市 職員
    今村 寛いまむら ひろし
    福岡地区水道企業団 総務部長。1991年福岡市役所入庁。2012年より福岡市職員有志による『「明日晴れるかな」福岡市のこれからを考えるオフサイトミーティング』を主宰し、約9年間で200回以上開催。職場や立場を離れた自由な対話の場づくりを進めている。また、2012年から4年間務めた財政調整課長の経験を元に、地方自治体の財政運営について自治体職員や市民向けに語る「出張財政出前講座」を出講。「ビルド&スクラップ型財政の伝道師」として全国を飛び回る。好きなものは妻とハワイと美味しいもの。2022年より現職。財政担当者としての経験をもとに役所や公務員について情報発信する「自治体財政よもやま話」(note)を更新中。

    「住民と連携して地域の課題を発見し、一緒に解決しよう」。こうした「市民との協働」に取り組む自治体が少しずつ広がっています。今回は、この新しい動きのダイナミズムを極大化し、効果の最大化を図るためにはどんな“対話”が必要かを考えました。まずは自治体職員界隈で最近バズったFacebook投稿のご紹介から―。

    すべての事業を委託します(?)

    「尼崎市では、市が行っているすべての事業について民間の事業者、NPO等からの委託提案を募集しています。」

    令和6年5月30日に投稿されたFacebookでのこの話題が、自治体職員界隈でバズっています。下の囲みは、その抜粋です。

    尼崎市では市が行っているすべての事業について民間の事業者、NPO等からの委託提案を募集しています。
    また現在、市が実施していない事業についても新しい提案をいただくことも可能です。
    こうして市の全事業について民間事業者等からの提案を受け付け、委託化するという取組は全国的にもまだまだ珍しいものだと思います。
    ・現在、市がやっているけど、もっと改善できそう!
    ・こんな取組も市で実施しては?
    そんなアイデアがあればぜひご応募ください。(以下略)

    ※画像は尼崎市 理事・能島裕介さんのFacebookより

    この書きぶりからは、市がやっている事業を全部民間に丸投げするかのような印象を持ちますがそうではありません。

    これは尼崎市が行っている市民提案制度において民間事業者、NPO等からの提案を受ける対象事業を特に定めず、すべての事業領域の提案を受け付けますよ、という意味です。

    ■尼崎市市民提案制度令和6年度提案募集:https://www.city.amagasaki.hyogo.jp/shisei/si_mirai/1010136/index.html

    ■市民提案制度の解説動画(尼崎市 協働推進課のYouTubeチャンネルより)

    この取り組みを見て、皆さんはどうお感じでしょうか。

    市のやっていることを、領域を限らずすべて民間委託の対象とするということにどんな意味があるのか、それは市民の利益になるのかならないのか、自治体側にとってのメリット、デメリットはどこにあるのか、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

    「官から民へ」の大号令

    まず、自治体がやっていることを民間事業者やNPOに委託するということ自体はどの自治体でも幅広く行われていることで、自治体の事務事業は、法令で禁止されていること(例:徴税や行政処分の決定などの公権力の行使等)でなければ、適正な対価を払えば公平公正な選定手続きを経た相手方に委託することができます。

    専門性の高い人材や事業に必要なノウハウ、ネットワークを有する事業者、NPOに委託し、その知見を活用することで、自治体職員が直接事業を実施するよりも効果的、効率的に実施できる場合には、これまでも積極的に民間委託という手法が採られてきたところ。ですが、その背景にはお役所仕事と揶揄される形式や手続きに囚われた非効率な事務、収益性や費用対効果といった経営感覚の欠如した事業運営が国民、市民から批判され、その改善改革のために、「官から民へ」の大号令のもと、行政で行っていることを効率性、効果性の観点からなるべく民間でできることは民間にゆだねようという流れがあります。

    その根底には行政の非効率性への変革意識がありました。

    しかしながら、自治体に対する信頼(裏を返せば民間への不信)から公的サービスの担い手は自治体職員であってほしいという市民からの要請も強く、またすべての領域で民間が優れているわけではないことから、なんでも民間に委ねればいいというものではない、という軌道修正がなされて生まれたのが、公的セクターと民間セクターが互いの持ち味を生かし、得意な分野を分担して受け持ち互いに連携することで、より効果的、効果的な行政運営を行おうとする「官民協働」という概念です。

    協働のパートナーとして

    行政運営や公的サービスの提供を自治体やその職員だけ担うのではなく、より多くの市民、民間事業者と「協働」していこうという動きは、20年ほど前から全国で見られる動きで、契約の形態は委託であってもその内容、仕様、要求水準などの詳細については一方的に発注者である行政の側で決めたものを押し付けるのではなく、官民双方が協議し互いの持ち味を生かす提案などを受けながらケースバイケースでよりよい枠組みを構築していく共同作業になります。

    特に尼崎市では、この官民協働を推進するうえで「市民提案制度」という仕組みをすでに創設し、運用しておられます。

    私も福岡市で、尼崎市と同様の市民提案による共働(福岡市ではこのように表記しています)事業推進の制度創設に関わりましたが、協働のパートナーとして民間事業者だけでなく市民を加えることにどのような意味があるでしょうか。

    市民と協働することの意味

    自治体職員が行っていることを委託などにより民間事業者に任せる場合、一般的には民間企業としての経営感覚や専門性を有する業者の特定の事業領域の知見、ノウハウの活用による事業の効果的、効率的実施を期待しますが、これを「市民との協働」という概念に押し広げた場合、別の概念が現れます。

     それは「当事者としての目線」です。
     
    市民はすべからく行政が提供するサービスのユーザー、お客様、当事者です。ユーザーとしての当事者目線でより良いサービスを想起し、その実現について提言することができるのは行政の外側にいてサービスを受ける立場の市民ならではの優位性でしょう。
     
    しかし一方で、ユーザーとしての当事者目線でやみくもにあれが欲しいこれが欲しいと言ってみたところで、限られたお金とマンパワーではできることに限りがあります。
     
    つまり、「市民との協働」の名のもとに当事者目線を事業運営に取り入れ、きめ細やかなサービスを企画実施するためには、当該事業に協働で参画する市民、事業者がその事業の目的や達成すべき成果の概念、あるいはそのために割くことができる経営資源についてきちんと理解せねばなりません。
     
    市民と行政が「共働」するためには、まず事業に必要な情報や外部環境について「共有」し、その上で何を目指すか、そのために官と民でどう役割分担し連携すべきか、互いの立場や長所短所を知り、同じ方向を目指すパートナーとして認め合う「共感」が不可欠です。
     
    「市民との協働」は、市民にとってみればそのサービスを受ける当事者としての目線を取り入れることによって事業がよりニーズに寄り添ったきめ細やかなものになることが期待できます。一方で自治体側にとっては、単により良い担い手に委ねることでの単に効果的・効率的な事業実施を目指すだけでなく、協働の過程で市民をサービスを提供する側、自治体を運営する側の当事者として取り込み、行政が抱えている課題や制約条件についてもジブンゴトととらえてその解決策を一緒に考え、ともに必要な行動をしてくれるパートナーとしてのご縁を結ぶための取り組みでもあるのです。

    「共働」には「共有」と「共感」が不可欠!

    協働が育むものへの期待

    この取り組みを実際に進めていくには、市民が何らかの提案を行いうるように事業の目的や目指す成果、そして現在の取り組みや課題について、市民と忌憚なく対話し、事業の背景から現状、関係者の思いまで共有できるよう、事業担当課で整理し、明らかにする必要があります。また、この市民共同提案制度を所管する所属において提案する市民・事業者と事業所管課との対話を橋渡しする仲人のような役割を担い、職員・市民双方の協働マインドの醸成など、その環境を整える必要もあります。

    協働で一番大事なのは、何をするか、どうやって課題を解決するかというactionの部分ではなく、何が課題か、どういう状態を目指すのかというpurposeの部分。そこを腹を割って共有できなければ上滑りになってしまいますから、そうなっていないかという点はよくウォッチしていきたいと思います。

    そもそも市民との協働が単に行政サービスの効果的・効率的な実施のみを目指すものではなく、市民が行政運営の当事者=パートナーとして自治体組織・職員とともに考えともに行動していくことができる風土や文化を育てていくことに目的があるのであれば、行政のすべての領域で協働の門戸を開く取り組みも必要になってきます。

    尼崎市の取り組みが、尼崎の市民生活に何をもたらすか、尼崎市の行政運営をどう変化させるのか、それが他の自治体にどう波及していくのか、引き続き注目していきたいと思います。


    いち早く情報をお届け!
    メルマガ登録はこちらから

    『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』(公職研)の表紙カバー

    『自治体の“台所”事情~“財政が厳しい”ってどういうこと?』(ぎょうせい)の表紙カバー

    「自治体財政よもやま話」(note)を更新中

    本サイトの掲載情報については、企業から提供されているコンテンツを忠実に掲載しております。

    提供情報の真実性、合法性、安全性、適切性、有用性について弊社(イシン株式会社)は何ら保証しないことをご了承ください。

    電子印鑑ならGMOサイン 導入自治体数No.1 電子契約で自治体DXを支援します
    自治体通信 事例ライブラリー