【自治体通信Online 寄稿記事】
みなかみ町の大胆インバウンド戦略【第Ⅱ章】#1(みなかみ町 職員・阿部 真行)
いわゆる“水際対策”が大幅緩和されることなどから訪日外国人観光客の急増が予想されており、“インバウンド復活”に備える自治体が多いようです。そうしたなか、コロナ禍においてもさまざまな方法で国際交流を続け、アフターコロナを見据えた取り組みを実践してきた自治体があります。コロナ禍前には、交通アクセスがよくないことを逆手にとった「秘境ブランディング」や地域を巻き込んだ「体験コンテンツ」などで大きな成果を挙げた、みなかみ町
(群馬)です。同町のインバウンド担当者である阿部 真行さんに、他の小規模自治体でも実施できる事業等の解説をしてもらいながら、コロナ禍という“インバウンド氷河期”にどんなタネをまき続け、どのような花が咲き、実をつけるのか、同時進行ドキュメントを連載してもらいます。
大きな成果を挙げていた事業が突然中止!
コロナ禍以前の2019年~2020年初めにかけて、「小さな自治体の大胆インバウンド戦略」を自治体通信Onlineで寄稿連載させていただきました。
(参照:小さな自治体の大胆インバウンド戦略~バックナンバー)
その時は、「前例のない方法で台湾人観光客を年間1万人」「お金をかけずに海外拠点をつくる方法」「国や県ではなく、市町村だからこそできる国際交流」など、小規模自治体であるみなかみ町が取り組んできた事例紹介をさせていただきました。おかげさまで反響も多くいただき、当時みなかみ町から台南市政府へ出向し、国際交流促進を進める立場にいた私も役割を果たせて安心していました。
しかし、その後すぐ新型コロナウイルス感染症が拡大。それまで進めてきた多くの事業があっという間に中止に追い込まれました。人の往来がストップしたため、当然インバウンドは進めることができず、中学生交流やインターンシップ受入などの学生交流や日台事業者さんによる物産商談会も軒並み中止…。
人を動かせなければ…
その頃は台南市政府側の立場として日本の各友好都市と連絡を取りながらの情報収集や、当時よく報道されていた「台湾から日本へマスク等の物資を送る」という業務ばかりしていた記憶があります。
もちろん支援活動は必要ですし、日本と台湾はコロナ禍におけるマスクやワクチンの相互支援の他にも、地震や台風等の災害時にも助け合いながら交流の絆を深めてきた歴史があるので意義があります。
ただ意義ある活動をしていると言っても、私の場合はみなかみ町から派遣されている身なので、何かしら交流成果を出さなければというプレッシャーもありました。コロナがいつまで続くか予想もできなかった当時、人を動かせなければモノと情報を動かそうと考えいろいろ試しましたが、成功もあれば失敗もたくさん…。今回その中からどの自治体でも比較的実践しやすく、且つ、インバウンド復活の布石にもなりそうな事例を紹介したいと思います。
Friendshipbox図書館交流
Friendshipbox図書館交流はコロナ禍以前から台南市が進めていた「経費がかからず、お互いの市民・町民に広く関わってもらえる国際交流」で、人の往来が必要ないのでコロナ禍には完全に実力を発揮した情報発信事業です。
この図書館交流については連載が終わった後の2020年3月頃に同じくこの自治体通信Online上で緊急寄稿として紹介させていただきました。興味ある方はそちらを読んでいただければ幸いです。
(参照:新型コロナに打ち勝つ国際交流「3つの実践」)
ランタン交流・神様交流
台南市内の居酒屋で知り合った消防局第七分隊大隊長との出会いから生まれた企画が「ランタン交流・神様交流」です。台南市は市内至る所に廟(お寺)があり「神様の住む街」とも呼ばれています。人が動けないなら神様に交流してもらい、その後は祭り交流=インバウンド促進に繋げるという内容です。
「消防局と神様がどうやってインバウンドに繋がるんだ?」と当初は台湾側・日本側双方で周囲の理解をあまり得られませんでしたが、友好都市交流事業という位置づけで何とか実施。
3年経った今ではみなかみ町以外に甘楽町、前橋市もランタン交流を実施。群馬県内に広がっているほか、東北地方でもランタン交流が拡大しています。これをどうやって今後のインバウンドに繋げるかは別の機会に紹介させていただきます。
物産交流~マンゴー・パイナップル・日本酒
みなかみ町と台南市の交流事業は2013年6月の「第1回台南市国際マンゴー祭り」から始まり、私の台南生活もここから始まりました。このように、台湾産マンゴーに関してはコロナ前から輸入しており、台湾産パイナップル購入は中国と台湾との貿易関係悪化をキッカケに2021年から実施しています。
これまでフルーツは台湾⇒日本の一方通行でしたが、それだけでなく日本⇒台湾という流れも作りたかったので「群馬の地酒」を台南市で販売。コロナのため「日本に行きたいけど行けない、ならばせめて日本のモノが欲しい」と購買欲が高まっていたタイミングもあり現地デパートで売り上げ記録も作れました。
ただ、みなかみ町には酒蔵がないので輸入したのは高崎市の酒。みなかみ町役場職員として立場上ちょっと苦労しました(汗)。
「モノ」と「タビ」を繋げる企画は多岐に渡りますが、今年2月からJR東日本などの関係者の皆さんと台北で*越境ECでも実験できたので今後の展開を考え中です。
*越境EC:国内から海外へ向けて商品を販売するEC(電子商取引)のこと。
ほかにも「旅行会社の組合、その他ライオンズクラブなど民間団体交流促進のお手伝い」もさせていただきました。これは「誰でもできる」とは断言できませんが、インバウンド復活に効果アリと確信しています。
以上、ご紹介した事業等は、コロナ禍でも実践でき、コロナ規制が緩和された今では問題なく実施できるものばかりです。
中断しても「遮断」はしない!
この文章を書いているうちにコロナが流行り始めた当初、台湾現地の状況を伝えるためWebセミナー等を何度か開催していたことを思い出しました。
その頃台湾では「日本一周」ではなく「日本“上空”一周」ツアーが流行っていると紹介したところ、日本側から「何ですかソレ?」と信じてもらえなかったこともありました。台湾で「疑似出国(海外へ旅行に行けない代わりに、台湾域内で海外旅行気分を味わえるツアーのこと。日本上空一周ツアーもそのひとつ)」という新しい単語が生まれたのも今となっては懐かしいです。
日本も台湾も、コロナ禍による出入国規制などを段階的に緩和・撤廃しています。日本は台湾人にとって人気の旅行先で、コロナ禍以前、総人口約2,400万人の台湾から日本に訪れる観光客数は年間450万人超にも達していました。
コロナ収束で、日本と台湾の間で人の移動を伴う“リアルな交流”が再び盛り上がるのは間違いありません。昨年12月には、みなかみ町の阿部 賢一 町長らが台南市政府の黄 偉哲 市長を表敬し、その気運を盛り上げました。
今回はコロナ禍から仕掛けてきた企画・構想を一気に書きつらねましたが、次回以降、各事例の掘り下げおよび昨年3月に私が帰国以降行ってきた活動を紹介したいと思います。
(続く)
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■阿部 真行(あべ まさゆき)さんのプロフィール
みなかみ町 観光商工課 観光振興係 インバウンド担当 /
台南市政府 対日事務相談顧問
高校講師などを経て、2005年にみなかみ町(群馬)に入庁。2013年6月から台南市政府に出向。台南市政府から「台南市政府対日事務相談顧問」に任命され、日台間のブリッジコーディネーターとしての役割を担う。日台双方の国家資格などを取得し、インバウンドを主とした交流を推進中。
昨年3月に帰国。著書に上毛芸術文化賞を受賞した『台湾・台南そして安平! ~日本公務員の駐在日記~』(上毛新聞社)がある。
- 連絡先
電話: 0278-25-5017 (みなかみ町 観光商工課)