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みなかみ町の大胆インバウンド戦略【第Ⅱ章】#5(みなかみ町 職員・阿部 真行)
低コストでメリット大の「みなかみ町方式」とは?

実践型「深く速い」日台交流の進め方!

    プロフィール
    阿部 真行
    《本連載の著者紹介》
    みなかみ町 職員
    阿部 真行あべ まさゆき
    みなかみ町 観光商工課 観光振興係 インバウンド担当 /台南市政府 対日事務相談顧問。高校講師などを経て、2005年にみなかみ町(群馬)に入庁。2013年6月から台南市政府に出向。台南市政府から「台南市政府対日事務相談顧問」に任命され、日台間のブリッジコーディネーターとしての役割を担う。日台双方の国家資格などを取得し、インバウンドを主とした交流を推進中。2022年3月に帰国。著書に上毛芸術文化賞を受賞した『台湾・台南そして安平! ~日本公務員の駐在日記~』(上毛新聞社)がある。連絡先は電話0278-25-5017 (みなかみ町 観光商工課)。

    観光庁の発表によれば2023年訪日客の旅行消費額は計5兆2923億円で過去最高を記録―。しかし、一部の有名観光地に外国人観光客が集中する一方で、そうではない地方においては実効性のあるインバウンド施策を見出せていない自治体も多いようです。そこで、台湾インバウンドで成果を挙げている、みなかみ町のインバウンド担当者、阿部 真行さんが小規模自治体だからこそできる施策や取り組み等を解説! 今回は低コストでメリット大の「みなかみ町方式」の詳細をお伝えします。

    大盛況だった「台南旅行展」

    「台湾の京都」と言われる台南市で昨冬、コロナ規制緩和後に初めて開催される大型旅行展「大台南国際旅展」が挙行されました。

    主催は台南の旅行会社で組織する「台南市旅行商業同業公會」で、台湾政府の交通部觀光局、台南市政府、台南市議會等が協賛する大規模なもの。場所は台湾高速鉄道・台南駅から歩いて5分の場所にある昨年4月に竣工した大規模複合型コンベンションセンター「大台南会展中心」(ICC TAINAN)です。

    「大台南国際旅展」のサイト(上画像)と大台南会展中心の全景(台湾「経済部国際貿易署」のサイトより)

    温泉地、離島、先住民族の山村など台湾国内の人気が高い観光地のほか、フィリピンなどの海外からも多くの観光局や旅行会社・ホテル等が出展したこの旅行展では、台湾人の海外渡航先として根強い人気が続いている「日本コーナー(日本官方主題館)」が設置され、日本政府観光局、群馬県、みなかみ町、宮城県、仙台市、米沢市、山形市、金沢市、滋賀県、熊本県、栃木県、笠間市、静岡県、山口県、白河市等が参加。観光交流復活を期待する多くの自治体が日本から参加し、「わが街の魅力」をPRしました。

    私の所属する群馬県みなかみ町も群馬県内他自治体と共同で約50名の事業者さんと一緒に10ブースの出展を果たしました(下写真参照)

    ブースは大盛況! 谷川岳の雪解け湧水で育てられたみなかみ町のお米を使った日台交流おむすび(日本飯糰)も販売。みなかみ町の名水で炊き上げた

    集中出展作戦

    「ひとつの自治体で台南だけに10ブースも出すなんてもったいない。その予算を分けて、台北や高雄でも出展すればいいのでは?」と言う意見も以前は内部からも外部からもありましたが、この理由(メリット)についてはコロナ禍前の「自治体通信Online」で寄稿連載させていただきました。
    (参照:小さな自治体の大胆インバウンド戦略 第6回「台湾で『みなかみ町ブーム』を起こしたPRノウハウ」)

    台湾では無名だった人口1万数千人のみなかみ町に台湾から来るお客様が1万泊を越えるまでになった方法はブース集中出展の他にも色々ありますが、その多くが「日本にいては思いつかないコト」であり、これも全て「現地の声を直接聞ける環境にあったから」実現できたと思っています。

    阿部さんはみなかみ町から台南市政府に出向、現地の声を聞きながらインバウンド開発に取り組んだ。上写真は台南市政府建物、下画像は出向していた当時の台南市政府の同僚たち(前列、左端が阿部さん)

    低コストでメリット大の「みなかみ町方式」

    他の自治体担当者の方から
    「そもそも群馬県みなかみ町はどうやって台湾との交流を始められたのか?」
    「どうして何年間も台湾にいられたのか?」
    という質問をよく受けます。
     
    また、みなかみ町は台南市と2013年から交流を始めたことによってインバウンドをはじめ、物産交流、学生交流、文化交流等々さまざまな分野で成果を出すことができ、おかげさまで私、阿部は「『地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2023」及び「人材輩出賞」を受賞することができました。 
     
    そこで今回はみなかみ町が台湾事業を始めるキッカケとなった「20万円の予算で職員を5か月間調査派遣」した方法を紹介したいと思います。5か月間という期間設定は2013年6月台南市国際マンゴー祭りから10月台南市温泉祭りまでの出張だったからです。

    ①台南市政府内のデスクを間借し、事務所設立費ゼロ円

    通常、自治体が海外拠点を設立するには不動産契約や現地スタッフ雇用などの関係で最低でも数年単位での事業計画及び年間1000万円を軽く越える予算措置が必要になります。みなかみ町方式の場合、この部分の経費がゼロ円でした。

    ②職員滞在拠点をホテルやアパートではなく、学生寮にした

    通常、出張の宿泊先はホテルになると思います。しかし、数か月間ホテル泊となると経費が多く必要です。またアパートを借りるにしても短期間すぎたり保証金の問題も出てきます。そこで台南市内にある成功大学学生寮に住むことにしました。寮費は月5000元(当時のレートで約1万5,000円)だったので5か月間約7万5,000円で済みました。

    ③飛行機代を節約するために1回の滞在期間を長くした

    5日間の出張でも3週間の出張でも1回の往復飛行機代は同じ。それなら予算を節約するために出来るだけ長くいた方が効率がよい、という理由から5か月間で1回だけの往復チケットを約10万円で購入。実際この5か月の間は1度も日本に戻りませんでした。

    以上のように、非常にシンプルな方法且つ低予算で実現可能です。メリットは大きく3つ+1つ。

    1. お金(通常の事務所設立費と比較すればその差は歴然)
    2. 人間関係構築(拠点が台湾現地市政府内なので周りは全て台湾公務員。多くの分野での人間関係構築をする環境づくりが可能) 
    3. 2.で述べた環境のため情報収集及び発信が非常に容易 


    この3つだけでも物凄いメリットだと思いますが、プラスで強調したいメリットは「まずやってみる」が可能な点です。

    オードリー・タン氏も「この方式が有効」と評価!

    前述したように、通常海外拠点を作ろうと考えると予算だけでなく、企画のための時間も多く費やします。ところが「みなかみ町方式」だと1週間でも3か月でも試験的に始める事が可能です。私のように最初5か月で始め、気づいたら9年間というケースは稀ですが、これに近い動きは十分可能です。

    人間関係も構築しやすく日台交流促進にも非常に効率的で、この点を台湾デジタル担当大臣のオードリー・タン(唐鳳)さんからも「台湾と日本の自治体交流を速く深く進めるにはこの方式が有効」とまで言ってもらったほどです。

    また余談ですが、前述した「地方公務員アワード2023」で日本に評価されただけでなく、台湾政府からも「日台交流に特殊貢献した外国人」枠で特別永住ビザをいただくカタチで評価していただき本当に感謝しております。

    阿部さんの「地方公務員アワード2023」受賞は地元紙も大きく報じた。
    丸写真は「地方公務員アワード2023」授賞式の模様。左が阿部さん、右は阿部賢一・みなかみ町長

    台湾との交流を望んでいる自治体は多いですが、そのうち多くの自治体が「どうやって進めたらよいかわからない」状態とも見受けられます。通常のお役所発想では思いつかない方法かも知れませんが、是非このみなかみ町方式を参考にしてもらえれば幸いです。


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