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自治体DXを本気で考えている職員さんに読んでほしい話。#7
「郵便料金値上げ」の衝撃と自治体DX

今年を「デジタル通知元年」にしなければならないこれだけの理由

    プロフィール
    加藤 俊介
    《本連載の著者紹介》
    xID(クロスアイディ)株式会社 公共事業部 部長/元静岡県庁 職員
    加藤 俊介かとう しゅんすけ
    公共政策学修士。静岡県庁職員として実務経験後、デロイトトーマツにて自治体向けコンサルティングに多数従事。自治体マネジメントに関わる分野を専門とし、計画策定、行政改革、BPR等に加えシェアリングエコノミーなど新領域開拓も経験。xID参加後は、官民共創推進室長として、自治体向け戦略策定、官民を跨ぐ新規事業開発を担当。現在は自治体郵送業務の課題を解決するデジタル郵便サービス“SmartPOST”を推進。

    「官と民」両方の立場から公共に携わってきた筆者が自治体DXの現在地を明らかにし、未来を展望する本連載。今回は郵便料金値上げと自治体DXについて。このほど明らかになった郵便料金の値上げは多くの通知を郵送に頼っている自治体にとって行政コスト増に直結します…。しかし、抜本的な対応となるだけではなく、住民サービス向上等にもなる自治体DX施策へつなげる“奇貨”にすることも可能です!

    郵便料金値上げは今後も継続?

    郵便料金が10月から値上げになることが発表されました。利用数の減少や物流コストの上昇により郵便事業が赤字となっており、その解消が目的です。定型郵便物の値上げは30年振りとなります。

    下に示した郵便事業の収支見通しについての総務省の資料をご覧ください。今回値上げをしなかった場合(緑の実線)、4年後の2028年度は3,439億円の赤字となります。値上げをすることによって、2025年度に黒字に転換するものの(紫の破線)、2026年度からは再び赤字に転じ2028年度には1,232億円の赤字となる見込みです。今回はおよそ30%の値上げとなりますが、郵便事業の赤字は解消されず今後もさらなる値上げになることが想定されます。

    総務省の報道発表資料「25g以下の定形郵便物等の上限料金の改定について」より

    この郵便料金の値上げは自治体にとって、大きなインパクトがあります。デジタルが日常生活にも広がり、個人間では郵便を使うことが少なくなった現在でも、自治体が個別住民とつながる主要チャネルは未だ郵便であり、多くの郵便物が自治体から住民へ送付されています。

    我々の調査では、およそ13万人前後の人口規模の自治体で年間1億円が郵送費に支出されています。30%値上げで、およそ3,000万円の増加が毎年続く計算になります。今回郵便料金の値上げにより、各自治体の負担が増えることになりますが、まったく付加価値が生まれず、自治体、ひいては住民にとっては継続的なコストになることが課題です。

    この機会に郵便の課題に向き合い、抜本的な対応をすることが必要です。その解決策としてデジタル通知は重要であり、今年がデジタル通知「元年」になると予想します。

    郵送の課題は郵便料金だけではない

    郵送にかかるコストは郵便料金だけではありません。通知物を印刷し、紙を折って、購入した封筒に入れる人件費。あるいは、事業者に作業を委託する費用があります。

    これらの作業量は大きく、1日では終わらないため、当初送付を予定していた住民と作業完了後に送付する住民が異動(転出や死亡など)により、送付先がなくなることに対応する「引き抜き作業」なる業務も発生しています。

    また、簡易書留などを利用しない場合、本当に住民に通知が届いたのか、もっと言えば開封されたのかは確認する術がなく、再度のお知らせや、住民が通知を見ていないことによる機会損失、問合せ対応もコストとなります。

    そもそも、郵便受けはチラシを含む様々なものであふれ、重要なお知らせが見逃されやすい環境にあります。ご自宅の郵便受けを開けると宅配ピザやフィットネス勧誘のチラシなど様々なものであふれているのではないでしょうか。

    さらに、スマホに慣れ親しんだ世代は、郵便受けを見る頻度も減っているように思います。今後、郵便受けが家庭の固定電話機のように使う頻度や重要性が下がっていくと、即時性が求められたり、重要な通知物の送り先として利用が難しくなる可能性があります。

    見過ごされがちな通知の課題

    書留などを選択しなくても郵便は「送った」ことを担保してくれるように思えます。しかし、通知が本当に住民の手元に「届いた」のか、内容が「読まれた」のか、伝えたいことが「理解された」のか、この大事な点は一切担保されていません。

    また例えば、特定検診の勧奨通知を郵便で送った場合、見た人と見ていない人にどれだけの差があったのか、因果関係を分析し、次の取組につなげることもできません。アナログだとデータが取得できないため自治体で重視されているEBPM(エビデンスに基づく政策立案)が実行できないのです。

    それでも全面的に郵送を続けるべきか…

    見過ごされがちな課題として、自治体から住民への通知は現状で十分なのかということは留意すべきでしょう。独自のアンケート調査では「行政からの通知物を年間で1度も受け取らない」と回答するケースが一定ありました。

    これから郵便料金が上がると、通知を減らし郵送コストを下げようという流れが強くなると予想されます。しかし、現状でさえも郵送コストがかかるがために、住民に伝えられていないこと、お知らせできていないことはないでしょうか。住民は税金の使われ方をどれだけ知っているのか、自身に関係のある施策・事業のことを知っているのか。単に知らないがために利用されていない事業・サービスがあるのではないでしょうか。

    “脱郵便”を達成したデンマーク政府

    郵便料金の値上げのインパクトが大きいからこそ、アナログ郵便の改善だけを意識すると郵便料金は抑制したが、肝心な情報提供が行き届かなくなることが起こり得ます。

    国連経済社会局(UNDESA)による2022年の「世界電子政府ランキング」(2年毎に発表)で前回調査に引き続き1位となったデンマークでは、国民の94%がデジタルポストを利用しています。政府や自治体からの情報はすべてデジタルポストを通じて送られ、書類の郵送は原則廃止となっています。

    • ※デンマークのデジタルポストの事例についてはこちらの記事をご覧ください。


    日本政府も重点計画の中でプッシュ通知の抜本的拡大に触れています。この機会に、郵便の改善だけでなく、デジタル通知による付加価値や利便性向上を考えていくべきだと思います。

    • 次回はデジタル通知の付加価値と導入の留意点、そして制度の現状に触れます。

    (続く)


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