《今回の「自著書評」の著者紹介》
元 札幌市職員/札幌学院大学 非常勤講師
吉田 博よしだ ひろし
札幌学院大学非常勤講師、一般社団法人札幌経済交流・留学生支援機構理事長、総務省地方公共団体経営・財務マネジメント強化事業アドバイザー、北海道自治体学会代表運営委員、札幌地方自治法研究会代表、札幌農業と歩む会事務局長。1956年生まれ。北海道大学法学部卒。元札幌市職員(オンブズマン事務局、区総務企画課などを歴任)。本書のほか『50のポイントでわかる 自治体職員 はじめての予算要求』(学陽書房)、『自治体 予算要求の実務 実践から新たな仕組みづくりまで』(学陽書房)『自治体事業 考え方・つくり方』(学陽書房、編著)『こんな近くに! 札幌農業』(共同文化社、共同執筆)などの著書がある。
深刻化する自治体の“カスハラ”(カスタマーハラスメント)―。対策に乗り出す自治体が増えている一方で、民間企業と同じようなカスハラ対策は自治体では実施しにくいとされています。そこでご紹介したいのが、自治体にフォーカスしたカスハラ対応等を網羅した本書『公務員のカスハラ対応術~窓口業務・クレーム・カスタマーハラスメント対策の基本』(学陽書房)。2019年に刊行された既刊本で、いままた自治体関係者から注目されています。同書の編著者である元札幌市役所職員で札幌学院大学 非常勤講師の吉田 博さんが本書の概要、活用方法などをお伝えします。
カスハラ増加の背景
役所の窓口。公務員は悩みます。
「なぜ、あの人はあんな激しい怒りをぶつけてくるのだろう」
「私は、ちゃんと説明しているのに、なぜ、わかってくれないだろう」
公務員にとって、理不尽と思える場面が増えています。やっと、カスタマーハラスメントが大きな社会問題としてクローズアップされてきました。
人口減少社会の中で、公務員の定数も削減される一方、社会の成熟化が進み、生活で我慢することが少なくなり、少しでも不満に思うことは、他への非難に向かう傾向が強まっているようです。また、インターネットやSNS によって、人は自分の選好する情報によるアクセスを強め、自分で考えていることが正しい、と強く思い込む人が増える傾向にあります。
こうなると、「公務員は楽をしている」「行政は何も考えていない」といった、ステレオタイプのレッテル貼りなども含めて、窓口に苦情・苦言も多く寄せられるようになります。
あらゆるケースに対応できる
公務員の業務の多くは、人と関わる仕事ですが、相手の人たちが、いつも合理的で冷静な行動をするとは限りません。これまで、現場での対応や対策が、様々な感情や行動をすることがある人間の特性といったものが軽視され、表面的なテクニックによって、かえって混乱するケースが多くあったように思います。
また、役所の現場では、典型的なクレーマーもいますが、普通の市民が、あなたの隣人が、激しい苦情を言ってきているのであり、特別な人たちという括りでは決して十分な対応ができないのです。
すなわち、どんな人でも厳しい要求や苦情を言う可能性のある時代となってきているのです。
そこで、人間の行動原理、心理学や脳科学などの知見も踏まえて、カスタマーハラスメントの対応についての基本と実践の方法をまとめたのが本書『公務員のカスハラ対応術~窓口業務・クレーム・カスタマーハラスメント対策の基本』(学陽書房)です。
本 書 の 目 次 
- 第1章 カスタマーハラスメント:①疲弊する公務員 ②カスタマーハラスメント ③苦情 ④敵意と悪意について
- 第2章 対応のステップ: ①段階的に進める ②対応のステップ
- 第3章 場の主導権を握る:①準備を怠るな ②やり取りは最初が肝心 ③相手に主導権を渡すな ④威圧的な行動への対抗 ⑤守りを固める ⑥引き継ぐ ⑦悪意を持つ者への対応
- 第4章 相手との関係を築く:①相手の気持ちを鎮める ②相手を知れば百戦危うからず ③共感
- 第5章 本題に焦点をあてる:①本題に焦点 ②小さな合意を試みる
- 第6章 対応のエンディング:①解決の技術 ②選択してもらう ③力になれる証を示す ④最後の締め
- 第7章 職場の環境と管理者の役割 :①職場の環境 ②管理・監督者の役割
- 第8章 場面別の対応:①同伴者への対応 ②相談、援助 ③訪問 ④行政処分 ⑤電話 ⑥Eメール、ソーシャルメディア ⑦説明会など ⑧被災地の住民説明 ⑨ワークショップ
- 終章
執筆したのは、直接市民の相談などの窓口経験も豊富な元公務員である私と、精神科医で産業医として長年公務員の心身の健康をみてきた現職の公務員との2人です。それぞれの専門性に基づき実際に体験してきた事例などを取り上げながら、あらゆるケースに対応できる基本的な技術と応用技術が身に着けられるようにまとめ上げました。
ポイントをわかりやすく解説
本書では、クレーム対応には
- Step1 場の主導権を握る
- Step2 相手との関係を築く
- Step3 本題に焦点をあてる
- Step4 対応のエンディング
といった4ステップがあることを明らかにして、それぞれに重要なポイントを解説しています。
また、キーワードを示してポイントをわかりやすく説明しています。その一部を紹介します。
Sample①~「釣り餌」に注意
人は、感情が乱れてしまうと、落ち着いて考えることができなくなります。それは表情、そして声に現れます。
カスタマーハラスメントには、感情を乱す罠が様々な形で仕組まれるので、注意が必要です。釣り餌とは、職員に対して発せられる攻撃であり、落ち着きを失わせるトラップ(罠)です。職員が感情的に応答するように仕組まれた言語的、非言語的行動であり、非難、侮辱、脅迫です。条件反射的に防御的反応を行ったり、正面から受けて反撃してしまうと、相手に主導権を握られてしまいます。
Sample②~「困りごとの領収書」の発行
本人にとっては切実な困りごとかもしれませんが、堂々巡りの話であったり、行政の業務に直接関わりのないことを、長々と話される場合があります。しかし、職員の「早く切り上げたい」という意識が態度に表れてしまうと、「市民の話を聞かないのか」などと相手に攻撃の隙を与え、こじらせる要因にもなります。
このように、延々と話しを続けるのは、市民が満足していないからです。話は、ほぼ15分で一巡すると考えてよいでしょう。
「迂遠な話の一巡目」で、早々と共感の言葉をたっぷりと伝えるのです。これは、「困りごとの領収書」を「発行」するということです。人の感情状態と事情をわかってあげることは、敵意を鎮めるプロセスとして重要です。
良好な職場づくりのために
また、事例を数多く取り上げており、解決の方法やポイントを解説している実践の書となっています。たとえば、このような事例です。
生活に困っている住民から、新たな支援を要望されている。
職員「それは今の制度ではできることにはなっておりません」
住民「どうしてできないんだ、ここに困っている人間がいるんだ!」
職員「そう言われても」
住民「あんたでは話にならない、責任者を出せ」
仕方なく課長席に向かった職員は、「できないことをやれ、と言い続けています。責任者ということで、課長にお願いをします」と引き継ぐ。
課長「お話はお聞きましたが、そのような制度はなく、できません」
とにべもなく断り、火に油を注ぐような結果になってしまった。
このような対応は、何が問題なのでしょうか。この改善例については、ぜひ本書をお読みください。
さらに、電話での対応や訪問、説明会のときなど様々なシチュエーション毎に解説をしています。
これらに加えて、常に意識をしておきたいのが、言葉の選択です。本書には、避けるべき対立的な言葉と使うべき協調的な言葉の表が掲載されています。その一部も紹介しましょう(下図参照)。
本書を活用して、住民との良好なコミュニケーションをとることで、職員が心身ともに健康で働ける良好な職場づくりを進めていただきたいと思います。
◎ お知らせ ◎
筆者らはこのたび「自治体カスタマーハラスメント研究会」を立ち上げました。この研究会では、公務員に関わるカスタマーハラメントをなくし、良好な職場環境と適切な行政サービスが提供される自治体を増やしていくことを目指し、クレーム・苦情の本質を理解し、また、組織、職員の対応能力の向上のための様々な支援を行っていきます。
本研究会主催の、「自治体のカスタマーハラスメント対策」セミナーを下記のとおり開催します。本書の講師陣とカスタマーサービスコンサルタントが担当します。自治体職員なら、どなたでも参加できます。ぜひ、皆さんご参加ください。
本サイトの掲載情報については、企業から提供されているコンテンツを忠実に掲載しております。
提供情報の真実性、合法性、安全性、適切性、有用性について弊社(イシン株式会社)は何ら保証しないことをご了承ください。