全国初の「シビックプライド推進部」
シビックプライド(Civic Pride)の推進に積極的に取り組んでいる自治体に相模原市では2020年4月1日の令和2年度から「シビックプライド推進部」を設置した。シビックプライドについて、部レベルでの担当を設置したのは全国初である。さらに「シビックプライド推進条例」(仮称)の制定に取り組んでいる。制定されればこれも全国初になる。
相模原市の特徴を言及すると、「SDGs(持続可能な開発目標)先進度調査」において、全国総合第6位(首都圏では第1位)となっている(日本経済新聞社産業地域研究所による全国815市区を対象にした結果。回答は658市区)。同年4月1日には同市は「SDGs推進室」を創設し、より強くSDGsを推進している。
シビックプライドもSDGsも本村賢太郎・相模原市長の公約である。そこで相模原市が取り組むシビックプライドとSDGsについて、牧瀬稔ゼミナールとして、本村市長にインタビューを実施した。その内容は本連載の第6~7回に掲載する。その前に、今回から第5回まではシビックプライドとSDGsに関することを記したい。まず、シビックプライドを対象に検討する。
「郷土愛」との違い
シビックプライドとは「都市に対する市民の誇り」という概念で使われることが多い。
日本の「郷土愛」といった言葉と似ているが、単に地域に対する愛着を示すだけではない。「シビック(市民の/都市の)」には権利と義務を持って活動する主体としての市民性という意味がある。
つまりシビックプライドには、自分自身が関わって地域を良くしていこうとする、当事者意識に基づく自負心を指す(読売広告社都市生活研究局著・伊藤香織他監修2008「シビックプライド―都市のコミュニケーションをデザインする」宣伝会議より)。
近年、自治体はシビックプライドに注目している。その歴史は古い。シビックプライドという言葉は、イギリスの産業革命後に栄えた都市において、すでに使われていたそうだ。
当時は20~30年の間に人口が2倍になるような急激な成長が起きていた。多くの都市が勃興する中で、都市間競争が激しくなり、市民自らのアイデンティとして、シビックプライドという概念が大事にされるようになったと言われている 。
なお、情報提供の意味で言及しておくと、あまり浸透していないが「地域プライド」という概念もある。地域プライドは、2005年に国土交通省と文部科学省、文化庁が共同でまとめた「地域プライド創発による地域づくりのあり方に関する調査」に記されている。同報告書で地域プライドを「数ある地域の歴史的事象の中で、地域の人々によって受け継ぎ、守り育てられてきた『地域固有の精神文化』」と定義している。
高まる一般認知度
前述したように「シビックプライド」という言葉は、海外では古くから使われていた。日本において、シビックプライドはどのような歴史をたどってきたのだろうか。特に、マスコミはシビックプライドをどのように捉えてきたのだろうか。
下のグラフは、1年間において、朝日、毎日、読売、産経の各全国紙に「シビックプライド」という言葉(記事)が登場した推移である。
同グラフから理解できるとおり、2008年から使われ始めた歴史の浅い概念である。今日、自治体には「シビックプライド」という言葉が浸透しつつある。しかし、一般的には理解されない言葉である可能性が強い。その意味では、現時点において、シビックプライドは市民権を得ていないと考えられる。ただし、過去と比較すると、近年はシビックプライドの記事が多くなりつつある。
同グラフのとおり、2008年が5回、2009年は6回の記事がある。これらの記事はすべて「今治シビックプライドセンター」(ICPC)の活動を伝えている。組織名に「シビックプライド」がついているため、記事としてカウントされている。2007年度に策定された今治市(愛媛)の「みなと再生構想」において、今治港を起点に中心市街地の活性化に取り組む、市民・行政・民間企業などの協働組織として「今治シビックプライドセンター」が設立された。同センターは2015年には、愛媛県からNPO法人としての認証を取得している。
今治シビックプライドセンター関連以外で、シビックプライドに関する記事は2010年10月13日の毎日新聞(地方版)がある。見出しは「しこく編集学校:企業、地域の魅力発信へ ウェブや求人広告学ぶ 高松で開講」となっている。
同記事は「企業や地域がその魅力を再認識し、発信する力をつけるため、四国経済産業局が『しこく編集学校』を高松市内で開講した。中小企業などから約90人が参加し、企業ウェブサイトや求人広告のポイントを学んだ。同局によると、EU諸国では地域活性化の原動力として『シビックプライド(住民や働く人の都市への誇りや自負)』が提唱されており、それを根づかせ、四国ならではの産業や街づくりを支援するのが目的という」とある。
この記事の中で、「シビックプライド」が見受けられる。そして近年では、シビックプライドの記事が増加しつつある。
「シティプロモーション」との関連性
近年では、シティプロモーションに関連して、シビックプライドに注目する自治体が増えている。羽村市(東京)の「羽村市シティプロモーション基本方針」には「若い子育て世帯の定住人口の増加につなげていくため、『ブランド化の推進』『戦略的・継続的な情報発信』『シビックプライドの醸成』の3つを、各施策に取り入れ推進していく」と明記している。
那須塩原市(栃木)の「那須塩原市シティプロモーション指針」にも、シビックプライドの言及がある。同指針は「シティプロモーションを推進するためには、『市民』が住んでいるまちに対して『誇り』や『愛着』をもって『推奨』すること、自分もこのまちの一員であるという認識をもって地域活動などに参画する『シビックプライド』の醸成が重要であると考えます」と明記している。
また、シビックプライドの効果を言及する自治体も少なくない。足利市(栃木)の「足利シティプロモーション基本方針」によると、市民のシビックプライドの意識が高まれば、市外への転出も少なくなり、来訪者の中から定住を希望する人も出てくると指摘している。
なお、同市におけるシビックプライドは「個人個人がまちに抱く誇りや愛着のこと」と定義している。そして「市民の一人ひとりがまちを構成する一員であるという当事者意識を持って、自発的にまちづくりに参加することを大切にする考え方」と捉えている。
習志野市(千葉)の「習志野市シティセールスコンセプトBOOK」には「積極的な『住みやすい!』をさらに増加していくために、『利便性+α』のαの要素が必要です。それが習志野ブランドであり、シビックプライドです」と明記している。全体的に定住人口の維持のためにはシビックプライドが重要と言う趣旨でまとめられている。
伊賀市(三重県)の「伊賀市シティプロモーション指針」の中では、シビックプライドを「伊賀市民であること、伊賀出身であることを誇りに思うこと」と「伊賀がより良い地域になるために主体的に関わる意思を持つこと」と定義している。そして同指針では、シビックプライドの効果として、定住・Uターン人口の増加、参画意識の向上、市民による情報発信の増加と言及している。
以上のように、今日ではシビックプライドがシティプロモーションの文脈で語られる傾向が強まっている。この傾向は、より強くなっていくと考えられる。時代は、外向きのシティプロモーションから、内向きのシティプロモーションへと変化しつつある。そして、内向きのシティプロモーションの一手段がシビックプライドと捉えられる。
なお、シビックプライドに関心を持った読者は、筆者が株式会社読売広告社とまとめた「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(2019年、東京法令出版)を参考にしてくだされば幸いである(下写真参照)。同書は政府刊行物等普及強化連絡懇談会第19回本づくり大賞優秀賞を受賞している。
今回は情報提供の意味でシビックプライドの現状等を紹介した。次回もシビックプライドの経緯や筆者の考える利点を言及したい。
(「シビックプライドが創る『活動人口』という“新しい未来”」に続く)
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牧瀬 稔(まきせ みのる)さんのプロフィール
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク、横須賀市都市政策研究所(横須賀市役所)、公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体)、一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て、2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在、社会情報大学院大学特任教授、東京大学高齢社会研究機構客員研究員、沖縄大学地域研究所特別研究員等を兼ねる。
北上市、中野市、日光市、戸田市、春日部市、東大和市、新宿区、東大阪市、西条市などの政策アドバイザー、厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長)、相模原市緑区区民会議委員(会長)、厚生労働省「地域包括マッチング事業」委員会委員、スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員などを歴任。
「シティプロモーションとシビックプライド事業の実践」(東京法令出版)、「共感される政策をデザインする」(同)、「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など、自治体関連の著書多数。
<連絡先>
牧瀬稔研究室 https://makise.biz/