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社会課題を解決する新しい政策「スポーツ×自治体」#9(伊藤 遼平)
「シャレン!×自治体」が地域に提供する新しい価値

山口市で実現する「Jリーグ×探究型修学旅行」《後編》

    プロフィール
    伊藤 遼平
    《本連載の著者紹介》
    伊藤 遼平いとう りょうへい
    1991年生まれ。2014年FC東京(東京フットボールクラブ株式会社)へ就職。同クラブバレーボールチームに所属。2017~23年宮代町役場(埼玉県)入庁。子育て支援課で、子育て支援センター・児童館の担当となり、地域の親子イベントにプロスポーツチームや選手と連携した「スポーツ×社会課題解決」型事業を多数企画。「地方公務員が本当にすごい! と思う地方公務員アワード2021」受賞。24年12月からは、B.LEAGUE(男子プロバスケットボールリーグ)で、全国の自治体と連携した“まちづくり事業”から「スポーツ×地方創生」を目指す。

    名所旧跡等がない地方でも「スポーツ×自治体」の組み合わせで修学旅行の誘致ができ、関係人口の創出等につなげることができる―。山口県山口市で始まった「探究型修学旅行プロジェクト」という新しい取り組みにかかわっている関係者のみなさんをゲストにお招きした対談の後編をお届けします。(前編はコチラ)

    対談ゲストのみなさん

    プロフィール
    田中 新治
    山口市
    湯田温泉パーク整備推進室
    田中 新治たなか しんじ
    山口県山口市出身。大学卒業後、1999年に山口市役所に入庁。入庁後、税務や公民館、地域づくりなどの部署を経て、現在、湯田温泉に建築中の湯田温泉パークの整備事業に従事して5年目となる。湯田温泉パーク開館前から大学生等の若者を始め幅広い世代の市民や企業など、様々なステークホルダーを巻き込みながら、湯田温泉の賑わいの創出に向けて、日々奔走中。庁外では、高校生を対象に地域課題解決に向けた実践プロジェクト「やまぐちトップランナープロジェクト」の企画・開催をしている。
    プロフィール
    内山 遼祐
    株式会社レノファ山口
    運営部長
    内山 遼祐うちやま りょうすけ
    山口県周南市出身。高校卒業後、地元企業に就職した後に、サッカー業界への転職を目指して、JAPANサッカーカレッジに入学。インターンシップを経て、当時地域リーグに所属していたレノファ山口FCに入社。入社後、地域リーグ、JFL、Jリーグへの昇格を経験し、現在11年目。主な業務は、ホームゲームの企画・運営、社会連携。
    プロフィール
    金井 隆行
    株式会社TOKYO EDUCATION LAB
    代表取締役
    金井 隆行かない たかゆき
    1983年大阪府生まれ。2007年大手旅行会社入社。都内私立学校など教育旅行営業を担当、個人営業成績をはじめ数多くのタイトルを獲得する。本社異動の後、SDGs推進 プロジェクトリーダーやコロナ禍ではリモート修学旅行の開発などの新しいサービスやSDGsを取り入れた教育プログラムの新規開発を行う。2021年に株式会社TOKYOEDUCATION LAB創業。 学習指導要領改訂により「SDGs」「探究」「アントレプレナーシップ」をテーマに全国の学校に出前授業や探究型の修学旅行プロデュースを通じて地域創生を体現している。

    レノファ山口FCが地域連携に携わる理由

    伊藤(以下、I):現在の業務紹介と併せて、今回の取組にレノファ山口FCが社会連携活動「シャレン!」の一環として、この活動に携わる理由を教えてください。

    内山:シャレン!活動において大切だと思っていることは、「クラブを使ってもらう」ことだと思っています。「Jリーグのクラブを使ってもらう」ことで、行政や企業などが連携して、地域の課題を解決しながら地域を活性化させていくことが重要だと認識しています。クラブが前に出て旗振り役をするのではなく、使われる側として、「地域を繋ぐハブ」になり、様々な地域活動を促進するきっかけになるという役割がとても重要です。

    なので、今回の山口市さんとの取り組みは、まさにクラブが大切だと考えるシャレン!活動のあるべき姿だと考えています。

    レノファ山口FC
    山口県全19市町をホームタウンとするJリーグに加盟するプロサッカーチーム。2024年の所属ディビジョンはJ2リーグ。「レノファ」は、英語の「renovation(維新)」の頭文字「レノ」と「fight(戦う)」や「fine(元気)」の「ファ」を合わせて作られた造語。2024チームスローガンは「総力 想×爽×走」。

    「レノファ山口FC」のサイトトップページ

    Jクラブスタッフから学ぶ事前学習《キャリア教育》

    I:事前学習で、内山さんが生徒たちの前でお話することもあると伺っております。「Jクラブスタッフ」の声を直接聞くことなんて、滅多にない貴重な機会ですよね。私もスポーツ校(埼玉栄高校)に通っていた学生時代を思うと、本当にスポーツ学科の生徒さんが羨ましいです。スポーツビジネス視点からどんなメッセージを伝えようと考えていますか?

    内山:まずは、レノファ山口FCは、「サッカーだけ」をやっているのではないということ。地域の中で、どのような想いで活動しているのかをお伝えできればと思います。

    「選手」を職業として、生計をたてながら食べていける方は圧倒的に少ないと思います。私自身も、プロになれたらいいなと思いながらも、その目標は叶わず社会に出なければなりませんでした。スポーツとの関わりが無くなりしんどい思いもする中で、今のようなクラブスタッフという職業を知ってから、人生が変わったと思っています。

    プロスポーツ選手だけではないスポーツへの多様な関わり方として、クラブスタッフやこの事業に関わる皆さんなど、それぞれの立場からスポーツに関われるということ。スポーツチームの使い方として、数々の連携方法があることを、少しでも生徒の皆さんに知っていただくことで、今後の進路を選ぶ際の役に立ちたいです。

    実際の事前学習にて登壇する内山さん

    私以外に登壇するパートナー企業様の多くも、東京に本社がありながら山口に事業所がある企業が非常に多いので、東京の生徒さんたちと交流できることで自分たちの企業活動や想いを知っていただくっていうことを、すごく喜んでいただいています。本当に地域にとってもクラブにとっても企業にとってもいい取り組みだなと感じています。

    全国のスポーツクラブが旅の目的に?

    I:この取り組みが非常に素晴らしいと感じる点は、歴史的建造物が有るか無いかが「観光地」になるのではなく、プロスポーツクラブがある自治体のすべてが観光地として選ばれる可能性を秘めていることが再認識できることです。

    そして、このプログラムであれば、サッカー以外の競技種目を選ばずに実現でき、プロスポーツチームが地域に在ることで、自治体のみならず、クラブに携わる人々までも輝く存在になっていくと感じています。この「スポーツ×修学旅行」の可能性について、それぞれの立場からのご意見をお聞かせください。

    田中:修学旅行の行先には、どの自治体も成り得ると思うので、どんどん他の自治体でも取り入れた方がいいと思います。今回の取組に近いことができるのであれば、地方の自治体でも積極的に高校などへPRしていった方がいいと思います。

    このような取り組みは、関係人口作りに繋がるので、山口県内にある数多くの魅力的な地域が、修学旅行での関わりから、住んでみたいなとか、例えば、大学行ってみたいなとかそういう人がどんどん増えていくような取り組みになることを願っています。

    地域課題という言葉を耳にすることは増えたと思いますが、「自分事」として積極的に考える機会は少なかったりするので、市外の若い人たちが、外から考えてくれことは、どの市にとっても有難いと思います。すぐに直接的な課題解決繋がらないにしても、新しい視点から課題が見えてくることは、非常に価値があります。新たな地域の魅力が見つかる可能性もあるので、地域のPRに繋げたいと思います。

    米紙が山口市を「行くべき旅行先」に選定
    今年1月、米紙「ニューヨーク・タイムズ」が「2024年に行くべき52カ所」で、メキシコ・アメリカ・カナダにかけて皆既日食が縦断するコース上の北米エリア(2024年4月8日に出現済み)、オリンピック・パラリンピックが開催されるフランス・パリに次いで山口市を3番目に選定。「西の京都とも呼ばれ、過度な観光客に悩まされることが少ないコンパクトな都市」と紹介され、海外から注目が高まることが期待されている。ちなみに4番目はニュージーランド、5番目はハワイ・マウイ島。画像は同報道を紹介する山口市のホームページ(上画像)と伊藤和貴・山口市長のコメント(下画像)。

    内山:まずひとつは、クラブの社会的な価値が高まると思います。非常に話題性もあるので、シャレン!が分かりやすく伝わることを期待しています。あとは、長期的な目線や視点ですが、学生の皆さんにJクラブの使い方(連携方法)を知っていただいた上で、社会に出て活躍してほしいですね。

    例えば、どこかの自治体でレノファ山口FCを使ってもらったりとか、入社した企業が我々のパートナー企業になるかもしれない。そういった若い方々が、使い方としての連携方法をなんとなく知った上で、社会課題解決に繋がる事例が増えると思っています。

    Jクラブ×修学旅行

    金井:1月から事前学習を開始していますが、学生が山口市やレノファ山口FCのファンになり、 1人でも多くユニフォームを着て修学旅行に行きたいですね。山口市の皆さんにも修学旅行として行く学校名や生徒の顔など、1人でも多くの方々と交流することで知っていただいて、双方向にインパクトを残せたら嬉しいです。一生忘れられない修学旅行にできたらなと思います。

    内山:先生など学校関係者の皆さんや学生もそうですが、保護者の方にも山口に行ってよかったなと感じていただけるように頑張りたいと思います。そして、この取り組みが全国に広がっていけばいいなと。私たちJクラブの強みは、クラブ間の良い取組を横展開できることだと思いますので、初の取組として成功させることで、全国に広げていくきっかけになればと思います。

    田中:今後、この取り組みを通じて、山口市の魅力を大勢に知ってほしいなと思いますし、この取り組みは、本当に、関係人口を作ることに繋がってくると思うので、事例をどんどん作りながら、地方都市の良いところを知ってもらい、住んでみたいなとか、例えば、大学行ってみたいなとか、そういう若者がどんどん増えていくような取り組みにしていきたいです。

    ~今回のまとめ~
    行政改革に繋がるヒント

    前後編にわたり、新たなスポーツツーリズムに繋がる取組として、山口市とレノファ山口FCによる「Jリーグ×修学旅行」についてご紹介いたしましたが、背景には次のような社会課題がありました。

    社会課題
     ・コロナ禍で影響を受けた観光産業
     ・コロナを経た観光ニーズの変化
     ・観光詰込み型の修学旅行からの脱却

    今回のまとめですが、「スポーツチーム×自治体」という新たな公民連携が地域にもたらすものとして、「スポーツツーリズムの新たな可能性」を見出せました。それは、従来の「モノを見に行く」観光としての修学旅行から、「コトを体験しに行く」探究的な修学旅行のはじまりです。
    例えば、「地域とスポーツの可能性」を新たに見出した山口市のように、歴史的建造物のような「モノ」がない地域でも、プロスポーツチームのような独自の「コト」が創り出す魅力を組み合わせることにより、これまで人気だった修学旅行地だけが、旅先として選ばれる訳ではなく、全国どの自治体でも旅先に選ばれることが分かりました。
    また、修学旅行として多くの生徒が訪れるので、地域に宿泊費や飲食費などの経済循環が生まれて、持続可能な連携が成り立ち、地域の観光業者の組合の方々に大いに喜ばれているそうです。
    この修学旅行がきっかけで、大学の卒業旅行や同窓会など、次なる観光を呼び込む可能性もおおいにあり、思い出の地となった「山口市湯田温泉」に再び泊まりレノファ山口FCの応援に駆けつける若者たちが目に浮かびます。


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