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低価格な「“国産”一般流通材」を使う~前編

    低価格な「“国産”一般流通材」を使う~前編

    【自治体通信Online 寄稿記事】従来工法より低コスト~杉戸町の「公共施設木造化」実践ノウハウ②(杉戸町職員・渡辺 景己)

    公共施設の木造化は従来工法と比べてコストが高い―。こうした“常識”を独自の手法で覆し、注目されている杉戸町(埼玉)。その“実践ノウハウ”を公共木造化を推進している同町職員の渡辺 景己さん(建築課 主幹)に公開してもらう本連載の第2回は、住宅建築などに使われていることから割安で入手できる「一般流通材」を公共施設に応用する方法について。民間で大量生産されている一般流通材は公共施設に適さないと考えられてきましたが、工夫次第で十分に対応できるようです。
    【目次】
    ■ 木造や木材の特性を知る
    ■ なぜ国産材を使うのか?
    ■ 国産材の価格特性
    ■ 樹種及び材種別の特徴

    木造や木材の特性をよく知る

    前回もお話しした通り、公共施設を木造で建設しようとすると高いと言われます。現に他の構造の施設より割高な公共木造施設は多数存在します。
    (参照記事:林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」)

    一方で日本の住宅業界でいちばん普及している建物は木造住宅です。理由は手ごろな価格や地域に根差した建設への普及体制にあります。コストを抑えた公共施設木造化を実践する際には、このリーズナブルな木造住宅の価格特性に大いに着目する必要があります

    但し、木造住宅で注意しなければならないことは(最近では平成14年を底に再び国産材が持ち直しつつあるものの)主原料である木材が昭和30年代から徐々に国産材から外国産材(以下、外材)に代わって来たことです。(下グラフ参照)

    林野庁「平成30年木材需給表」より
    林野庁「平成30年木材需給表」より

    外材にシフトした主要因は、価格と供給体制です。外材の場合、木材の維持管理や伐採・製材・出荷までのコストが日本への船代を入れても安かったのです。そのため国産材から徐々に外材にシフトしていきました。

    また、なぜ外材の方が安いのかと言うと、急峻な山の木である日本に対して外国ではそれほど急ではない場所に豊富に木があるほか、広大な土地から来る豊富な木材生産量は日本と全く違うなど、生産効率化の面でかなりの違いがあります。

    なぜ国産材を使うのか?

    それでも日本の木を使って建てて上げることが理想です。木材は国や地域により樹種や育ち方が違います。よく「日本の木材で建設すると日本の気候に馴染んだ建物になる」とも言われます。

    そして、日本は国土面積のおよそ7割が森林ですが、その森林における蓄積量が人工林においては、この半世紀で5倍以上増加しています(下グラフ参照)

    林野庁「平成29年森林資源の現況」より
    林野庁「平成29年森林資源の現況」より

    これは戦後植林した人工林が育ってきていることが主要因で、人工林の約半数が主伐期(更新または更新準備のために行う伐採)を迎えつつあります。

    この伐採適齢期の木材を伐って使って、新たに植林するサイクルを実行することが森林資源の有効活用になり循環型環境社会の実践になります。こうした取り組みが「持続可能な社会実現」へのひとつとなり、SDGs達成にも貢献します。

    しかし、国産材利用が重要な施策だとしても公共工事である以上、価格を度外視して使う訳にはいきません。そこで次に「国産材を使うための価格特性」についてお話しします。

    国産材の価格特性

    国産材の価格は、
    ①一般流通材(主に住宅で使用するサイズの木材)か特注材
    ②樹種(杉、桧、唐松等)
    ③材種(製材(無垢材)、集成材、LVL、CLT等)
    ④産地(国内地域無指定材、地域材、外材)
    などの条件により異なります。低コストで実施する場合は、その特性を見極めないといけません。

    建設業界に限らず、どの分野においても機械化された大量生産大量供給システムの製品と一品生産の特注品のそれぞれが存在するケースがあると思います。例えばカフェのコーヒーなどは1杯100円前後のものから1,000円以上のものまで幅広く存在します。

    木造建築の場合、住宅に使用される「一般流通材」は前者に該当し、大黒柱などの「4面節無し特注材」は後者に該当します(下写真参照)

    「一般流通材」の柱材(左)と「4面節無しの太い特注材」の柱材(右)。“節”(黒矢印部分)が多いため価格が安い一般流通材の活用が低コストな公共木造の大きなポイント
    「一般流通材」の柱材(左)と「4面節無しの太い特注材」の柱材(右)。“節”(黒矢印部分)が多いため価格が安い一般流通材の活用が低コストな公共木造の大きなポイント

    一般流通材とは、文字通り一般に流通させるために機械化されたシステムにより大量に生産された木材です。

    一方の特注材の中でも大黒柱などに利用される4面節無し材とは、寺社仏閣や復元されたお城の本丸御殿などによく見かける表面の4面全てに節の無い太い木材です。節を表面に見せないために樹木が成長する過程で枝落としを行っていますので、たいへん手間暇かけて育てているのが特徴です。当然価格も高くなります。

    前者の一般流通材に着目するのが低コストで公共木造施設建設を実践するポイントです。

    樹種別の特徴

    次に、一般的に使用されている材である、杉・桧・松系(唐松)の3つの樹種別の特徴をお伝えします。

    杉材
    日本で最もポピュラーな材は杉材です。杉材は他の材よりも発育が早く、その結果、桧材より早く建材で使用するサイズに生育するため、コスト的には桧材より安価で手に入ります。しかし、発育が早い分、材料重量は軽く、強度の面では桧材より劣るので、注意や工夫が必要です

    最もポピュラーで価格も安い杉
    最もポピュラーで価格も安い杉

    住宅用一般流通材として安価で入手しやすいサイズは、柱材の場合は幅105㎜~120㎜の正角材(正方形の材)で長さは3~4m材です。横架材(梁や桁)の場合は幅105㎜~120㎜の梁せい(高さ)400㎜以内で、長さは3~4m材であります。

    梁で使用する場合、松系などの強度のある材よりも多少のサイズアップが必要になる場合が多いです。

    桧材
    桧材は材の性質から芯持ち材(木の年輪の中心部のある材)は防蟻効果があると言われ、土台に使用されたりします。また、その香りの良さや強度から柱にも使用されます。但し、価格特性としては杉材に比べて高級感もあり割高です。

    杉材に比べて割高な桧
    杉材に比べて割高な桧

    発育が遅いことから住宅サイズ(105㎜~120㎜角)の柱や土台などの小さな断面の正角材であれば杉材より少し高いくらいですが、大黒柱など住宅サイズを超える柱材や梁材になってくるとかなり割高になってきます。

    松系
    松系の材において国内で多く使用されている国産材が唐松です。唐松は国内でも寒冷乾燥地域で取れる木材です(ちなみに、杉戸町がある埼玉県ではそれほど多く取れません)。それでもその性質から横架材の梁等に適しているため、杉戸町においても使用してきました。

    横架材の梁等に適している唐松
    横架材の梁等に適している唐松

    但し、反りやねじれが大きいなど不安要素があることから杉戸町においてはその不安要素を解消しやすい集成材を使用してきました。唐松集成材は住宅で使用される幅や梁せいであれば長さ6mまではそれほど高価ではありません。

    (「低価格な『“国産”一般流通材』を使うコツ~後編」に続く)

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    本連載「従来工法より低コスト~杉戸町の「公共施設木造化」実践ノウハウ」のバックナンバー
    第1回:林業なき“まち”が証明した「公共木造は低コスト」

    渡辺 景己(わたなべ かげき)さんのプロフィール

    前橋工科大学建築学科卒。鶴ヶ島市(埼玉)職員を経て、前橋工科大学に入学し建築を学び、杉戸町(同)の職員に。現在、建築課主幹。一級建築士、一級管工事施工管理技士、第二種電気工事士など建築系の幅広い資格を取得。木造については設計・施工ともに経験があり、埼玉県木造建築技術アドバイザーとして他自治体への講師も務める。

    <連絡先>
    電話: 0480-33-1111 (杉戸町役場)

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