【自治体通信Online 寄稿記事】
これからの時代の公務員が「幸せ」になる働き方 #9(さいたま市職員・島田正樹)
あらゆる働き方が流動化しており、公務員の世界もその例外ではありません。今回は、かつてのように“公務員は一生安泰”と言えなくなりつつある今、人生を自己決定できる公務員になるための「学び」のあり方について考えます。
はじめに
2022年がはじまって間もなく2カ月が経ちます。
今年こそは何か学ぼう、そんな目標を立てたひともいるのではないでしょうか。大人になってからの学び。とても大切ですが、何を学ぶのか悩みますよね。
特に私たち公務員の場合、業務に関連する知識を深めることに対して「異動したら役に立たなくなるのに」と考えるひともいれば、「この部署に来た今だから学べること」と考えるひともいます。
今担当している業務に直接関係のないこと(例えば資格取得)まで対象を広げれば、なおさら何を学ぶのか、なぜ学ぶのか自分で自分に問うことになるでしょう。
そんな公務員の“大人の学び”について考えてみたいと思います。
大人になって学んでいるひとは少数派
“自らの意志で学ぶのは 雇用者の3分の1”―。
この数字を見て、皆さんはどんなふうに感じるでしょうか?
「そんなに多いの?」でしょうか。
「そんなに少ないの?」でしょうか。
リクルートワークス研究所が実施している「全国就業実態パネル調査(JPSED)」という調査によると、雇用者のうち「(この1年間に)自己学習を行ったひと」の割合は34.7%(2020年実施)だったそうです。
(参照:全国就業実態パネル調査(JPSED)=https://www.works-i.com/surveys/panel_surveys.html)
この「自己学習を行ったひと」とは、「あなたは、昨年1年間に、自分の意志で仕事にかかわる知識や技術の向上のための取り組み(たとえば、本を読む、自分で勉強をする、詳しい人に話を聞く、講義を受講する、など)をしましたか」という問いに対して「はい」と回答したひと。
言い換えれば7割近くのひとは、過去1年間に、職場のOJTやOff-JT(研修)とは別に自分の意志で仕事に関わる知識や技術の向上のための取り組みを一切行っていないということです。
もし、これを読んでいるあなたが学ぶ習慣を身に付けているとしたら、それだけで3分の1の側に入っていることになります。
人生100年時代、教育を受けて新卒で企業に就職し、定年退職まで働いたら引退して年金暮らしというライフステージを歩むことが難しくなりました。
その結果、職業を問わず一度身に付けた知識やスキルを磨き続ける、または新しく身に付けることが求められるようになりつつあります。リカレント教育(*1)やリスキリング(*2)といったキーワードを目にすることが増えてきたのは、そういった変化が関係しています。
*1:リカレント教育=学校教育から離れた社会人が、それぞれのタイミングで仕事で求められる能力等を学び直すこと。OJTやOff-JTも含まれる
*2:リスキリング=今後新たに発生する業種や職種に順応するための知識やスキルを習得することを目的に、人材の再教育や再開発をする取り組みのこと
「大人になっても」ではなく「大人になったからこそ」学び続ける。そんな時代が始まり「学べる人材」であることの価値が高まっているのです。
公務員は学び続ける職業
普段あまり意識しないかもしれませんが、そういった時代になる前から公務員は学び続ける職業です。
人事異動によってまるで転職のように仕事が変わることで、定期的に学び直していますよね。
3年から5年に一度、3月まで所属した部署での経験も知識もスキルも一旦脇に置いて(完全に捨てるわけではありませんが)、4月から新しい部署で初めての制度や知識を学び、現場に立ちます。
また、時代の変化に伴う新しい要素もあります。
自治体の現場は、住民一人ひとりの価値観やライフスタイルの多様化、新しい技術の登場、そして人口減少や成長から成熟フェーズへの移行など、これまで直面したことのない社会の変化と向き合っています。
上司や先輩が身に付けた20年前の知恵やスキルで乗り越えられない課題が山積し、若手・中堅は自らの力で必要な知識やスキルを学ぶことが求められるのです。
併せて、私も含めた40代以下の公務員は、公務員ではない仕事も経験する可能性が高まっています。若手・中堅で他業種に転職するひとも増えていたり、定年から年金支給開始年齢までの働き方も不透明です(再任用制度もこの先…)。
少なくとも今採用されるひとたちに「40年間、あなたの身分は必ず守るよ」と約束できる首長も人事もいないのではないでしょうか。
「学び続ける人材」でいることは、自らの手で自律的なキャリアをつくるという意味でも、人生全体における重要な戦略なのです。
何を学ぶのか
では、そんな時代に何を学ぶのが正解なのでしょうか。
社会人が仕事に役立つことを学ぶ場はOJT/Off-JT/自己啓発の3つですが、ここでは自分で学ぶ内容も学び方も選べる「自己啓発」を想定して考えたいと思います。
こんなことを言うと元も子もないのですが、少なくともキャリア自律という観点では「これを学んでおけば間違いない」という「正解」はありません。正解探しに陥ることなく、そのときその場で求められることを柔軟に学び、身に付けられることが学び続ける力の強さです。
ただ、何を学ぶかを考える際の目安ならご紹介できます。ここでは2つご紹介します。
ひとつ目は、好きなことを学ぶといいということ。
大人の学びは、誰かに与えられるものではありません。自分の意志で学ぶのですから、どうせなら好きなことを選びましょう。好きなことというのは、興味・関心があること、知りたい、深めたいと思えることと言い換えてもいいです。
それは単なるわがままではありません。好きなだからこそ熱中でき、好きだからこそしっかり身に付くこともあるはずです。
ふたつ目は、実践する場面をイメージするということ。
効果的に学び、学んだことを自分の中に定着させるためには、実践する場面の存在が重要です。留学から帰ったあと使わなくなった英語が徐々に衰えるように、例えば何かの資格を取っても、その知識やスキルを使わなければ錆び付いてしまいます。
例えばファシリテーションであれば「他部署との会議の際に活かそう」「職場で研修をしよう」といったイメージをもちながら学び、実際に現場での実践を重ねれば学びが自分のものとして身に付きます。
学ぶことで自由になる
ちなみに、資格やスキルとは異なりますが拙著『公務員の働き方デザイン』(学陽書房)では「公務員にとっての新・自由七科」をご提案しました。
(参照:仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン)
何を身に付けたらいいのかという観点では、分かりやすい資格やテキストはありませんが、こういった力を身に付けることを考えてみるのもおすすめです。
自由七科とはリベラルアーツのこと。
自由七科に限らず、学ぶことはひとを自由にします。
知識やスキルによって考える世界が広がり、できることが増える―。そうやって学ぶことで自由を手に入れるわけですが、それは同時にキャリア形成そのものを自分で決める「キャリア自律」のはじまりでもあります。
自分の人生のハンドルを自分の手で握るために、皆さんも熱中できるテーマを見つけて、学び始めてはいかがでしょうか。
(「【公務員の“4月病”!?】人事異動“残留組”のモヤモヤこそ大切」に続く)
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島田 正樹(しまだ まさき)さんのプロフィール
2005年、さいたま市役所に入庁。内閣府・内閣官房派遣中に技師としてのキャリアに悩んだ経験から、業務外で公務員のキャリア自律を支援する活動をはじめる。それがきっかけとなり、NPO法人 二枚目の名刺への参画、地域コミュニティの活動、ワークショップデザイナーなど、「公務員ポートフォリオワーカー」として、パラレルキャリアに精力的に取り組む。
また、これらの活動や、公務員としての働き方などについてnote「島田正樹|公務員ポートフォリオワーカー」で発信するとともに、地方自治体の研修や「自治体総合フェア」等イベントでの講演を行う。2021年に国家資格キャリアコンサルタントの資格を取得し、個別のキャリア相談にも対応している。
『月刊ガバナンス』(ぎょうせい)や『公務員試験受験ジャーナル』(実務教育出版)をはじめ、雑誌やウェブメディア等への寄稿実績多数。ミッションは「個人のWill(やりたい)を資源に、よりよい社会・地域を実現する」。目標はフリーランスの公務員になること。
2021年2月に『仕事の楽しさは自分でつくる! 公務員の働き方デザイン』(学陽書房)を刊行。
<連絡先>shimada10708@gmail.com