【自治体通信Online 寄稿記事】自分にしかできない仕事を企画 実践できる自治体職員になる#2 (糸島市 経営戦略部企画秘書課 行政改革推進係長・岡 祐輔)
「自治体職員が『学びたい』『おもしろそう』と感じたことを学び続け、リスキリングしていくことが“まち”をより良くしていく」。こう話すのは糸島市(福岡県)職員の岡 祐輔さん。本連載ではリスキリングの成果を仕事に活かして「* 糸島市マーケティングモデル推進事業」を推進するなどした岡さんが自身の体験等を踏まえて「自治体業務に活かせる実践的リスキリング法」をお伝えします。第2回は、自分に合ったリスキリングの見つけ方について。
目的+長期で考える
私が「行政分野で民間経営が使えるのでは」と感じたように、実務で現場にいる人こそ、そのスキルを活かせるところに気づきやすいと思います。一方で、素晴らしいスキルを持っている人がいても、まったく自治体職員の仕事を知らないまま、どこに応用すれば高い効果が得られるかを判断し、そのスキルを活かすことは至難です。
本連載の第1回 で書いたように、私の場合、自治体職員として、職場でも、地域でも頼りにされ、活躍できる姿を目指していました。(参照:自分にしかできない仕事を企画・実践できる自治体職員になる#1)
その中で、どのようなスキルを選択するかを考えていくのですが、まずはどうなりたいのか、将来の自分を、ぼんやりでもいいのでイメージし、リスキリングの目的を考えてみる ことが大事だと思います。私の場合のリスキリングの目的は「行政に経営学を取り入れるため」であり、その目的を達成するため「経営学のスキルを学び直す」というリスキリングを実践しました。
“自分はどういったリスキリングをしていけばよいか”を考える際に、陽明学者・哲学者・思想家として著名な安岡 正篤さんが言われた『思考の三原則』に則ることをおすすめします。安岡さんは、考える方法を「木の幹」「成長」「枝葉」に例えています。この思考法は、私たちのリスキリングを考える際にも適用できます。
長期的視野・投資・仲間・目的と“枝葉”の整合性
まず、木の根幹は「何のためにやるのか」という目的です。あなたがこれから伸ばしたいスキルは「何のためにやるのか」を最初にしっかり考えておくことが重要です。自分がどういう存在になり、だれのために役立てるかをイメージできるものでなければなりません。
次に、その木が太く大きく伸びるかどうか、長い目で成長を見ましょう。たとえば「そのスキルや資格は、将来AIによって不要にならないか」といった具合に長期的に考えることは重要です。
そして、キャリアアップを考えている人たちにとってリスキリングは「投資」と考えられますが、投資であるがゆえに有料でのリスキリングをおすすめします。無料講座ばかりだとエッセンスに絞られるので、体系的に学ぶことができません。一度は基礎から体系的に学べば、そのあとは自分でエッセンスを習得しながらスキルを深めていけます 。
さらに、仲間づくりやコミュニティへの参加をおすすめします。ひとりだとやめてしまったり、挫折してしまうことも、学ぶ仲間やコミュニティがあると継続の動機にもなります。
私の場合、MBAを取得するために入りなおした大学院の学費を始め、入庁当時から統計・マーケティングなどの有料講座の受講、プログラミングコミュニティへの参加などでスキルアップを図りました。そして、リスキリングを開始して10~15年以上経って、徐々に仕事に活かして認められたり、著書を書いたりできるようになりました。
目的に向かって長期的に進むうちに「枝葉」が増えていきます。私の場合、民間の手法に関連して、プログラミングや統計分析などの関心の高いスキルも出てきて、講座を受けたり、本を読み込んだりするようになりました。いまは安価に、夜間や休日のオンライン講座も活用できて便利な時代になりました。
強調しておきたいのは、それらひとつひとつの「枝スキル」は、「経営学を行政に取り入れよう」と考えた当初の目的志向から得られたものだ、ということです。
長期的視野、金銭の支出をともなった投資、仲間づくり、「目的と枝葉」の整合性―。この4つのポイントが大切
学びと実践の繰り返しが刺激的なイノベーションをつくる
仕事の現場でも、行政分野に民間経営手法が活かせることが増え、民間経営を取り入れる風潮を実感することが増えました。さらに、IT教育、ベンチャー支援など、同じ教育、産業などを昔と比較しても、民間セクターと一緒にやらないとできない仕事が増え、これまで行政の業務にはなかった新しい知識や専門性を獲得しなければついていけない時代になっています。だからこそ、自治体職員がスキルを高めることで地域に貢献できる度合いも大きくなり、より質の高いサービスを提供できるようになるのだと考えるようになりました。
実際に私がこれらのスキルを使って地域ブランド戦略を考えるときには、ブランド理論と分析手法を組み合わせ、地元食材のPR方法を考えたり、地域事業者の皆さんが市外の人たちと協働できる仕組みをつくったりしました。
また、産官学連携のマネジメント手法を駆使して、企業との連携事業をいくつか実現したり、データやマーケティング手法を使うことでふるさと納税の寄附額を何倍にも伸ばしたりする仕事をさせてもらいました。また自分のスキルを測るためにコンテストで力試しをしたり、学会で発表したり、検定を受けたりする機会もつくってきました。
身近な改善も多々あります。市のシステムから吐き出すExcelの個票を一覧表にしたいけれど、そのためには20,000回のコピペ…。絶対にしたくありませんよね(笑)。これはプログラミングを使えば、5分で一覧表にしてくれます。市民満足度調査のアンケート分析で役立つ統計学やテキストマイニング(自然言語処理により、言葉の頻出度や関連等を分析し、有益な情報を探し出す技術) 、公的データを地理的に解析ができるGIS(Geographic Information Systemの略で、地理的位置を手がかりに、位置に関する情報を持ったデータを総合的に管理・加工し、視覚的に表示し、高度な分析や迅速な判断を可能にする技術。地理情報システム) など、民間手法に関連して使える枝葉スキルがたくさん身に付き、実践で活用できました。
目標を設定し、逆算して「そのためには何が必要か」を導き出し、獲得すべき知見を学び、学んだことを仕事に活かして、行動して壁を乗り越えていく―。これを繰り返せば、自分のスキルによって、仕事はおもしろくなって、刺激的なイノベーションができる ようになります。
■ 岡 祐輔(おか ゆうすけ)さんのプロフィール
糸島市 経営戦略部企画秘書課 行政改革推進係長/MBA(経営修士)/Ph.D(学術博士) 2003年に糸島郡二丈町(現・糸島市)に入庁。民間の経営手法を公共経営に活かすため、仕事の傍ら、九州大学ビジネススクールに飛び込み、MBA取得。九州大学大学院博士課程で経済地理学を専攻・修了し、2023年3月に博士号を取得。2023年4月より現職。
受賞歴 2015年:QBSビジネスプランコンテスト準優勝 2016年:内閣府地方創生☆政策アイデアコンテスト・地方創生大臣賞 2017年:内閣府地方創生☆政策アイデアコンテスト・帝国データバンク賞 2018年:HOLG地方公務員アワード賞、QANアワード最優秀賞
■ 著書紹介
※書名をクリック・タップすると版元の著書紹介ページに移動します。
『スーパー公務員直伝! 糸島発! 公務員のマーケティング力』 (学陽書房) 「アイデアがあってもどうせ組織では何もできない」など、これまで政策アイデアの作り方や実現方法に悩んでいた方に、経営学、特にマーケティング手法をベースにした政策アイデアや実現方法を自治体の事例に沿って解説。1年目の新人職員はもちろん、若手・中堅職員・ベテラン・管理職問わず、新しいことに挑戦したい方ならどなたにとっても仕事の羅針盤となる一冊。
『地域も自分もガチで変える! 逆転人生の糸島ブランド戦略』 (実務教育出版) 福岡県の最西端に位置する「糸島市」。海があるだけ・自然があるだけ、だったまちが「行ってみたい」「住んでみたい」人気のまちへ。置かれた場所で挑戦しては壁に当たり乗り越えてきた公務員の実話。お役所仕事のイメージを覆し、「糸島ブランド」を発信し続ける著者が、若手公務員・若手サラリーマンへ、その手の内を明かす。
『ゼロからわかる! 公務員のためのデータ分析』 (学陽書房) 自治体職員の方々に向けて、自身のスキルひとつでデータを思う存分に活用できるようになるための考え方と方法やアイデアをとことんわかりやすく紹介。日々の実務で求められるアンケート、インタビュー、行政評価といった方法をより正確に、かつ効率的にすることはもちろん、その実践事例、今日から活かせるスキルが手に取るようにわかる!