アクティブ・ラーニングについて
アクティブ・ラーニングとは、生徒が積極的・能動的に取り組むのを可能にする学習方法です。文部科学省は、平成29年度に作成した「新しい学習指導要領の考え方」で、アクティブ・ラーニングの重要性を強調、「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」という3つの視点を立ち上げ、それをもとに授業展開することを提案しています。
文部科学省がアクティブ・ラーニングの導入を推進する背景には、現代社会の特徴があります。これまではあらかじめ用意されたことや、上から出された指示に対し、できるだけ速くこなすことが求められてきました。ですが現在はテクノロジーの発達により、常に新しい技術や知識が誕生しています。人々が予想する以上の発展を続けるテクノロジーの登場で、従来の受動的な教育では、新しい時代に適応できないのではという危機感が生まれました。
次世代を担う子どもたちは、自分たちの資質や能力を伸ばし、目まぐるしく変化する社会の中で、適応する力が必要になります。また、多様化する社会では、異なる価値観を持つ他者の存在を認め、協力し合うスキルも求められます。
子どもたちの主体性を育てるアクティブ・ラーニングは、これからの教育に重要な役割を果たすと、文部科学省は考えています。アクティブ・ラーニングが提唱する3つの視点を通して、「生きて働く知識・技能の習得」「未知の状況にも対応できる思考力・判断力・表現力などの育成」「学びを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力・人間性の涵養(かんよう)」という、「育成すべき資質・能力3つの柱」を伸ばすことが期待できます。
事例1:「主体的・対話的で深い学び」の実践(千葉県千葉市)
千葉県千葉市は、アクティブ・ラーニングについて、組織的に取り組んでいる自治体のひとつです。「主体的・対話的で深い学び」という、アクティブ・ラーニングのコンセプトを学習指導案に盛り込み、授業内容の改善を推進しています。
千葉市内にある複数の小中学校では、授業を通して「育成したい資質・能力の3つの柱」(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」)を設定、授業のゴールとしています。授業の実践は、アクティブ・ラーニングの視点(「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」)をベースに行われます。
ある小学校の国語の授業では、絵を見て話を聞いた後、生徒たち各自がオリジナルの本を作るというテーマで、アクティブ・ラーニングが実施されました。授業の目的は、語彙を増やしたり、助詞や句読点の使い方を学んだりする(知識・技能)、文脈に気をつけながら話を書いたり、自分の文章の内容や表現の良い点をみつけたりする力をつける(思考力・判断力・表現力等)、3枚の絵をもとに話の想像を広げたり、お互いに感想や考えなどを伝え合ったりする(学びに向かう力・人間性等)などです。
生徒たちが主体的に本作りに取り組む意欲が出るように、地元の図書館職員の協力を得て、豆本の作り方を紹介しました。さらに豆本が図書館で貸し出しされている事実を生徒たちに告げることで、生徒たちの好奇心を刺激します。
対話的な学びは、課題に対して生徒たちが対話しながら進められることを可能にしました。たとえば、読み聞かせの段階では、生徒たちが絵本の主人公と対話するという状況を作り出します。本ができた段階では、本をクラス内で発表し合うことで、他の生徒たちと感想を伝え合いました。
生徒たちが3枚の絵を使って話をふくらませる作業は、アクティブ・ラーニングで言う、「深い学びの視点」に入ります。生徒たちは各自本の舞台を設定したり、登場人物の性格を決めたりと、自由に想像力を働かせていきます。ワークシートをもとに、話がまとまりのあるものになるよう導くのが、指導する側のポイントになります。
授業のはじめの段階で生徒たちが豆本作りに興味を持ったことで、ゴールに向かって主体的に活動することが可能になりました。また、文章表現の推敲や書き方の工夫にも積極的に取り組む生徒が多く、アクティブ・ラーニングによる授業の効果が、授業の随所に見られました。
事例2:アクティブ・ラーニングの視点を活用した独自の教育システムを展開(埼玉県戸田市)
埼玉県戸田市のアクティブ・ラーニングプランは、子どもたちが「汎用的スキル(授業で身につけた力を実社会に応用できるスキル)」「21世紀型スキル(企画力や問題解決力、コミュニケーションスキルなど)」「非認知スキル(自制心や協調性など)」の3つを身につけることを目標としています。
目標を達成するために戸田市では、小中学校の授業改善に必要な要素についてまとめた、アクティブ・ラーニングルーブリックを独自に開発しました。ルーブリックは「指導用ルーブリック」「自己評価用ルーブリック」「資質・能力ルーブリック」の3種類があり、アクティブ・ラーニングに対する評価や授業内容の向上に活用されています。
さらに戸田市では、民間企業と共同で開発した授業分析システムを複数の小学校に導入、指導内容や生徒の反応などを細かく分析することで、改善点の発見につなげています。アクティブ・ラーニング実践のバックアップシステムやチェック機能を強化することで、授業に積極的に取り組む生徒が増えたり、生徒同士の対話が増えたりするなどの効果が見られています。
事例3:アクティブ・ラーニング導入での基本構造を改善(奈良県)
奈良県では、従来の学習評価に対する課題を抱えていて、指導と評価の一体化を明確にすることが必要であると考えました。問題を解消するために奈良県教育委員会が推進しているのが、アクティブ・ラーニングです。
子どもたちが身につけるべき資質・能力の3本の柱をもとに、新学習指導要領を整理することで、新しい学習評価のスリム化に成功しました。その学習評価も、これまでは技術的なもの(書く力や読む力など)がほとんどでしたが、表現力や主体性なども評価の対象になります。
アクティブ・ラーニングは、新学習指導要領の実践に関係していますが、導入することで指導事項が整理され、より具体的にかつ実践的になりました。たとえば、発音の授業(国語)では、これまで発音の仕方や姿勢などに指導ポイントが置かれていましたが、発音の仕方に注意することと同時に、状況に応じて声の大きさなどを工夫するなど、発音に関する考え方や見方に深みを持たせることが可能になりました。