「AIによる問い合わせ支援サービスの実証実験」(神奈川県川崎市)
神奈川県川崎市では、AIを活用した問い合わせ支援サービスの実証実験を行いました。
同市が実証実験に至った背景には、以下の要因があります。
①超少子高齢化社会による労働人口減少
②多様化する市民ニーズへの対応
③行政職員の働き方・仕事の進め方改革の推進
また、平成28年12月に「官民データ活用推進基本法」が施行された他、翌年の平成29年5月には「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」が閣議決定され、国の取り組みとして「ITを活用した社会システムの抜本改革」を推進していることが関係しています。以上の観点への対応策として、急速に進化を遂げているAI等の新技術を活用し、行政サービスの質の向上及び行政職員の事務効率化を図りました。平成29年度の実験では上記の観点に加えて、平成28年度の実験で得られた課題や利用者アンケートに基づき、更なる対応策の検討を行っています。
主な検討内容は以下の通りです。
①対象分野を行政サービス全般へと拡大
②雑談性能の向上
③投入するデータの質的・量的向上
まず、「子育て支援以外でも使えるといい」という要望が最も多かったことを受け、対象分野の拡大を行い、行政サービス全般に対応できる総合問い合わせ支援サービスとして再構築し、市民に提供を行いました。次いで多く挙げられていた「雑談がもっとうまくなるといい」という要望から、雑談性能向上についても検討を行い、回答不能時の返答やキャラクターに関する質問への回答にバリエーションを持たせる等の対応を行いました。さらに、今後AIを効果的に活用するための課題として、「投入するデータの質的・量的向上が必須である」という認識に至りました。
これを受けて、より広範囲かつきめ細かな受け答えが可能となるよう、AIの返答に本市ホームページで公開している「よくある質問(FAQ)」のデータを追加しました。この施策の成果として、川崎市が平成29年度実験で公開したサービスは、利用者が入力した質問をAIが解釈し、あらかじめ登録された行政サービスに対する質問と回答データに基づいて回答するという、チャット形式のWEBサービスとなっています。
入力された情報に対応するQ&Aの候補が複数存在する場合は、選択肢を提示する他、回答後に関連性の高いキーワードを表示するなどの機能も実装されており、利用者との対話を通じてニーズに合わせた案内ができるようになっています。
これによって得られるメリットは、以下の通りです。
①市民の利便性向上
②各窓口の問い合わせ削減
上記のAI活用により、24時間いつでも気軽に問い合わせが可能となり、市民の利便性が向上します。さらに、市民が当該サービスによって知りたい情報が得られることで、コンタクトセンター及び業務書管理課などの各窓口に対する問い合わせが減少し、職員の問い合わせ対応業務を削減することが可能となります。
同市が平成29年度に行った利用者アンケート結果によると、市民の回答結果では「大変便利」又は「まあまあ便利」と回答した割合が60%、「あまり便利ではない」又は「便利ではない」と回答した割合は20%となりました。その一方で、川崎市職員の回答結果では「大変便利」又は「まあまあ便利」と回答した割合は28.3%となっており、市民と比べると利便性を実感できた比率は大幅に減少しているものの、利便性を実感できなかったと回答した割合はほぼ同程度となりました。
今後のAIサービスの継続利用については、市民の回答結果では9割以上が継続意向を示し、川崎市職員についても8割以上が継続意向を示しており、チャット形式による問い合わせ支援サービスは今後も広く需要が高まり、更なるAIの向上及び発展が期待されていることが窺えます。
「AI自動応答サービス教えて!道風くん」(愛知県春日井市)
愛知県春日井市では、未就学児の子育て支援の一環として、AI自動応答サービス「教えて!道風くん」を導入しました。
当該サービスが対応することが可能な質問は、以下の通りです。
①児童手当の申請
②誤飲した場合
③育児相談を受けたい
④保育園に入園したい
⑤子供の医療費助成
⑥保育園の給食メニュー
未就学児の育児で疲労している市民にとって、行政施設の業務時間内に合わせることは難しいケースが多く見られます。その対策として、創設されたAI自動応答サービスは、24時間365日場所と時間を選ばず子育てに関する質問に応答が可能であり、市民の心強い味方となってくれます。
質問方法は、2つあります。
①画面下の入力スペースに直接質問を入力する
②選択肢から質問を選ぶ
相談する際にうまく話せないといった方や漠然とした疑問であるといった場合でも、「教えて!道風くん」は柔軟に質問方法を選択でき、質問の意図を汲み取ってくれるため、気軽に相談しやすくなっています。AIの精度は、時折答えに詰まることがあるものの、やり取りによって学習する機能を実装しており、今後の発展が期待できます。
「市民のライフスタイルを重視するAI総合案内サービス」(静岡県袋井市)
静岡県袋井市では、AIスタッフ総合案内サービスの運用を開始しました。当該サービスは、市民の問い合わせに対し人工知能(AI)が自動回答するチャット形式のサービスです。これにより曖昧な質問であっても、AIが質問の意図や趣旨を把握しホームページ上に誘導することが可能となります。
AIスタッフ総合案内サービスの活用によって市民が得られるメリットは、以下の通りです。
①スマートフォン等から気軽に問い合わせができる
②知りたいことが曖昧でも、AIとのやり取りで必要な情報にたどり着くことができる
③24時間365日いつでも対応してもらえる
同市民が行政に関して質問がある際、電話をかけることや直接足を運ぶといった必要がなく、いつでもスマートフォンから気軽に問い合わせができることで、利便性が向上します。知りたい情報に対し曖昧な質問であっても、AIが対話によって関連情報を表示することや適切な回答を導き出すことで、市民が必要としている情報にたどり着けるようになるのです。
お問い合わせサービスにAIを活用することで、市民が行政機関の営業時間に合わせて行動する必要がなくなり、市民の多様なライフスタイルに合わせて利用できる点はメリットが大きく、今後も需要が高くなることが予想されます。
また、AIの回答精度については応答データを参照及び反映し、向上に向けて取り組んでいます。同市ではその一環として、AIサービスの利用終了後にwebアンケートを行っている他、チャットによる学習機能の搭載、全国標準のデータベースを利用することによるAI学習スピードの向上を行っているのです。
「LINEとAIによるチャットボットの実証実験」(兵庫県三田市)
兵庫県三田市では、LINE(ライン)とAIを使って24時間質問受付及び自動応答を行う「チャットボット」の実証実験を実施しました。チャットボットとは造語で、「対話(chat)」する「ロボット(robot)」という2つの言葉を組み合わせたものです。スマートフォン等から質問を入力すると、AI機能によって自動的に応答するプログラムの名称です。
同市が実証実験に至った背景は、超少子高齢化社会に起因して起こる以下の問題です。
①人口減少
②経済の縮小
③社会保障費の増大
④サービスの担い手減少
これらの問題は深刻な課題であり、地方自治体においても従来の手法による行政サービス維持が困難となっています。財源や職員などの経営資源が制約される中で、地方自治体が市民生活に必要不可欠な行政サービスを今後も提供し続けるためには、職員の事務負担や問い合わせ対応などの業務を軽減し、市民への直接的なサービス提供や企画立案業務などの職員でなければ実行できない業務に注力できる環境を整備する必要があります。
また、実験に至ったその他の要因として、以下のような社会的背景もあります。
⑤第三次人工知能ブームの到来
⑥インターネット・SNSの普及
コンピューターの処理速度向上やインターネットの発達によりAI学習に必要な情報を低コストで大量に得ることが可能となり、AI技術は飛躍的に向上を続けており、自治体にとってもサービス展開が欠かせないものとなっています。
同市では、「スマート自治体」への転換を図るため、以下を目的としています。
①ICT等の新技術による既存業務の自動化・省力化
②効率的に事務を処理する体制の構築
③市民サービスの向上
三田市では、ICT及びAI技術を利活用し、既存の業務を見直して自動化及び省力化することで、各職員の負担を削減し効率化を行います。それに伴って市民サービスが向上し、三田市職員と市民の双方にとってメリットが得られることとなるのです。同市は、市ホームページ及び広報誌への掲載、市施設へのチラシやポスターを設置し、市民の協力を呼びかけ、実証実験を実施しました。
チャットボットを利用する際の手順は、以下の通りです。
①利用者(実験参加者)は三田市が開設したLINEアカウント(実験用)に友達登録を行う。
②メニューから質問したい分野を選択し、メッセージ入力欄に任意の言葉で質問を入力する。
③入力された質問は行政システム株式会社提供のチャットボットサーバーを経由し、AIに送信される。
④AIが質問の意図を判断し、利用者のLINE画面に適切な回答を提供し、同市ホームページ上の該当ページにリンク案内を行う。
⑤回答終了後、利用者からの質問及びAIが行った回答はサーバーに記録される。
実証実験後の利用者アンケートによると、「大変便利」「まあ便利」と回答した割合は56.6%となり、「便利でない」「あまり便利でない」と回答した割合は43.5%という結果になりました。全体としては便利と感じた割合と不便と感じた割合がほぼ同じ結果となりましたが、年代別のデータでは年代が上がるほど「便利」と感じた割合が大きくなっていることを示す結果となりました。今後のサービス継続についても、「継続を希望する」が75.0%に達し、「希望しない」の25.0%を大きく上回る結果となっています。
また、実施を期待するその他の分野についてアンケートを行った結果は、以下の通りです。
(複数回答可)
①観光・イベント(52.2%)
②税金・年金(45.7%)
③健康・医療(44.6%)
④防災・防犯(39.1%)
⑤子育て(38.0%)
40~50代と比較的高い年代の市民からも支持を得ている点や継続を希望する割合の高さを見ても、チャットボットが既存業務の改善効果を上げていることがわかります。同時に、AI制度については今後も課題があり、回答精度を向上するとともに、個別性の高い質問や単語のみによる質問等にも対応できるよう検討を進めています。
「対応キャラクターロボ塚宝で親しみを」(兵庫県宝塚市)
兵庫県宝塚市では人工知能(AI)と無料通信アプリ(LINE)を活用した対話型サービスの実証実験を行いました。同市の取り組みの特徴は、当該サービスに親しみを持ってもらえるよう、問い合わせ対応用キャラクターとして「ロボ塚宝」を設定しました。
実証実験によって得られた効果は、以下の通りです。
①市民サービスの向上
②行政事務の効率化
実証実験後の市民アンケートでは、AIによる自動応答サービスが「便利」「どちらかというと便利」と回答した割合が6割を超える結果となりました。また自動応答のサービスが「あった方が良い」「どちらかというとあった方が良い」と回答した割合は9割に達し、AIによる自動応答サービスが有用であると判断した人が多いことが窺えます。
その理由として挙げられたメリットは以下のような点でした。
①市役所の業務時間外でも利用できる
②すぐに回答を得ることができる
これはSNSの特性を活かすことで、結果として市民サービスが向上したことが評価されたといえるでしょう。さらに庁内アンケート結果によると、「実際に導入されたら役に立つ」と回答した割合は半数以上となり、今後のチャットボットによる自動応答サービスへの期待は高くなっています。その一方で、いまだ回答精度が高くないことから、AIチャットボット導入後直ちに行政業務の効率化が図れるとはいえず、本格的な運用については課題も多くあることがわかりました。
同市では、今回の実証実験やアンケート結果から判明した以下の課題を、今後解決に向けて取り組んでいく方向です。
①AIチャットボットの回答精度の向上
②AIチャットボットが回答できる分野の拡大
③チューニング負荷の軽減
④利用者数の増加
回答精度の向上及び分野の拡大については、FAQデータの追加によってある程度改善を行うことが可能です。ところがそれに伴って、AIチャットボットのチューニングにかかる職員の作業が増大する問題が発生してしまいます。利用者数の増加については、市のサービスPR情報だけでなく、イベント情報等を提供し、問い合わせ対応以外のサービスを充実させて市民の関心を高めるとともに、利便性の向上を検討する必要があります。
「AIチャットボットによる子育て支援」(静岡県焼津市)
静岡県焼津市では、子育て支援AIチャットボットサービスを導入し、業務委託を行い、運用しています。同市がAIチャットボットによる子育て支援を提案実施しているのは、少子高齢化の進展に伴った様々な社会課題への対策として、子育て支援や教育を重点施策として位置付け、改善に向けて整備してきた背景があります。そのために焼津市では、「E-Government・YAIZU」と称したICTを活用して様々な分野において課題解決を図る取り組みを始めています。
その取り組みによって改善できる効果は、以下の通りです。
①同市の地域産業の活性化
②将来にわたり市民が快適に暮らすことができるまちづくり
焼津市では、それらを実現するための第一歩として、「子育て分野」でのICT活用を実施しました。
それによって得られる効果は、以下の通りです。
①24時間365日の子育て相談窓口が開設できる
②子育て世代へのサポートを整えることができる
③職員の負担軽減となる
④政策的な業務に充てる時間を確保できる
⑤子育て世代へのサービス向上へつながる
このように、子育て分野においてICTを利活用することで、市民のライフスタイルに合わせた相談方法と職員の業務負担を軽減し政策に注力できる余裕が生まれることで、子育て支援政策に取り組むことが可能となります。その結果として市民へのサポートが厚くなり、双方がメリットを得ることができます。焼津市では、AIチャットボットのプログラムの運営を業務委託し、職員は提供されたビッグデータの分析及び政策の立案を行います。これによりAIが回答できなかった内容を再学習させ、回答率の向上を図ります。さらに問い合わせ状況ログを分析し、住民のニーズを把握することで、新たな政策展開につなげ、市民の生活向上のために尽力することができるのです。